「ロボットの心 7つの哲学物語」紹介
人生を変えたというほどではないですが、
私の認知哲学への興味をかきたててくれた本として、
「ロボットの心 7つの哲学物語」(柴田正良、講談社現代新書、2001年)
を取り上げてみます。
私が持ってる版は、表紙が白地に薄紫の正方形が載っているだけのシンプルな装丁ですけど。
この本は、
「ロボットが心を持つことはできるか」
というテーマについて書いています。
最初の部分、少し長めですが引用してみましょう。
現在のロボットはもちろん心など持ち合わせていませんが、それは技術的限界であって、「〈原理的に〉ロボットが心を持てるのか?」という問いに答が出たわけではないということです。
この本では、「可能だ」「不可能だ」という論拠を様々な方面から探っていくことになります。
作者は「ロボットが心を持つことは可能だ」とする「強いAI」肯定派の側について議論を吟味していきます。
各章の冒頭に置かれた創作短編が、その章で扱う問題がどこにあるかを分かりやすく示してくれるので、高校生ぐらいの読解力があれば平易に読み進められると思います。そんなに難しい本ではありません。
チューリングテスト、中国語の部屋、フレーム問題、コネクショニズム、感情とクオリアの問題……古典的なAIが直面する基礎的な問題は、あらかた取り上げられていると言っていいでしょう。
実際にロボットが応答した場面を想定して、それが何ごとを意味しているのか、ひとつひとつ確かめながら進む作者の論理的な姿勢は、私のロボットやAIに対する考え方を基礎づけてくれました。
たとえば「中国語の部屋」を人間にも適用すると、結局のところ内面的な意識があるかどうかは人間同士ですら確認できません。
ゆえに、もし完全に人間と同様に振る舞うことができるロボットに内面的意識を認めないのなら、無意識のうちに自分以外の人間に対して意識を認めていることとダブルスタンダードになるという指摘はもっともでしょう。
また、感情と理性は相反するものとして考えられがちですが……生物進化の側面から見ると、感情には「システムのモード変更」としての機能があるとも指摘しています。
一例として、五つの基本的な感情モードについてオートリーとジョンソン・レアードが提示する大雑把なモデルを紹介していますね。
炎に吸い寄せられる昆虫のように不適切な行動を何度でも繰り返すのではなく、哺乳類などはこうした感情を持つことで一群の行動プランの中から適切な行動を選べるようになる、という考え方です。
フレーム問題で爆発的に増加する選択肢をさっくりと切り捨てられる点で、このようなモード変更としての感情を搭載することが、〈人間のような心を持つ〉AIにとっては有用となるでしょう。
エピローグの善悪倫理の判断に関しては、論点が整理されきっていない感があるし、「心が持てるのか?」を問うている段階では時期尚早に見えますが……AI倫理の分野に言及しておくのは大事ではありますね。
いずれにせよ、示唆に富む教育的な名著であるのは間違いありません。ロボットやAIに興味がある方は、読んでおいて損はないですよ。オススメしておきます。
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