私的解題-9「行軍篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら

「9 行軍篇」プロジェクトを進めるためのリーダの心得に入ります。

「プロジェクトを進めるに当たっては、目標に到達するための利を勘案して自らの位置を定め、そこから自他のリスクの関係を見ることが必要です。また、自らの目標に到達するための利が常に相手のリスクや損失ではないことの理解も必要です。」
→ 「目標に到達するため」には、漫然と進めるのではなく、目標に到達するために必要な「利」(メリットとなるリソースやコスト、タイミング、ポジション等)が取得できるかを考え、その上で自身のプロジェクトがどの位置にいるのかを知り(「己を知り」ですね)、この自らの位置から、「自他のリスクの関係を見る」必要があるとなります。「自他のリスクの関係を見る」ということは、リスクにはネガティブとポジティブな側面があるので、自他のリスクのその両面を見ながら、緊急なのか、放置できるのかといった距離(私の場合、頭の中で図に表しやすいように、時間を距離で比喩することが多いです)を自身の位置から測るということですね。

そして「自らの目標に到達するための利が常に相手のリスクや損失ではないことの理解も必要」という事で、こちらの一挙手一投足が相手に影響したり、抑制を起こしたりするわけではないので、自分が利を得たら相手(抵抗勢力)には損失が発生しているということに、常になるわけではない=勝手に差が生み出されるわけではないことを理解する必要があると言っているわけですね。

続いて
「コントロールの失敗で大変な事態に入り込んでしまった場合は、まずは、リスクとコストの少ない対応方法を探り、いかなる場合でも目標に到達するための利に通じない無駄な損失を犯す行為や、後々に響くリスクが潜んでいるところにプロジェクトを進めてはいけません。自らを位置を知り、自他のリスクの関係を見つめ、その関係の中から自らの目標に到達するための利の位置を正しく読み取ったからこそ、(中国開国の)黄帝は四皇を打ち破ったのです。」
→ 「コントロールの失敗で大変な事態に入り込んでしまった場合は、まずは、リスクとコストの少ない対応方法を探り」は、コストの重要性、リスクの二面性はすでに語られているので理解できると思いますが、コストとリスクの増大は対応を複雑にするので、いずれも少ない方式を考えなさいと言ってるのですね。そして「いかなる場合でも目標に到達するための利に通じない無駄な損失を犯す行為や、後々に響くリスクが潜んでいるところにプロジェクトを進めてはいけません」となります。ここは、書いている通りで解題は不要ですね。

どうやってこれを実現するのかは「自らを位置を知り、自他のリスクの関係を見つめ、その関係の中から自らの目標に到達するための利の位置を正しく読み取」るのだと言っていますね。
ここは先に提示した「目標に到達するための利を勘案して自らの位置を定め」の裏打ちになります。
ちなみに「読み取ったからこそ、(中国開国の)黄帝は四皇を打ち破った」の下りは、ほぼ原意のままの記載を残しています。

次いで
「また、リーダは、プロジェクトメンバーが働く場所として、常に健全な環境を選ぶべきです。健康的な環境であれば、エネルギーがみなぎり、進捗もよくなります。環境選びに失敗すれば、生産性の低下や疲労、病気を蔓延させプロジェクトの疲弊を招くだけで、その結果、遅延が発生しプロジェクトコストを増大させてしまいます。リーダは、その兆候を読み取り、プロジェクトの疲弊を招く前に行動を起こさなければなりません。」
→ これは、その通りですね。私が若かったころは奴隷船みたいなプロジェクトルームもありましたが、コンピュータが早くなり、ネット環境がよくなり、どこでも仕事ができるようになった関係で、奴隷船みたいな環境はずいぶんと減ったと思いますが、環境は直接プロジェクトの生産性と品質に大きく影響するので基本中の基本ですね。

