孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
有名な「孫子の兵法」を読みやすくプロジェクト マネジメント向けに翻案してみました。
プロジェクト マネジメントに興味のある方は一度、読んでみてくださいね。
※難しいことは書いていないのが「孫子の兵法」です。ただ、文章が短く、現代の文章構成とは違うので少し面倒ですが、この翻案からでもチャレンジしていただければと思います。「孫子の兵法」は現代にも通ずる良いことを書いています。
また「孫氏の兵法」を含め、各種コンテンツや、ドキュメントもそうですが、気に入ったドキュメントは読めば心が高揚します。これはドキュメントを読む楽しみでもありますが、実の人生に対するコンテンツの『触媒』作用でもあると思っています。
ですから、くだらないと思ったドキュメントでも、素晴らしいと思ったドキュメントでも、その善し悪しを見定める中でこの「孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら」も同じように『触媒』として実の人生に使っていただけるとありがたく思います。
<1.プロジェクト開始の準備方法、プロジェクト評価の必要性、評価方法とその活用方法>
プロジェクトは組織の「生き死に」を左右します。ですので、気まぐれだけでプロジェクトを立ち上げ進めることは行ってはいけません。プロジェクトを開始し、進めるかどうかは以下の5つのガイドラインと7つの評価項目に基づいて判断します。
・5つのガイドライン
1. 道 → 組織のガバナンス。
2. 天 → プロジェクト開始のタイミング。
3. 地 → プロジェクトの対象と範囲。
4. 将 → プロジェクトリーダの能力。
5. 法 → プロジェクトの遂行と管理に必要なルール。
・7つの評価項目(プロジェクトに適用する場合)
1. 主 → オーナーは正しいガバナンスを行っているか。
2. 将 → リーダはプロジェクトの対象やスコープに対応できる能力を持っているか。
3. 天地 → プロジェクトの開始時期やスコープの大きさは適切か。
4. 法令 → ルールが細かく定義され、実行されているか。
5. 兵衆 → プロジェクトメンバーの意識やスキルは高いか。
6. 士卒 → サブリーダのリテラシーが高いか。
7. 賞罰 → 業績やルール違反に対する報酬や罰則が明確に定められているか。
この5つのガイドラインと7つの評価項目を用いて判断すれば、プロジェクトの計画段階で成功と失敗を予測することができます。
リーダがこれらのガイドラインと評価項目を理解していれば、プロジェクトを任せても「成功する」と予測できます。そうでないリーダの場合、プロジェクトが始まる前に「危ない」と判断できます。
このガイドラインと評価項目を理解で来ていない人は、プロジェクトのリーダとして適任ではありません。
リーダがこれらのガイドラインと評価に従ってプロジェクトを進める準備ができたら、プロジェクトを前進させる勢いを作り、プロジェクトを開始します。
実際には、5つのガイドラインと7つのアセスメントでの判断だけでプロジェクトの成功が保証されるわけではありません。
プロジェクトが進むにつれて、予期せぬ障害やリスク、反対する側からの抵抗も出てきます。したがって、プロジェクトの将来を完全に予測することは不可能です。なので、リーダはすべてをコントロールし、プロジェクトを前進させる勢いを無駄にしないようにしなければなりません。
しかし、将来のことが分からなくても、ここで紹介した5つのガイドラインと7つのアセスメントを検討すれば、企画の段階でプロジェクトが成功するかどうか予測できるので、この検討を必ず行い、その上でプロジェクトを進めるかどうかを判断することが重要です。
<2.プロジェクトリーダのコスト意識>
毎月何十人月ものマンパワーを消費するプロジェクトを進めるためにはコストがかかります。
