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浮いた足音、旅のはじまり

3年待った。
3年も待った。

焼きあがったシフォンケーキのように膨れた期待を軽々と飛び越え、そこは桃源郷であり、創造の源泉であり、藝術の爆心地であった。


東京藝術大学。
東京は上野に構える、日本で唯一の国立総合芸術大学。
創設以来、数多の傑出した芸術家を育成・輩出し、芸術文化の継承・発展に寄与している大学で、わたしも、現役の学生で好きなアーティストが何人もいる。

東京藝術大学の学園祭。
なまえは”藝祭”。
そこでは、学部一年生がひと夏かけて作り上げた大迫力の御輿を担ぎ、これまたひと夏かけて制作した法被を纏い、上野の街を闊歩する。
ほかにも演奏会や作品の展示、学生が製作した小物類がならぶアートマーケットなどなど、芸術・創造が詰まった三日間。


わたしがその存在を知り、憧れたのは3年前の春。
当時わたしはピカピカの大学1年生だった。
静止画のように、世界が止まった春だった。

コロナが猛威を振るう中、先が見えなかったあの頃。
わたしは、『ブルーピリオド』という漫画に出会った。

ひと言でいうと、芸術がテーマの漫画だ。
チャラそうな(実際はそうでもない)高校生が芸術の魅力に気づき、とらわれ、美大を目指し...というストーリー。

美大生でなくても、クリエイターでなくても、あらゆる人にひとさじの勇気と元気と希望をくれる。
図書館に差し込む木漏れ日のような、あたたかい漫画。

その作中では、藝祭が生き生きと、青々と描かれる。
わたしは絵画をみるのが好きなのも相まって、初めて読んだあの日から、いつか藝祭に行くと心に決めていた。


そんな決意とは裏腹に、昨年までの3年間はオンライン開催だった。
昨年はかろうじてアートマーケットのみ現地開催だったのだけれど、わたしはインターンシップがばっちり重なり、泣く泣くあきらめた。(ちなみにわたしは関西に住んでいるので、時間が空いたタイミングで行く!とかも無理だった泣。)

だから今年こそ!、って。
3年越しの、虹色にあたためたほかほかの感情が、ずっと胸にあった。


そんな想いを振り返りながら、新幹線の切符を改札に通す。
刹那。(あぁ、わたしは本当に藝祭に行けるんだな)だとか、(かなり待ったよなぁ、その間にも楽しいことも苦しいこともいろいろあったな。それでも全体的にはまぁ悪くはなかったな)だとか、なぜか大学生活の走馬灯が脳裏をよぎった。
卒業までまだ半年くらいあるんだけどな〜、とひとり苦笑を浮かべ、歩みを進める。

まだ旅路は始まったばかりだし、これからもずっと、わたしはどこにでも、行きたいところに行くんだぜ!
そう自分に呟きながら、切符をジャケットの胸ポケットにしまう。



まだ少し眠たげな駅の空気に、いつもより少し機嫌のいいわたしの足音が響いていた。




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