見出し画像

【1/5】「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」の意味するところ

さて、皆さん、突然ですが、質問です。
「医師」とは、「何を」治す・癒す存在だと思われますか?
症状でしょうか?病気でしょうか?患者さんでしょうか?それとも…?

「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」

出典・由来については後述

という言葉、皆さんは聞かれたことはありますか?

医師や医療従事者ではない皆さんには聞き慣れない言葉かもしれません。
医師であれば、キャリアのどこかで耳にされたことがあるかもしれません。

これは、医師の視野の広さ・視座の高さについての言葉・概念であり、医師の成長の過程を表している、とも言われますが、もちろん、医療の受け手である患者さんや健康な方々にとっても、関わりの深いものです。

今日は、この、「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」という言葉について、まずはその意味するところから考えてみたいと思います。


「小医は病を治し、中医は人を治し、
大医は国を治す。」の意味するところ

「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」という言葉は、医師としての理想的な成長や役割の段階を表しており、医療・医学の目的と深さに対する考え方を示しています。
単なる病気・疾患の治療にとどまらない、広い視野・高い視座と社会的責任を持った医師としての姿勢を強調しています。

「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」
© 考える葦、考える医師、学ぶ医師┃The Thinking Reed, Learning Doctor

1. 小医は病を治す

「小医」は、目の前の病気や症状そのものを治療する医師を指し、病気の原因や人全体を診る全人的な視点はまだ限られ、病気が発症してから治療するやや対症療法的・事後対応的なアプローチといえます。

2. 中医は人を治す

「中医」は、病気の背景にある原因を見極め、患者全体を全人的に診ることのできる医師を指し、病気だけではなく、生活習慣、体質、精神状態などを含めた包括的なアプローチを取ります。
個人の健康全体に目を向け、病気の根本原因を取り除くことで、患者の身体と心を総合的に改善しようとする段階です。

3. 大医は国を治す

「大医」は、単に患者の治療にとどまらず、社会全体や国の健康や福祉にも目を向ける医師の理想像を指します。
大医の役割は、個人の病気や健康管理を超え、社会的な病因や公衆衛生、医療政策などにも関わることです。
例えば、予防医療の普及や社会的健康の改善を通じて、国全体の健康状態を向上させ、社会の調和を図ることを目指します。

日本の「医師法」との関係性

「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」という言葉は、中国の古典的な医療哲学や儒教的な道徳観に基づくものとされますが、実はこの考え方は、日本の「医師法」にも反映されています。

第一章 総則
第一条
医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

「医師法」(昭和23年法律第201号)

このように、「医師法」の第一章第一条には、「医師とは何者か」を規定する文字通り一丁目一番地の文言がありますが、「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保する」という部分は、まさに「国を治す」「大医」について述べている、とも読めるのではないでしょうか。

医師の「大医」的な役割に関する国際比較

ここで少し脱線しますが、「医師」について期待されている役割には、各国間で微妙な違いがあるようですので、ご紹介しておきたいと思います。

医師の「大医」的な役割に関する明記の有無
© 考える葦、考える医師、学ぶ医師┃The Thinking Reed, Learning Doctor

あくまで一部の国の抜粋にはなるものの、日本、イギリス、フランス、ドイツ等では、医師の「大医」的な公衆衛生への寄与の責務が明記されているのに対し、アメリカ、カナダ、オーストラリア、インド等では、少なくともそのような責務の明記はされておらず、どちらかというと医師の役割として主に個人の診療・治療に重点が置かれ、「大医」的な役割は「全ての医師」に課せられているというよりも、特定の公衆衛生医師の役割として分担されていたり、自治体にその役割を担わせているような側面も感じられます。

このように、医師に期待されている担うべき役割については、当然国により微妙な違いは見られるものの、WHO(世界保健機関 World Health Organization)による「Global Strategy on Human Resources for Health: Workforce 2030」という世界の医療従事者の役割と育成について述べた戦略文書においても、

"Health workforce development should aim at strengthening health systems to deliver integrated and people-centered health services, contributing to the promotion of population health and prevention of diseases, beyond curative care."
「保健医療人材の育成においては、集学的・全人的で人間中心の保健医療サービスを提供するための保健医療システムの強化を目指すべきであり、治療的ケアにとどまらず、人々の健康増進と疾病予防に貢献するものでなければならない。」(筆者訳)

Global Strategy on Human Resources for Health: Workforce 2030」(WHO)

と、医療従事者が社会の健康に貢献する重要性が強調され、特に、医師は「疾病予防や健康増進、公衆衛生の向上に貢献する専門職」として位置づけられています。

このように、WHO や、各国における医療倫理の影響により、医師が社会全体に貢献することが推奨されている傾向が見て取れます。

まとめ

今回は、「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」という言葉の意味するところや、日本及び世界においてそのような考え方がどう扱われているのかについて見ていきました。

皆さんは、このような考えについて、どのような感想をお持ちになりましたか?
是非お気軽にコメント欄にお寄せ下さい!

次回は、この「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す。」という言葉の由来について見ていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?