何らかのトラブルで予定期間より数カ月でも遅れるとプロジェクトの予算はおろか、組織の他の予算さえも使い果たしてしまいます。そうなるとすべてが行き詰まり、抵抗勢力の追及が高まり、どんなに優秀な人材がいてもプロジェクトを守ることができなくなります。場合によっては、プロジェクト自体がつぶれてしまうこともあります。
プロジェクトに問題が発生したら、迅速に評価し、対処し、場合によっては問題を受容してでも、プロジェクトを進め、成果をできるだけ早く出さなければなりません。ですから、成果を求めるのではなく、結果の完璧さを求めるためにプロジェクトを遅らせる(コストをかける)ことは許されません。
プロジェクトの実行が組織の利益を消費して進むことを理解していないリーダは、利益を消費してまで求められるプロジェクトの成果の重要性が理解できていません。なので、プロジェクトの実行が組織の利益を消費して進むことを理解している人物をリーダに任命する必要があります。
プロジェクトを進めるにあたって、プロジェクトメンバーは自らの組織から選任者を割り当て進むべきです。また、プロジェクトが大きくなればなるほど、コストはかさみ、組織負担が増えます。ですので、プロジェクトを運営するためのコストは、できる限り最小限に抑えるべきです。
また、成果を出すことを忘れて、抵抗勢力と直接対決しようとするリーダは、理性よりも感情にとらわれているため、目標に到達することは難しいです。感情を超えて、目標達成に集中すれば、課題やリスクに打ち勝ち、プロジェクトの力を高めることができます。
感情的な対立は、その場の勝ち負けでしかなく、その勝ち負けで目標が達成できるわけではありません。プロジェクトとは目標を達成すること=成果を出すことですので、目標を達成するための利を考えて行動すべきです。
また、プロジェクトの第一目標は成果の創出ですが、そのために過剰なコストや時間を費やしてもよいということではありません。時間はコストでもあるので、短期間でプロジェクトを成功させることは、コストを抑えてプロジェクトを成功させることでもあります。
プロジェクトにおけるコストの重要性を知っているリーダだけが、組織やプロジェクトメンバーの将来の成果を担うことができます。したがって、コストの重要性を理解していないリーダを任命してはいけません。
<3.障害や抵抗勢力への対処法、オーナーとリーダの関係、自己と他者の評価>
プロジェクトを成功させるマネジメントとは、成果を出すマネジメントです。リスク管理もなく、失敗が起こるたびに闇雲にメンバーを増やすことでも、ましてや抵抗勢力と競り合いを行う事でもありません。多くの傷や損失の上に咲く武勇伝など必要ないのです。ですので、障害や抵抗勢力への対処法の最上の策は、敵味方の誰も傷つけず、損失もなく成果を出すことです。
障害や抵抗勢力に対処する方法は、まず、対応のためのリソースを投入する前に解決することであり、次善なのは対象を孤立させることであり、次は動けなくすることです。これらの策で対応できない場合に、初めてリソースを投入し、プロジェクトメンバーを直接介入させて終結させることになります。
しかし、プロジェクトメンバーを使って直接介入すれば自組織の損失や予期せぬコストが発生することもあり、そのコストが大きければプロジェクトの目標達成も危うくなります。ですので、直接介入は最後の手段となります。
優れたリーダは、直接介入するのではなく、コストをかけず、何も失うことなく対応し、障害や抵抗を終結させます。そうすれば、無駄にメンバーを疲労させたりコストを消費したりすることなく、プロジェクトの目標を達成させることに集中できます。
つまり、直接対決を避け、資源や資金を投入する前に、策(孫氏の兵法では「謀」)を使って問題を解決することが重要だということです。
自身の組織の力が対象に対して極端に大きければ、有無を言わさずそのまま飲み込みます。大きければ応戦の構えを示して帰順を呼びかけます。自身の組織の力が対象より小さければ近づかないように対象と距離を保ち、明らかに力が足りない場合は避けてプロジェクトを進めます。
障害や対応抵抗勢力に立ち向かう力がないのに、挑発に乗ってしまうのは愚かなことです。最悪、プロジェクトそのものを破壊することにもなります。
