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マット運動「前転グループ」に必要な技術と効果的な運動

マット運動の技といえば前転や開脚前転などの前転グループの技を思い浮かべる人も多いでのはないでしょうか。

しかし、前転では何を指導すればよいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。

体育で取り上げられる技である以上、「何を教えるか」を明らかにすることは大事だと思います。

私は小学1年生からこれまで20年以上、目が回るほど前転をしてきました。前転の指導も9年ほどの間に数え切れないほどしてきました。また、大学院で前転についての研究もしました。

その中で、私の中で前転グループの指導法についての理論が少しずつできてきました。

そこで今回は、マット運動の「前転グループ」に必要な技術を明らかにした上で、準備運動やメインの活動でも取り上げられそうな効果的な運動について考えていきます。

前転グループの技と前転の究極の形

現在の学習指導要領解説において、前転グループは以下のような構造になっています。

前転グループ系統表

どの発展技にも共通するのは、前転が基本技であることです

そのため、前転の段階で前転グループ全体に必要な力を身につけておくことで、様々な発展技に挑戦することができます

その必要な力を身につけることができた前転の究極の形は以下のようになります。

究極の前転

腰が高く、かなりレベルの高い前転だと感じますが、以前の学習指導要領では「大きな前転」としてこの動きが例示されていました。

この「大きな前転」を一つの目標としていくのもよいかもしれません。

子どもが前転で学ぶべきこと

前転グループの技は大きく3つの技術が大切になります。

①支持
②順次接触
③伝導

これらの技術を体得することで質の高い前転を実施することができ、前転グループの様々な発展技を成功させることができます。

逆にいうと、この3つを体得できなかったとしても前転を成功させることはできます。しかしそれでは、「前転」から先に進むことができず、子どもたちは楽しさを味わうことができません。

そうならないためにも、この3つを身につけさせることが大切だと思います。

では、それぞれの技術を具体的に説明します。

①支持

これは、腕で体を支える技術のことであり、回転を始める際に必要な技術です。

具体的には、マットに手をつき、頭をマットにつけながらお尻を上げた時に、手と頭だけで体を支える技術のことです

この支持には、大きく3つの意味があります。

  1. 体をコントロールする

  2. 衝撃を和らげる

  3. 様々な運動につながる

1.「体をコントロールする」は、支持することで回転する方向をコントロールできます。

2.「衝撃を和らげる」は頭だけでなく腕も使って体を支えることで、体にかかる衝撃を和らげることができます。手をつかずに前転をすると、頭や首に直接強い衝撃が加わりますよね。支持することで、それを防ぐことができます。
特に、前転の発展技である「跳び前転」で非常に有効です。

3.「様々な運動につながる」は、発展技である跳び前転や倒立前転、跳び箱運動や鉄棒運動の多くの技でも支持が必要になるため、様々な運動につながります。


②順次接触

これは、後頭部ー背中ー尻ー足裏 というように、後頭部から順に、体の部位をマットに接触させていき、回転をスムーズにするための技術です

「ボールのように丸く転がりましょう」という指導を見たことはありませんか?

中にはその指導を受けた、もしくはしてきたという方もいるかもしれません。

これは「ボール理論」とも呼ばれます。

そこでは、体を丸くすることで回転をスムーズにすることを指導していると考えられます。

これは、順次接触の技術を身につけるために有効な指導だと思います。

しかし、その指導だけになってしまっては回転の勢いをつけることができず、その先の技にはつながりません

そこで重要になってくるのが③の伝導の技術です。


転がるボール


③伝導

これは「回転する勢いを足から上体に伝え、勢いよく回転する技術」です。

これがあることで勢いよく回転することができ、様々な発展技につなげることができます。

この伝導の技術を使うためには
1.腰の角度を開いて大きく回転する
2.足がマットにつくギリギリのタイミングで腹筋に力を入れ、一気に上体を起こす

ことが求められます。

前転グループの技の指導の際にはこの技術の指導が抜けている場合が多いのではないでしょうか。

過去の学習指導要領には「大きな前転」という技が例示されていたので、伝導を意識した指導がしやすかったのですが、現在の学習指導要領では削除されています。

そのため、意識的に伝導の指導をしていく必要があります。


3つの技術を身につけるための運動

前転グループの技に必要な技術を明らかにしたところで、次はその技術を身につけるための運動について深掘りしていきます。

なお、ここでは私が実践している運動や理論に基づいて効果的と考えられる運動をたくさん紹介します。
実際の授業ではこれらを全て実施するのではなく、この中から子どもたちのレベルに合ったものを選んだり子どもたちに選ばせたりすることが大事だと思います。

