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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#ファンタジー

せめて思い出の、青【うたすと2】

その遊園地が閉園して、半年が過ぎた。 自分でもどうしてこんなことを思いついたのか、わからない。私は大きな黒いリュックを背負って、遊園地に忍び込んだ。 星の光できらめく夜道に、ふたりでいた頃の思い出を重ねた。 誰もいない夜。私は世界に取り残されているみたいだ。ふたりでいたあの日々だけが、私が生きていた時間だとわかっている。 柵を乗り越え、メリーゴーランドに辿り着いた。星明かりに照らされた白馬に腰掛ける。小糠雨が風に運ばれ、私を冷やしていく。隣で手を繋いでくれた君は、今はもう

【短編】それは鮮やかなまま

若葉色のスカートが、風にそよいでいる。陽子さんは、鼻歌を歌いながら僕の数歩先を歩いていく。 数年前に来た盛岡とは、少しだけ変わった。陽子さんが好きだと言っていた、あの柳は伐採されていた。 「寂しいが、仕方ないね」 少し俯いた後、陽子さんは「私たちが暮らした場所へ行こう」と言って歩き出した。秋風が肌に冷たい。陽子さんが歌っていたのは、僕が好きだったバンドの曲。鮮やかな赤をまとった唇が、寂しげなハミングを続けている。 「どうして、最近はこのバンドを聴かないの?」 陽子さんは突然

【短編】さようなら、猫の国

果歩は立ち尽くしていた。どうして、どうしてこうなったんだろう。 猫を追いかけていた。それだけのはずだった。偶然見つけた、白い猫。青い目で、桜色の首輪をしていた。かわいさのあまり、撫でようとしたら、ものすごい勢いで逃げられた。 「あ、待ってよぅ」 細い路地に入って、突き当りを右。鳥居をくぐって、神社がある。子供の頃から何度も通った裏通り、のはずだった。 鳥居をくぐった先にあったのは、大きくて古い街だった。ところどころ損傷した建物。荒廃している、とでも言うのだろうか。 間違

【短編】花火の夜に

「一緒に花火を見に、お祭りに行こうよ!」 放課後、五年生になってクラスが一緒になった平岡くんに声をかけられ、僕はうろたえた。 「どうして、僕なの?」 「清水くん、花火好きそうだから。」 花火が好きそうって、どういうことだろう。悩む僕に平岡くんは続ける。 「黒い服は着てきちゃ駄目だよ。できたら、白い服を着ておいで。」 そう笑った平岡くんの顔は、西日に照らされて、見えない。 お母さんに説明して、真っ白いTシャツを着た。 「不思議な集まりでもあるのかしらね。」 ちょっとだけオカル

【ショートストーリー】黒白

小さな手に触れた。 柔らかで壊れそうなのに、血が通うそれを、男は見ていた。 2020年代後半、世界各国の紛争地域で「黒い悪魔」と「白い悪魔」が目撃された。それらが現れた地域では、紛争当事者国の首脳が殺害されたり、あらゆる武器が突如として使用不能になったりし、争いが急激に収束するという出来事が相次いだ。どういう形であれ争いが終わることから、人々は彼らの出現を願った。 しかし、2030年代に入ると、「黒い悪魔」がその姿を消し、「白い悪魔」だけが目撃されるようになる。その頃から、

【短編】兵器に花

ここではない、人が暮らす世界。 人類と魔族の間では、長い戦争が続いていた。 劣勢に立たされた人類は、それまで生活支援や労働に用いていた機械人形を戦争に投入した。それでもなお戦況は改善せず、ついに複数の機械人形を「自爆」兵器とすることにした。 対魔族用に開発された特殊な爆弾を、機械人形の心臓部に埋め込んだ。機械だから、人的被害はない。どれだけ壊れてもいい。一体でも作戦を完了させれば、魔族の数は大幅に減る。 人類の命運は、それまで生活の一部になっていた機械たちに託された。 魔王