大きな障害を避けてプロジェクトの前進を優先することは恥じではありません。プロジェクトの目的は何かを考えれば答えは明確です。
プロジェクトの達成=成果の創出はプライドよりも重要です。プロジェクトは目的が達成され、成果が出なければ、プロジェクトを行う意味はありません。
したがって、組織が弱ければ、なおさら慎重に行動し、対応を選択しなければなりません。
リーダは、組織の資源とコストを使うプロジェクトを任されているがゆえに、組織のオーナーの補佐役となります。
オーナーは組織の利益からプロジェクトコストを出し、組織のメンバーからプロジェクト・リソースを捻出し、プロジェクトが成果を出すまで、コストとリソースと時間をリーダに与えます。ですので、目標達成に向けてリーダはオーナーと緊密な協力関係を築く必要があります。
なお、オーナーとの密接な関係は必要なのですが、オーナーが注意すべきプロジェクトへの介入パタンがあります。
(1)リーダの意見を聞かずに、プロジェクトの方針に直接指示を出すこと。
(2)プロジェクトのマネジメントを知らずに直接指示を出すこと。
(3)プロジェクトの実務を知らずに直接指示を出すこと。
このような行為が行われると、オーナーはプロジェクトを混乱させ、最悪の場合、失敗させてしまいます。
オーナーもプロジェクトに関与をしていますが、リーダを越えて現場に直接指示を行うことは控えなければなりません。
最後に、リーダは対象を正しく理解し評価しなければいけません。そして、自身並びに自身の組織の力量も正しく理解し評価できていなければなりません。
双方を理解し評価できている状態であれば、どう進めばいいかが手に取るようにわかるのでプロジェクトのコントロールで失敗することはありません。
自身並びに自身の組織の力量しか理解し評価できていなければ、理解し評価できていない対象を常に探る状態になるので、プロジェクトのコントロールがうまくいく場合もあれば、うまくいかない場合も発生します。
自身並びに自身の組織の力量を理解し評価ができていなくて、対象の理解も評価もできていないと、そもそも何が起きているのか、何が起こるのか予測できないまま運営することになり、プロジェクトをうまくコントロールできませんし、最悪の場合、プロジェクト自体を崩壊させてしまうことになります。
<4.プロジェクトマネジメントに対する姿勢>
プロジェクトを進めるにあたって、予見できるリスクを未然に防ぎながら、新たに発生する障害に対処する準備を整えておく必要があります。もちろん、目標が達成できるかどうかを評価することは重要なのでおざなりには出来ませんが、目標が達成できるという評価に基づいて計画を進めたとしても、いつどのような形で障害が現れるかはわかりません。実際に目標が達成できるかどうかはプロジェクトが完了するまでわからないのです。
ですから、障害やリスクに抗うのが「守り」になり、それを克服するのが「攻め」になります。
プロジェクトを進めることが巧みなリーダは、派手な動きもなく無駄のないプロジェクト運営によって目標を達成します。成果を出すリーダは、障害やリスクを自分のコントロールできる範囲に置きます。ですから、何事もなく目標を達成しているように見えます。
この様に、何事もなく目標を達成するので、素晴らしいリーダかどうかの判断は、リーダの真価を理解している者しか判断ができないのです。
また、プロジェクトを成功に導くリーダは、状況を常にコントロールし成功のチャンスを見失いません。
このため、目標達成が可能になるプロジェクトは、状況を常にコントロールできるようにリスク対策を含めた各種計画を策定し、成功の可能性を確認してから着手しますが、達成できないプロジェクトは、無計画のまま着手して、プロジェクトが始まってから目標達成のための対策を検討し始めることになります。
その上、プロジェクトを成功に導くリーダは、メンバーのベクトルをゴールに合わせ、定められたルールを遵守させることができます。そのため、プロジェクト全体を統合的にコントロールすることができ、目標を達成することができるのです。