カエルの足叩き

支持力を高めるために行います。
どのような運動なのかはもうご存知ですよね。

メジャーですが、支持力を高めるためには効果的な運動だと思います。

ポイントは、マットについた手の真上に肩がくるようにすることです。
肩が前や後ろに行き過ぎると、体をコントロールするのが難しくなってしまいます。

手のジャンプ

支持力を高めるための運動で、イラストのように行います。

手のジャンプ

これができたら、手と足同時にジャンプします。


手足ジャンプ

これもできたら、跳んだ時に手を叩いてみたり、前後左右に跳びながら移動したりするのも面白いと思います。

この運動は、跳び箱運動の際には必ず行います。

跳び箱運動では、手のジャンプこそが跳び箱が跳べる跳べないに大きく関わってくるからです。

このへんについてはそのうち詳しくまとめてみたいと思います。

ハイハイ

支持力を高めるために行います。

これは、赤ちゃんがするハイハイと同じ運動です

低学年にはこのくらい優しい運動でもいいかもしれません。

ハイハイ競争なんかをしても面白いかもしれません。

手押し車

支持力を高めるために行います。

この運動はどのようなものかはご存知だと思います。

ポイントは、足を持ってあげる人の持つ位置です。

太ももや膝あたりを持つと強度が低くなり、足首にいくにつれて強度は高くなります。

子どもの運動能力に合わせて持つ位置を変えるといいと思います。

うさぎ跳び

支持力を高めるための運動で、以下のような運動です。


うさぎ跳び

子どもたちにさせると、ジャンプの後、手で着地するのではなく足で着地するカエルのようなジャンプになることがあります。

そのため子どもたちには「手ー足ー手ー足」と言いながらさせるとしやすくなります。

これができたら次のような動きを目指すといいと思います。

うさぎ跳びレベル2

はじめのものとの違いは、着いた手の位置に足を持ってくるところです
これはかなり難しいです。

しかし、上手な子は手の位置よりも足を前に持っていくことができる場合があります。
それがレベル3ということもできますが、他のレベル3もあります。

うさぎ跳びレベル3

違いがわかりますか?

違いは、最後の姿勢で上体が高く起きているところです。

これができるのは、手でマットを強く突き離しているからです。

ここまでくると支持力はかなり高いと言えるでしょう。

ちなみに、勘の鋭い方はもうお気づきでしょうが、これも跳び箱運動の際に取り上げるとかなり効果的です。

ゆりかご

順次接触の技術を身につけるために行います。
どのような運動なのかはもうご存知だと思います。

これもメジャーなものですが効果的です。

ゆりかご止まり

順次接触と伝導の技術を高めるために行います。
いい名前が思い浮かびませんでした。笑
以下のような運動です。

ゆりかご止まり

足を振り下ろした上で仰向けのまま止まろうとすると、腹筋に力が入ります。
この感覚が非常に大切で、伝導の技術には欠かせないものです。

足を強く振り下ろすほどこの感覚を味わいやすくなります。

足を強く振り下ろすと、仰向けで止まろうと思っても勝手に上体が起きてしまうこともあります。
こうなるとしめたものです。

高速起き上がりゆりかご

これは順次接触と伝導の技術を高めるためのもので、以下のような運動です。

高速起き上がりゆりかご

名前の通り、高速で起き上がるゆりかごです。

「高速で起き上がる」というところがまさに伝導の技術が必要なところであり、前転の発展技において重要になってきます。

高速で起き上がるためには、足が地面につくギリギリのところで腹筋に力を入れることが大切です。
これが上手くいけば、自然と上体が一気に起き上がってきます。

ゆりかご〜立ち上がる(両足)

これは順次接触と伝導の技術を高めるためのもので、以下のような運動です。

ゆりかご〜立ち上がる(両足)

高速起き上がりゆりかごと同じように、足が地面につくギリギリのところで腹筋に力を入れ、一気に立ち上がります。
つまり、ほぼ前転です。

ゆりかご〜立ち上がる(片足)

これは順次接触と伝導の技術を高めるためのもので、以下のような運動です。

ゆりかご〜立ち上がる(片足立ち)

