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なりかわり・あとがき

お前、またあとがきを書くつもりか?

どこかからそんな声がする。その通りだ、僕はまた懲りずにあとがきを書く。ちなみに「~です」とか「~ます」で書いていると、背中に蕁麻疹が出たのでやめる。かゆい。

今作「なりかわり」は、「桜下鬼刃おうかきじん」に登場する厳爺げんじいさんが若い頃の話である。「桜下~」のあとがきで書いたように、厳爺さんメインの話が書きたかった。そこから生まれた作品である。いわゆるスピンオフ。やってみたかった。
「桜下鬼刃」(以下「本編」と呼ぶ)よりはるか昔を舞台にしている。当然、平太郎たち兄弟も、桜も出てこない。

書き終えて最初に思ったのは、「本編より人気出そうだな」ということである。グロテスクな描写も少なく、比較的読みやすいのではないか。そう期待していたが、案外そうでもなかった。僕のセンスはややおかしいのかもしれない。
ただ、書いていてしんどくなかったのはたしかである。
読了してくださった方はわかると思うが、メインキャラが死なない。それが書くほうにも影響があるとは思わなかった。ここ最近の作品では、毎回メインキャラが死んでいるので、これは大きな発見だった。特に本編などひどいものだ。大体死ぬ。執筆作業の中で「死」を安易に使いすぎていたと反省するきっかけにもなった。

厳爺さん、もとい厳はこのとき30歳くらいを想定して書いた。裏設定に書いた奥さんとはまだ出会っていない。銃の腕前もそこまでではなく、神や妖怪に関する知識も、一般的な伝承程度しか知らない。
この一件が、彼を「神の看取り人」として、そして「神殺し」として有名にするきっかけになる。実際は山神は死んでいないのだが、噂など往々にして適当なものだ、と急に現実感のあるコメントをしてみる。とはいえ、ここから厳は、急速に神とのかかわりを増やすことになる。

本編を読んでくださった方は「おや?」と思ったかもしれないが、ラストで厳が向かうのが、平太郎の『奇術』で使う糸(たてがみ)を授けてくれる神馬のところである。最初はその話を書こうかと思ったのだが、違う神とのかかわりを書いても面白いかなと思い、この話にした。

山神のキャラは、個人的にすごく気に入っている。食い意地が張っているが、自分を信仰するもののためには、たとえ自分が姿を消すことになっても、惜しみなく神の力を使う。僕としては、とても神らしい気まぐれさのあるキャラにできたと思っている。ちなみに、むじなとは一般的にアナグマのことである。田舎ではよく、のそのそと道路を歩いている。愛らしい生き物だが、畑などにイタズラをすることもある。でも、かわいい。
紆余曲折があった後、栗鼠のような姿になるが、おきぬの肩に乗せたいがためにそうした。僕のイメージとしては「ナウシカのあれ」である。決して戸愚呂兄とぐろあにではない。繰り返すが、戸愚呂兄ではない。

おきぬは、信心深いキャラが必要で生み出した。かわいい村娘のイメージ。名前は、岩手県内で活躍されているタレントのきぬさんから。もちろん、豆腐がキーアイテムになるのは彼女の名前から着想をえてのことである。当初は山神を酒好きにするつもりだった。だが、豆腐のほうがかわいらしいなと思った。豆腐をむさぼる栗鼠。一心不乱に豆腐を食らう栗鼠。かわいいと思うのは僕だけだろうか。
ちなみに、おきぬの家は豆腐屋である。男に生まれたら「木綿太郎」という名にしようと父親は画策していたが、女の子が産まれ「おきぬ」と名づけられた。一人娘で、両親は彼女を溺愛している。命が戻ってから彼女は両親に事情を話した。父親は大泣きして寝込んだ。母親もまた大泣きして寝込んだ。つまり、どっちも寝込んだ。その後は一家そろって幸せだったはずである。
きぬさん、名前お借りしました。ありがとうございました。

村長は信心深く、村人からの信頼も厚い。なりかわりであった吾介ごすけを失い、本当に孤独になってしまうという、可哀想な境遇のキャラにしてしまった。彼とおきぬと山神だけが吾介を覚えているので、村長の孤独を本当にわかってやれるのは、おきぬと山神だけになってしまった。
山神にしつこく酒を供えようとするのは、いつか自身が山神と酒を酌み交わしたいと思っているから。山神討伐を依頼したのも彼だが、実は信仰していた神を追い詰めるような行動をとったことをひどく後悔していた。ちなみに、本当に山神と酒を酌み交わすことができたかどうかは、皆様の想像に委ねる。

『なりかわり』は、前々からぼんやり想像していた存在。
嫉妬心から生み出されるものは多いと、僕は勝手に思っている。ポジティブなものもあるかもしれないが、多くはネガティブなものだろう。そうしたものを具現化したのが『なりかわり』である。
僕自身、嫉妬心が強いので、こいつが他人には思えない。今作は戦闘メインではないのでさらっと消えてもらったが、ちょっと切なかった。きっと僕だけだと思う。

前述したように、今回はメインキャラが死なない。本編のようにしなかったのは、神と心を通わせるさまを書きたかったのが主な理由である。その結果書いているときのしんどさが消えたのは、意外なことでもあったし、大きな発見だった。戦闘では心の交流を描けないので、戦闘シーンはほぼ端折り、おきぬと山神の対話をメインにした。その結果、厳というキャラクターの存在が薄くなっているが、それは仕方のないことだと思っている。書きたいのは神々との関わり方であって、厳個人の感情は今作では大きな意味をなさない。今作の主人公は山神とおきぬなのであって、厳は案内役のようなものだ。

ストーリーとキャラの話を終えて、執筆自体について話す。構想自体は二時間くらいで済んだので、あとはひたすら書くだけだった。書き出してからのほうが、細かな調整が必要で大変だった。ストーリー自体には大きな変更はないのだが、戦闘シーンは当初より八割近く削ったと思う。槍を投げて、弓矢を撃っただけ。…本当に、厳いらなかったんじゃないかな。一応、厳メインで書き始めたんだけどな…。
削った結果、上下二話のみの構成になった。長さ的にはこのくらいのほうがいいかもしれない。書くのも楽だった。何回言うんだって話ではあるが、本当にしんどくなかった。普段どんだけしんどいんだという声が聞こえるが、死人が多いと書いていてもつらいものだ。生み出したのも殺すのも僕なのだから。

今回の執筆中BGM紹介。

DAISHI DANCE「いつも何度でも feat.Chieko Kinnbara」
Aimer「季路」
スピッツ「優しいあの子」

今回はストーリーに沿ったものというより、完全に好きなもの。ラストはスピッツ垂れ流し。

以上、「なりかわり」のあとがきを終える。
実は、厳メインの話をシリーズ化しようかなー、と画策している。
あと、最近くだらないことを書かなくなってしまったせいで、気持ちの盛り上がりに欠けるので、そろそろ馬鹿話を書こうと思う。アイデア募集中。






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ナル
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