・プロジェクトを進めるためには、次の5つの項目を確認する必要があります。
1.地 → プロジェクトの範囲とスコープ
2.度 → プロジェクトの規模
3.量 → 投資する資源
4.数 → 人材
5.称 → プロジェクトが持つべき能力。
地:プロジェクトの範囲とスコープを検討するためには、度:プロジェクトの規模を検討する必要があり、規模を検討した結果、量:投入する資源を検討する必要があり、資源を検討した結果、数:人材を検討する必要があり、人材を検討した結果、称:プロジェクトが持つべき能力を検討する必要があり、能力を検討した結果、プロジェクト目標の達成の可能性が明らかになります。
目標を達成するプロジェクトは、この検討プロセスを経るので、プロジェクト目標の達成可能性が明確に見えますが、この検討プロセスを経ないプロジェクトは、目標を達成できるかどうかわからないまま進めることになります。
上記のプロジェクトの運営態勢が準備できれば、プロジェクトを一気に進めることができる体制が出来ていることになります。
<5.プロジェクトのコントロール>
プロジェクト全体が統一感を持って進めることができるのは、分数 → チームの編成によります。また、プロジェクト全体が崩れることなく、障害やリスクに立ち向かえるのは、形名 → 指揮系に拠ります。プロジェクトが目標を達成できるのは、まず、正 → 標準動作ができる上で、奇 → 臨機応変の対応ができるからです。また、プロジェクトで発生した障害やリスクにも容易に対応できるのは、発生したの虚(弱い部分)を実(しっかりした方法)で対応するからです。
プロジェクトは、基本的に標準的な進め方で進め、発生した問題に対しては柔軟な対応によって解決します。状況が変わるにことによって、この柔軟な対応が標準的な進め方へと変化します。土俵に端がないように、標準的な進め方と柔軟な進め方は永遠に絡み合ってプロジェクトのゴールを目指します。この標準的な進め方と柔軟な進め方のコントロールをマスターしたリーダが、プロジェクトを成功に導くのです。
もちろん、太極のようにスパイラルに進んでいくプロジェクトですが、重要なポイントでは、プロジェクトの勢いを鋭くして、その勢いの力で一気に押し切るようにしなければなりません。
プロジェクトの混乱は、治めることの揺らぎ中から生まれ、目標到達への心配は推進する力の隙間から生まれ、任務に対しての弱気は責任への重さから生まれます。
混乱が生まれるか、どうかは(分)数 → チームの編成が、実態に合っているか、どうかです。心配を拭うことができるかどうかは、プロジェクトチームの勢 → 勢いが、強いかどうかです。任務に対して弱気に陥るか、どうかはプロジェクトの形 → 態勢が、メンバーをフォローできる仕組みを持っているかどうかです。
また、人は望むものを見せられれば、それを求めて動き、与えようとすれば取っていきます。相手を自分の望むように動かそうとする者は、相手にとっての利益を示すことによって相手を動かします。ですから、相手が来るのを待ち、相手が来たら、相手にとっての利益を用いて相手をコントロールします。
プロジェクトをうまく管理する人は、最高のパフォーマンスを発揮できる個人を探すのではなく、プロジェクト全体に勢いをつけることに重点を置きます。そして、適切な人材を適切な場所に配置することで、個々の能力を最大限に引き出し、プロジェクト全体で目標に向かう勢いを作っていきます。
<6.プロジェクトの組織体制>
準備が整いメンバーの充実したプロジェクトは取り組みやすいですが、すでに遅延していたり、ギャップのある隙や実態が伴わないプロジェクトは干渉の影響を受けやすく難しいものになります。ですから、優れたリーダは、プロジェクトメンバーを充実した状態に保ち、自らをコントロールの中心に置き、干渉の影響を受けないようにします。
また、何事があっても静かに動き、プロジェクトの内情を知られないようにします。これによって抵抗勢力からの干渉を防ぐ事ができ、内外共にコントロールすることができるようになります。