そしてリーダの心構えですね。
「リーダは、明らかに大きな損失をもたらすリスクからは早く去り、近づいてはいけません。そのためにリーダは、プロジェクトで発生したリスクを知るだけではなく、経験や知識を駆使し感覚を研ぎ澄まし、まだ現れていない、または思い込みで視野から外れているリスクを見極めて、このリスクに対応していく必要があります。」
→ 前段は「君子危うきに近寄らず」ですが、前章で賢明ではないリーダの分類とその行動パタンが提示されていましたのでお判りになるかと思いますが、ゆめゆめ、そのようなパタンにはまらないようにしてくださいね。

手短にいえば「感情で動かされるな、利を求めて理性で戦え」ということなのですね。

そして、まだ時期等が到来していないタスクの持つリスク(納品納期はまだ来ていないサーバーが、もし、納期に間に合わなかったどうするか等の対応を考えておく事等)のマネジメントをプロアクティブリスクマネジメント呼ぶのですが、このプロアクティブリスクマネジメントが必要だと言っています。

そして正常性バイアスという言葉で表現される、思い込みによる視野狭窄による検討漏れも注意して当たれと言っています。

さて、ここで話が変わって、プロジェクトチームの話になるわけですが、
「プロジェクトチームは、メンバーが多ければいいというわけではなく、大事なのはメンバー全員で協力して対処できる能力をプロジェクト内に育てることです。これがあれば成果を出すことが出来ます。力を合わせることも、リスクに対する思慮も無く、安易に進めるプロジェクトは、必ずリスク絡めとられて成果を得ることができません。」
→ 「メンバー全員で協力して対処できる能力をプロジェクト内に育てること」。そういうプロセスを踏まないプロジェクトは「必ずリスク絡めとられて成果を得ることができません」と言い切っています。

今までの章でメンバーがこのプロジェクトで何を望んでいるのか、ということを理解できないリーダはダメだと書かれていましたが、それを理解したうえで、「メンバー全員で協力して対処できる能力」を育てることが必要だといっているわけですね。一般に言うベクトルを合わせるということですね。どうすればよいのかはこれから先に形をかえて出てくるので、ここではこの辺りで止めておきますね。

最後はリーダとメンバーとの信頼関係ですね。
「リーダがメンバーとの信頼関係がなければ、メンバーにルール違反を指摘しても守られませんし、メンバーに指示を出しても指示を行動に移しません。言い換えれば、指示が常に守られているなかで、リーダが指示を行えばメンバーは指示を守りますが、そういう状況でなければメンバーは指示を守りません。ひとえに指示が常に守られる理由は、リーダとメンバーとの信頼関係が成立しているからです。この信頼関係が成立しているチームを常勝チームと呼びます。」
→ ここでは、リーダとメンバーとの信頼関係があれば「指示が常に守られ」ると言っています。

どうすれば信頼関係は守られるでしょうか。

最初の「計篇」にあった
「・7つの評価項目(プロジェクトに適用する場合)

  1. 主 → オーナーは正しいガバナンスを行っているか。

  2. 将 → リーダはプロジェクトの対象やスコープに対応できる能力を持っているか。

  3. 天地 → プロジェクトの開始時期やスコープの大きさは適切か。

  4. 法令 → ルールが細かく定義され、実行されているか。

  5. 兵衆 → プロジェクトメンバーの意識やスキルは高いか。

  6. 士卒 → サブリーダのリテラシーが高いか。

  7. 賞罰 → 業績やルール違反に対する報酬や罰則が明確に定められているか。」

ですね。
アバウトにいうとすべてが関連するのですが、3点あげれば「主、法令、賞罰」ですね。
「主」に関してはリーダが関われないところでもありますが、ある意味、「主」が出来ていない組織であるならば、いてもろくなことがないので、自分に力があると思うならば去って新天地を探すのもアリだと思います。特に今のご時世は「人」がいない。特に若い人がいない。若くて力があれば、どこでも引手あまただと思います。
話がそれましたが、このようなリーダとメンバーとの信頼関係があるチームが「常勝チーム」となるわけですね。
その通りと言えばその通りなので、次の章に進みます。

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