上体を一気に起こし勢いよく立ち上がらなければこれはできません。

これをさせると足の力だけで片足スクワットのようにして立ちあがろうとする子が出てきますが、この運動はあくまで、勢いを使って立ち上がることをねらいとしているということは頭に入れてかなければなりません。
それを見抜いて、「足がマットにつくギリギリで腹筋に力を入れてごらん」と言えるかどうかが鍵です。

背支持倒立(首倒立)〜立ち上がる

これは順次接触と伝導の技術を高めるためのもので、以下のような運動です。

背支持倒立〜立ち上がる

「大きなゆりかご〜立ち上がる」と言い換えることもできます。

これは、腰を大きく開いて伝導の技術を使いやすくするために非常に大切な運動です。

前転を指導する中で最も難しいのは、腰を大きく開いて回転し始めることができないということです。

腰を大きく開くことで上体の勢いのある起き上がりができ、開脚前転や伸膝前転につながるので、この運動は準備有働などで毎時間行ってもいいかもしれません

技術以前に腹筋が弱い子のために、、、

上記で紹介した運動をご覧になって、
「いやいや、私のクラスの子達はそんなレベルじゃないよ。。。」
と思われた方もいるかもしれません。

それはもしかしたら、腹筋の力が弱い可能性があります。

そこで、以下のような運動をしてみるのもよいかもしれません。

  • 前転ジャンプ(前転をして立ち上がったらすぐに高くジャンプする)

  • 前転連続

  • 手つなぎ前転(友達と横に並び、片手をつないで同時に前転をする)

技術がどうのこうのということを考えず、このような運動をしてみるのもアリだと思います。

場づくり

最後に場づくりについてです。

今回紹介した運動は、基本的には普通のマットの上でできるものばかりです。
私が授業で行う際にも、特別に何かを用意するわけでなく普通のマットで行います。

さらに詳しく言えば、ここで紹介した運動は準備運動で行うことが多いです。
まず、3枚のマットを縦にくっつけて縦長にします。そこに5、6人を割り当てていきます。
そこでストレッチや準備運動を行っていきます。

とはいっても、子どもたちの様子を見て場をつくり変えたり子どもたちが勝手につくり変えたりすることもあります。

場づくりに必要なもの・ことの例は以下のとおりです。

  • 跳び箱

  • ロイター板

  • マットを折り曲げる

跳び箱上から前転をすることで、腰を高くあげることができます。

跳び箱上から前転


また、ロイター板の上にマットを被せることで坂道を作り、坂道の上から下に向かって前転をすることで、勢いを感じることができます。

ロイター板でつくった坂道


他にも、マットを折り曲げて段差をつくり、その段差を利用して前転やゆりかごの立ち上がりをしやすくすることもできます

  • 大事なことは、体育の授業である以上、何をねらってその運動をしているのかを意識することだと思います。
    何もねらっていないのであれば、休み時間に遊んでいるのと変わりません

ねらいとすることをしっかりと意識し、理解しておくと、自然と場づくりも思い浮かぶと思います。

またその際、子どもたちが自由に場をつくり変えられるような環境設定も大切だと思います。

教師に場を提供してもらうばかりでなく、子どもたちが自分たちの力を高めていくために場をつくり変えることは、体育における「思考力・判断力・表現力等」の目標でもあります。

そのために教師は、危険でない場所に跳び箱やロイター板を置いておいたり、「こんな力をつけたい」と子どもたちに語ることも大切かもしれません。

終わりに

今回は、マット運動の前転グループに必要な技術を明らかにした上で、子どもたちに力をつけるための運動を紹介しました。

ここでは「前転グループ」と大きくとらえましたが、前転の発展技では、それぞれの技に個別の必要な技術が必要な場合があるものの、今回紹介した前転グループすべてに必要な技術を押さえておくことで、大きく困ることはないと思います。

つまり、開脚前転や伸膝前転といった発展技に挑戦する時にも今回紹介した内容は役立つものになると思います

また、今回紹介した運動は、私の中で「子どもに学びを任せる前に行うもの」という位置付けにしています。

子どもに学びを任せるといっても、「やってみよう」ではできるようになりません。

そうではなく、やらせる価値のある上記のような運動をやらせた上で前転グループの技に挑戦させることで、子どもたちは自分たちで学んでいけると思っています。


最後に、ここで紹介しているのは一つの指導法に過ぎず、必ずどの子にも当てはまるものではありません。
そのため、紹介したものを目の前の子どもに合わせた形で使っていくことが大切になると思います。

ぜひ、私の記事を読んで目の前の子どもたちに合った形につくりかえていただけると嬉しいです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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