そして、常にプロジェクトの抵抗勢力を見えるようにしておき、プロジェクトから発信する情報をコントロールし、自分たちの動きが見えないようにすれば、抵抗勢力はプロジェクトの位置を探すために力を分散させ動き出し、弱点を露わにします。こうすれば、相手の弱点を用いることで相手をコントロールできるようになります。
こういう状況を作った上で、いつ、どこで対応すべきかがわかったら、力強く進むべきです。必ず目標に到達するための利を得ることができます。
究極的なプロジェクトは定型のないものです。型がなければ、外部から、プロジェクトの動きを読み取られることはありません。言い換えれば、プロジェクトの動きは水に習います。水はその形を地形に適応させ、決して形や動きに無理がなく、休むことなく流れていきます。
このように、プロジェクトが置かれた状況に応じて、留まることもなく、無理することもなく、水のように静かにゴールに向かって流れるようにプロジェクトを進めていくことを「神妙」と言います。
<7.プロジェクトの動き>
プロジェクトは、計画を立てて、メンバーやリソースを集め、方針を示し、理解してもらい、メンバーが一丸となって動くようになるまでの立ち上げのプロセスが最も難しい部分になります。
特に、必要なメンバーやリソースを集めるには時間がかかるので、手持ちの少ないメンバーとリソースで、小さく弱いが身軽な組織をうまく使って、短期間でプロジェクトを立ち上げ、動かすことができれば利を生むことになります。ただ、このように少人数で立ち上げたプロジェクトが、うまくいかなかった場合には、後々の結果に響くリスクを抱え込むことになるので、自らの組織の力量の評価が重要になります。
リーダがサブリーダやステークホルダーがプロジェクトに参加することで、何の利益を得たいのかを知らなければ、プロジェクトをうまくまとめることはできません。リーダがプロジェクトの対象や範囲をよく理解していなければ、メンバーに適切な動きを指示することはできません。取り組むべきテーマをよく理解しているメンバーがいたとしても、リーダがそのメンバーをうまく活用できなければ、プロジェクトをうまく進めることもできません。
ですので、良いプロジェクトチームとは、無駄な動きをせず、プロジェクトの目標に到達するための利に従って動き、状況に応じてダイナミックに編成を変えることのできるチームともいえます。
また、プロジェクトは 風 → 風の様に素早く、林 → 林の様に静かに乱れることなく、火 → 動き始めれば火のように一気に、陰 → 忍んで不用意に姿を現すことなく、山 → 山のように動ずることなく、雷 → 雷のように、ひとたび現れれば周りを震撼させ、そして、面を確保し、ポイントを押さえ、先を読んで動く事ができないといけません。そして、これらの動きでプロジェクトをどう動かせば、短時間で成果を出せるかを知っているリーダだけが、間違いなくプロジェクトの成果を出すことができます。
なお、さまざまなタスクに対するコミュニケーションやエスカレーションのルール、役割などのルールが必要なのは、ルールがあることでチームがブレることなく一丸となって課題や障害に対応できるからです。
ルールがあれば、障害や課題が発生したときに、チームはやみくもに突き進んだり、ひるんだりすることなく、ルールに従い一歩一歩確実に歩を進めて対応することができます。
また、自らの動きによって相手の出方をコントロールできるのものが、プロジェクトの内外をコントロールすることが出来き、無駄なくゴールにたどり着くことが出来るのです。そして、状況の変化を読み取り、自らの行動をコントロールできるものだけが、プロジェクトが進むことで発生する変化をコントロールすることが出来るのです。
<8.プロジェクトを取り巻く状況への対応指針とリーダの意識>
何か事象が発生して、何かしらの対応を行うにしても、対応を行ってよい場合と対応を行ってはいけない場合があります。新たにプロセスを展開する場合でも、時と場合に応じて、展開してよい場合と悪い場合があります。ですので、状況への対応の仕方を理解しているリーダは、対応することによって目標に到達するための利を得ることが出来ますが、理解できていないリーダはプロジェクトを消耗させるだけで、たとえ対応パターンを知っていても、うまく使いこなすことができず、目標に到達するための利を得るどころか損失を発生させます。
