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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#スマホ

【SS】ある写真家の願い【#シロクマ文芸部】

「紅葉から人間を消してくれ」 目の前の男は血走った眼でそう言った。 「世界から人間を消せばいいんだな」 私は神。そのくらいのことは容易い。残念なことではあるが、この男一人を残して人間を消滅させてやろう。そう思った矢先、男は首を振って否定した。 「紅葉シーズンだけでいいんだ。なんなら、景勝地以外には普通にいてもいい。それに、モデルは何人かいてくれないと……」 男はぶつぶつと呟きだした。フォトグラファーだというこの男は、完璧な紅葉写真のために人間を消滅させたいらしい。彼

いとしきスマホ・Darkness【うたすと2】

※これは、昨日公開した『いとしきスマホ』を初期の構想にのっとって書ききったものです。本編『いとしきスマホ』とは全く違う展開ですので、ご了承ください。 「…この『ナル』って人の小説、ビミョー…」 君は僕をベッドに放り投げて、ため息をついた。 たしかに下の中くらいの出来だったけど、だからといって僕にあたらないでほしいな。 僕の身体が震えた。君は僕を操作し、にっこりと笑った。 「潮先輩……」 嬉しさのあまりなのか、君はまた僕を放り投げた。 微笑んだまま眠りに落ちた君に、僕は何か

いとしきスマホ【うたすと2】

「…この『ナル』って人の小説、ビミョー…」 君は僕をベッドに放り投げて、ため息をついた。 たしかに下の中くらいの出来だったけど、だからといって僕にあたらないでほしいな。 僕の身体が震えた。君は僕を操作し、にっこりと笑った。 「潮先輩……」 嬉しさのあまりなのか、君はまた僕を放り投げた。 微笑んだまま眠りに落ちた君に、僕は何かしてあげたくなった。 少しの間考えて、僕は君のお気に入りを奏でることにした。 ♪彼ピ・ピ・ピ ゾンビ・ビ・ビ 君は飛び起きて、僕の演奏を止めた。 「びっ

【ショートショート】転生林檎

林檎農家の友人から届いた『転生林檎』を、僕は見つめていた。 同封された手紙には「コレ食って元気出せ」とある。 精神を病んで、かなりの年月が経過している。気晴らしに、と林檎を贈ってくれた彼に感謝して、それを手に取った。 スマホがけたたましい音を鳴らした。画面には『警告』の文字。 僕が今持っているもの? そんなもの、僕の心を蝕んだものたちじゃないか! 再びスマホが鳴った。画像が表示されていた。 林檎をくれた友人と、僕。 勝手に画像がスクロールされていく。 アーティストにな

【短編】マッチング

「ねえ、聞いてる?」 友人の声に顔を上げる。とっさにスマホの画面をこちらに傾け、相手には見えないようにした。 その仕草に、友人は何かを察したようだった。ため息をつく。 「またマッチングアプリ?」 そうだよ、と軽く返事をする。 で、何の話だったっけ?と、私はとぼけてみせた。 「ほら、テレビでやってんじゃん。あの動画配信の人」 ああ、と言いながらネットでその記事を探す。 隣の市で19歳の女性が遺体で見つかった事件。その現場で発見前に撮影していた動画配信者が自首した。殺害について

【短編】まわる。

その日、俺はひどく疲れていた。 外回りに出た途端豪雨に見舞われたり、取引先に理不尽に怒鳴られたり、本当に散々だった。 マンション3階の自室に帰宅したのは、午後11時を過ぎたあたり。明日は休みだが、もう酒を飲む気力すらなかった。 スマートフォンを見て、仕事関係の連絡が入っていないことに安堵した。転職を真面目に考えよう。激務で心は疲れ切っている。 午前0時を回ろうとしたあたりで、好きなアイドルの新曲が明日から配信になることを思い出した。もうすぐ0時だし、配信買ってから寝よう