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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#クリスマス

【短編】ぬいぐるみのエール【#灯火物語杯】

いつからか、君は学校というところに通うようになった。 ランドセルとやらを背負い、君は毎日学校に行った。 背が伸びて、髪が長くなって、君は僕たちとは遊ばなくなった。 部屋の隅っこ、棚の上に飾られた僕たちを手に取ることは、減っていった。 それでも、毎日必ず言葉をくれた。頭を撫でてくれた。 つらそうな日、悲しそうな日。 どんな日々も君は乗り越えてきた。 君が3歳の頃、僕はサンタクロースに連れられてこの家に来た。 それから毎年、サンタは僕の友達を連れてきた。 僕よりモフモフのテデ

【SS】服装指定【#シロクマ文芸部】

十二月っぽい服装で来て、と陽世さんは言った。 彼女と付き合って三年。デートの際には毎回服装の指定がある。『お洒落な服』とかありふれたものではなく、『陽気な芸術家のような』だとか、『爽やかな海外俳優のような』という斬新な指定が多い。そして、毎回と言っていいほど彼女はこう言うのだ。 「なんか違う」と。 今回の指定はいつもと違う。僕はそう感じていた。あまりにも『普通すぎる』のだ。 きっと、今こそ僕の腕の見せ所だ。 これまでとは違う、斬新な僕を見せてやる。 街行く人の視線が痛

【短編】ハッピーエンド

曇天を見上げた君の睫毛に、今年初めての雪が触れた。体温で溶かされた白い結晶は僅かばかりの雫になり、君の頬を流れていった。 「…ごめんね」 呟くようにして君が言った謝罪が僕に向けられたものだと気付くまで、静寂が僕らの間を流れていった。 「謝るようなことじゃ、ないよ」 つらいのは間違いなく君の方だと言うべきなのに、僕の口は機能不全を起こしている。もし僕がAIだったなら、もっと上手く君に寄り添えたのだろうか。何を言えば、君の瞳は僕を映すのだろう。何を言えば、あの日々が戻って

【短編】Question

10月12日、ある農村で遺体が見つかった。 32歳の男性。死因は首を絞められたことによる窒息死。 現場の状況などから、警察は他殺と判断した。 男は、自身が居住する部屋で死んでいた。 ノートPCは起動したまま。何らかの文書を編集していたらしい。 警察は男が『note』というサイトにアカウントを持っていたことを確認した。 男のアカウント名は『ナル』。アルパカのアイコンだ。 つい最近まで更新していたようだ。 短編小説、エッセイ、詩。まったく読まれていないわけではないが、そこまで人