賢明なリーダは、ポジティブなリスクとネガティブなリスクを常に考慮しますし、このバランスを見ているのでプロジェクトを前に進める事への恐れを抱きません。また、賢明なリーダには、同じリスクでもポジティブな側面とネガティブな側面が見えるので、サブリーダやステークホルダーにリスクのポジティブな側面とネガティブな側面を使い分けて提示し、彼らが指示通りに動くように誘います。
そうではない、猪突猛進のリーダは自らリスクに飛び込み、リスクを恐れすぎるリーダはプロジェクトを遅延させ、怒りをコントロールできないリーダはリスクに足をとられ、名誉を重んじすぎるリーダはリスクにはまると知りながら自らリスクに向かい、メンバーに甘いリーダは、プロジェクトのコントロールができなくなります。これらは全てリーダの過失です。その結果、このようなリーダはプロジェクトとそのメンバーを潰してしまうのです。
ですから、賢明なリーダは、プロジェクトに障害やリスクが発生しないことをあてにするのではなく、いつ障害が発生しても対応できるバランス感覚とプロジェクト体制を頼みとします。
<9.プロジェクトを進めるためのリーダの心得>
プロジェクトを進めるに当たっては、目標に到達するための利を勘案して自らの位置を定め、そこから自他のリスクの関係を見ることが必要です。また、自らの目標に到達するための利が常に相手のリスクや損失ではないことの理解も必要です。
コントロールの失敗で大変な事態に入り込んでしまった場合は、まずは、リスクとコストの少ない対応方法を探り、いかなる場合でも目標に到達するための利に通じない無駄な損失を犯す行為や、後々に響くリスクが潜んでいるところにプロジェクトを進めてはいけません。自らを位置を知り、自他のリスクの関係を見つめ、その関係の中から自らの目標に到達するための利の位置を正しく読み取ったからこそ、(中国開国の)黄帝は四皇を打ち破ったのです。
また、リーダは、プロジェクトメンバーが働く場所として、常に健全な環境を選ぶべきです。健康的な環境であれば、エネルギーがみなぎり、進捗もよくなります。環境選びに失敗すれば、生産性の低下や疲労、病気を蔓延させプロジェクトの疲弊を招くだけで、その結果、遅延が発生しプロジェクトコストを増大させてしまいます。リーダは、その兆候を読み取り、プロジェクトの疲弊を招く前に行動を起こさなければなりません。
リーダは、明らかに大きな損失をもたらすリスクからは早く去り、近づいてはいけません。そのためにリーダは、プロジェクトで発生したリスクを知るだけではなく、経験や知識を駆使し感覚を研ぎ澄まし、まだ現れていない、または思い込みで視野から外れているリスクを見極めて、このリスクに対応していく必要があります。
プロジェクトチームは、メンバーが多ければいいというわけではなく、大事なのはメンバー全員で協力して対処できる能力をプロジェクト内に育てることです。
これがあれば成果を出すことが出来ます。力を合わせることも、リスクに対する思慮も無く、安易に進めるプロジェクトは、必ずリスク絡めとられて成果を得ることができません。
リーダがメンバーとの信頼関係がなければ、メンバーにルール違反を指摘しても守られませんし、メンバーに指示を出しても指示を行動に移しません。言い換えれば、指示が常に守られているなかで、リーダが指示を行えばメンバーは指示を守りますが、そういう状況でなければメンバーは指示を守りません。ひとえに指示が常に守られる理由は、リーダとメンバーとの信頼関係が成立しているからです。
この信頼関係が成立しているチームを常勝チームと呼びます。
<10.プロジェクトハンドリングのガイドライン>
プロジェクトにはさまざまなタスクがあり、簡単なものもあれば難しいものもありますが、各々、対応に応じて利と損失が伴います。リーダは、プロとしてこれらのことを理解しなければなりません。
