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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#日向坂46

推し活記事詰め合わせ

【SS】鳥居の上に腰掛けて 月明かりがぼんやりと拝殿を照らしている。 私は境内を走り回り、君を探した。 「こっち、こっち」 声のした方を見ると、鳥居に腰掛けている人影が見えた。君以外にそんなことをする罰当たりはいない。 「…下りて来て」 私が言うと、君はにっと笑い 「君が上がっておいでよ」 と言った。 「駄目だよ。罰が当たる」 「そんなことないよ。景色が綺麗だよ」 「…」 隣の木に登って、そこから鳥居に飛び乗る。みしっと嫌な音がして私の身はすくんだ。それを見て、君は大声で笑

【短編】食卓と惑星

「僕ね、故郷の惑星に帰らなきゃいけないんだ」 二人で夕ご飯を食べているときに、君は申し訳なさそうにそう言った。 今日のメニューは君の好きなとんかつで、私は今日の出来に自信があった。いつもより上手く揚げられたんだ、と言うつもりだった。 君が私の家に来たのは、10年前だった。当時話題になった流星群に紛れて、君は宇宙からやって来た。 犬とも猫ともつかない奇妙な姿の生き物。その上、空から降りてきて間もなく、たどたどしい日本語を話し出した。 間違いなく、宇宙人だ。私はその生き物を抱え

【短編】夢の朝食

枕元の照明を消して、私はようやく私に戻った。 生きづらいと言うほどでもないが、窮屈な日々。ほんの少しだけ噛み合わないことばかりの日々に、心が疲れているのを感じていた。 目を閉じても、眠りに就けない。また照明を点けて立ち上がり、睡眠薬を服用した。 15分ほどして、ようやく効果が出てきたようだ。目を瞑ると、意識は次第に遠のいていく。 「夏菜実、そろそろ起きなさい」 眠い目をこすりながら、私は身体を起こした。珈琲の香りがする。辺りを見回す。眠る前と景色が一変していた。ログハウス

【短編】それは鮮やかなまま

若葉色のスカートが、風にそよいでいる。陽子さんは、鼻歌を歌いながら僕の数歩先を歩いていく。 数年前に来た盛岡とは、少しだけ変わった。陽子さんが好きだと言っていた、あの柳は伐採されていた。 「寂しいが、仕方ないね」 少し俯いた後、陽子さんは「私たちが暮らした場所へ行こう」と言って歩き出した。秋風が肌に冷たい。陽子さんが歌っていたのは、僕が好きだったバンドの曲。鮮やかな赤をまとった唇が、寂しげなハミングを続けている。 「どうして、最近はこのバンドを聴かないの?」 陽子さんは突然

可愛い子には変化をさせよ【毎週ショートショートnote】

同じクラスの松田は、地味で控えめな女子だ。 だが俺は気付いていた。『化ける』と。メイクのプロである姉に写真を見せると、「あんたもわかってきたじゃないか」と笑った。 作戦は開始された。 「松田さん、今日うち来ない?…勉強、教えてほしいんだ。」 半分本心である。松田は学内一の秀才だ。勉強を教えてもらう見返りなら、用意してある。 「…いい、けど。」 よし、かかった。俺はスマホを取り出した。 「いらっしゃい!よく来たわね。」 仕事モードの姉に迎えられ、松田はびびっている。そのまま

【短編】さようなら、猫の国

果歩は立ち尽くしていた。どうして、どうしてこうなったんだろう。 猫を追いかけていた。それだけのはずだった。偶然見つけた、白い猫。青い目で、桜色の首輪をしていた。かわいさのあまり、撫でようとしたら、ものすごい勢いで逃げられた。 「あ、待ってよぅ」 細い路地に入って、突き当りを右。鳥居をくぐって、神社がある。子供の頃から何度も通った裏通り、のはずだった。 鳥居をくぐった先にあったのは、大きくて古い街だった。ところどころ損傷した建物。荒廃している、とでも言うのだろうか。 間違

【短編】君はキョンシー

彼が、キョンシーになって戻ってきた。 キョンシー(僵尸)。 中国の死体妖怪の一種。中国湖南省よりの出稼ぎ人の遺体を故郷へ運ぶために、道士が呪術で歩かせたのが始まりとか何とか。詳しく知りたい人は調べてくれ。これはそこまで詳しくなくても読める。 彼―高本くん―の葬儀を終え帰宅すると、彼は当然のように家にいた。 「おう、ひより。おかえり」 「……どういうこと?」 私は、目の前にいる高本くんと、持ち帰ってきた位牌を見比べた。 「なんかさ、有名な道士?が、魂だけで人を生き返らせる方

【短編】花火の夜に

「一緒に花火を見に、お祭りに行こうよ!」 放課後、五年生になってクラスが一緒になった平岡くんに声をかけられ、僕はうろたえた。 「どうして、僕なの?」 「清水くん、花火好きそうだから。」 花火が好きそうって、どういうことだろう。悩む僕に平岡くんは続ける。 「黒い服は着てきちゃ駄目だよ。できたら、白い服を着ておいで。」 そう笑った平岡くんの顔は、西日に照らされて、見えない。 お母さんに説明して、真っ白いTシャツを着た。 「不思議な集まりでもあるのかしらね。」 ちょっとだけオカル

モンブラン失言【毎週ショートショートnote】

美穂はデスク周りを片付けた。今日で、この会社を去る。 入社から3年。思いがけないことだった。気軽に応募した小説が大賞を受賞し、作家になることが決まったのだ。だがそれを言い出せず、家庭の事情ということにしていた。 唯一の同期である菜緒が、送別会を開いてくれた。ケーキバイキングになったのは、酒の苦手な美穂のためだ。 「さみしいよ~。」 菜緒が涙を流す。美穂も泣きそうになった。 「美穂、これからどうするの?」 美穂は答えようとしてケーキから顔を上げる。その瞬間、視界がぐるっと回

【短編】長い夜とアーモンド

目の前の男は意気揚々と、自分の推理を披露している。 「その時間、アリバイがなく、被害者のそばにいた人物はただ一人!」 そう言って、俺のほうを見た。 まず、何が起こったか説明しよう。 謎解きゲームで優勝した賞品として、俺たち7人の大学生はこの館に招待された。そのうちの一人、いわゆる「嫌われ役」だった男が殺害された。嵐のせいで携帯電話やネットは繋がらず、ここに繋がる橋は崩落した。まあ、よくあるミステリーだよな。俺も笑っちまった。 もともと謎解き好きの集まりだ。互いの腹の探りあい

【#シロクマ文芸部】正しきレモン

レモンから酸味を奪ったような男だな。 目の前の男を見て思う。甘い。ルックスも、声色も、発言も。 『かわいい系』男子と自分では思っているのだろう。袖を指先のほうまで引っ張り、眉の下まで伸ばした癖のある金髪を、くるくると弄んでいる。よくわからない甘いにおいがする香水。伸びる語尾。ときどき使う上目遣い。 同期に誘われ人数合わせのために来た合コンで、この酸味無し出涸らし男―出涸らしレモンと呼ぼう―に出会った。妙に気に入られて、半ば無理矢理連絡先を交換させられた。 今日も、こいつの