各タスクはプロジェクトの重要な要素です。その扱い方を理解しているリーダは必ず成功しますし、扱いを知らないリーダ、雑に扱うリーダは必ず失敗します。そして、あるタスクに対する進め方が目的の達成に通ずると判断できるなら、人がどう思おうと進めるべきですし、進め方が目的の達成に通じないと判断したときは進めてはいけません。進めるべき時には進め、退くべき時には退くことができることがリーダとしては重要です。
プロジェクトを進める中で、プロジェクトの責任に耐えられず逃げ出すメンバー、ルールを守れず勝手に緩むメンバー、落ち込むメンバー、自分を見失うメンバー、混乱するメンバー、そして障害やリスクに巻き込まれた途端に対処も考えずプロジェクトから逃げ出すものがいます。これはリーダの運とか言ったものによるものではなく、リーダの能力によるものです。
プロジェクトの達人は、行動を起こす前に状況や対応策を把握しているため、行動を起こすときに迷いがなく、たとえ障害が発生しても、その対応策をすでに考えているため、つまずくことがありません。プロジェクトの達人は、自身と自らの組織を知り対象を知ったうえで動くので、必ず成果を出します。また、プロジェクトスコープを正しく知り、状況を理解しているので、必ずゴールにたどり着きます。そして、名声を求めず、非難も恐れず、組織とメンバーのことを考えてプロジェクトに貢献するリーダは組織の宝と言えます。
<11.プロジェクト オペレーション>
プロジェクトの状況は様々です。プロジェクトがまだ始まっていない状態。まだプロジェクト全体が動ききっていない状態。プロジェクト内でぐずついている状態、プロジェクト全体が危機に瀕している状態。リーダは各々の状態に合わせてプロジェクトをコントロールしないといけません。
したがって、各タスクを進めるに当たってリーダは対象と状況をコントロールし、有利な状況になれば進め、そうでなければ機会を待つということを理解しないといけません。とはいえ、プロジェクトをできるだけ早く進めることは重要です。そうすることで、障害やリスクが顕在化する前に対処することができるからです。
もちろん、次の一歩を踏み出すたびに、メンバーは、やり切れるかどうか不安でいっぱいになりますが、「後には引けない」と宣言し、明日の見通しを明確に示すことができれば、メンバーは自発的にプロジェクトに貢献します。
プロジェクトマネジメントの得意な人は、プロジェクトチームを蛇の「率然(常山の蛇)」のように組織全体を束ねて運営します。
リーダはプロジェクト会議体、コミュニケーションルール、エスカレーションルールなどの運営ルールでプロジェクトの動きを標準化することで、スキルに関係なく、メンバー全員が力を発揮できる状況にします。その上で、「率然(常山の蛇)」のように組織全体が一体となってプロジェクトを進めることができるのは、リーダが進めるしかない状況下にプロジェクトを置くからです。
リーダは、何事も深く考え、静かに行動し、対応は公平に行い、メンバーには目の前の仕事に集中させ、やるべきこと以外のことに気を取られないようにします。ですので、リーダは、自他の立場からのプロジェクトの状況の理解、組織の一体感と柔軟な運営、人の心の動きなどを十分に考慮しなければなりません。
また、メンバーにはプロジェクトを進めるためには成果の見える仕事だけを与え、余分な思いに走る可能性のある事は知らせてはいけません。プロジェクトを成功させるためには、メンバーに対してメンバーの成功時の利益だけを教え、失敗で発生する損失の可能性は教えてはいけません。
プロジェクトが進めばメンバーは障害があっても対応できるようになりますが、浅いうちは障害が出れば浮ついて対応できません。そして、進めるしかない状況に追い込まれれば自発的に活動し始め、あまりにも大変な状況に入れば、メンバーはリーダの指示を仰ぎ従うようになります。
そんな中でも、リーダはメンバーの思いがわからなければ、プロジェクトを一体化することは出来ません。リーダがプロジェクトのスコープを明確に提示できなければ、メンバーはプロジェクトを、どれだけ、どの方向に進めてよいのわからなくなります。また、リーダが作業の対象を明示できなければ、メンバーは何を手がかりに進めてよいのかすらわからなくなります。これらのことすべてを把握し指示できないのであれば、プロジェクトの達人とは言えません。
リーダにとって重要なのは、対象と状況を正しく理解することです。そこで初めて、プロジェクトを遂行し、遠い目標に向かって目的を達成し成果を出すことができます。このように運営した結果を、プロジェクトの巧みな運営による成功と言います。
最初は静かに進め、プロジェクトの全体が明確に見えてきたら一気にゴールを目指します。そうすれば、障害はもはや障害ではなくなり、プロジェクトが達成され、成果がもたらされるのです。
<12.障害とリスクマネジメント>
プロジェクトの障害を短期間で、かつ、最小限のコストで、味方へのダメージを最小限に抑えながら取り除くには、実際に障害を引き起こしているものを排除する等、いくつかの対策があります。しかし、こうした対応を可能にするためには、効果的な条件が整っていなければなりません。また、条件を整えるためには準備が必要で、実行には必ずタイミングがあり、それが読めなければ対応は成功しません。
対応を仕掛けたら、必ず対応に正しく応ずる対処法を用います。その時、プロジェクトの全員が、この対処法を理解して守り実行しなければなりません。そうでないとせっかくの対応が無駄になってしまいます。
プロジェクトに対する障害を、最小限のコストと少ないダメージで短期間に取り除くことができるリーダは賢明であると言えます。なお、時間とコストをかければ、少ないダメージで押さえ込むことも出来ますが、それは資金とリソースを集める力がある者だけが可能です。しかも、そのように資金とリソースを用いて対応しても、完全に排除することは出きないのです。
なので、プロジェクトの各タスクでリソースやコストを投入して得た、目標に到達するための利を確保したり確定せずに進める人は危険です。こういう人をコストを垂れ流しにする人と言います。
また、目標に到達することに関係するリスクや障害、利や損失があると読めれば対応しますが、目標に到達することに関係しなければ放置すればよいのです。無駄に動き、損失を発生させて潰した組織は二度と立ち直れないですし、去ったメンバーも戻ってくることはありません。
あと、オーナー側では、障害やリスク、利や損失が顕在化したからと言って、オーナーが自ら任命したリーダを差し置いて、勝手な判断でプロジェクトに介入することは、混乱を発生させることになるため控えるべきです。その様な事が起きれば、リーダは、たとえオーナーであったとしても、いましめる必要があります。
このようにオーナーであっても定めたルールの上で行動することが組織を守り、プロジェクトを成功させます。
<13.情報収集>
数年にわたってプロジェクトを進めて来ても、状況の確認を怠ったために、たった1日の予期せぬ出来事で失敗することがあります。コストを惜しんで各種の状況を知ろうとしないリーダは、支えてくれているプロジェクトメンバーの苦労を理解しないこと、甚だしいものです。こういうリーダは、リーダともいえず、オーナーを補佐してるとも言えず、プロジェクトの成果を出せる者とも言えません。
成功を得るリーダは、いち早く人より情報を得る能力を持っています。なぜならば、プロジェクトにとって重要なテーマに関する情報は、常に人からもたらされるからです。
リーダが聡明でなければ、情報をもたらすメンバーを用いることは出来ません。リーダが人の心を持たなければ情報をもたらすメンバーを活躍させることは出来ません。
リーダに思慮深い心があって、有意義な情報をもたらすメンバーから信頼されて、初めて重要な情報を得ることができるのです。
以上です。
長かったでしょうか。
INDEX 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら INDEX
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