私的解題−3「謀攻篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
「計篇」でガイドラインとアセスメント項目が提示され、次に「作戦篇」で予算の持つ意味の重要性が提示されたわけですが、ここの「謀攻篇」では、1)障害や抵抗勢力への対処法、2)オーナーとリーダの関係、3)自己と他者の評価、に関して展開されます。
まず、章の最初にプロジェクトを成功させるマネジメントの目的とその位置づけが記載されています。
「プロジェクトを成功させるマネジメントとは、成果を出すマネジメントです。リスク管理もなく、失敗が起こるたびに闇雲にメンバーを増やすことでも、ましてや抵抗勢力と競り合いを行う事でもありません。多くの傷や損失の上に咲く武勇伝など必要ないのです。ですので、障害や抵抗勢力への対処法の最上の策は、敵味方の誰も傷つけず、損失もなく成果を出すことです。」
→ 「プロジェクトを成功させるマネジメントとは、成果を出すマネジメント」と言い切っています。プロジェクトで「成果」が出なければ、失敗=無駄に時間とコストを使っただけになります。(失敗から学ぶものもあるでしょうが、ほとんどの場合、失った時間とコストを凌駕できるだけの学びはありません。なので転ばぬ先の杖「孫氏の兵法」を意識しろということですね)
次いで「成果を出すマネジメント」とはどういものか。
まずは「1)障害や抵抗勢力への対処法」に入ります。
マネジメントは組織の管理と運営でもあるので、
「リスク管理もなく、失敗が起こるたびに闇雲にメンバーを増やすことでも、」=まず、リスクや障害に頭をぶつけてから慌てて対応するのではなく、ちゃんと管理しなさい。と言ってますね。
次いで、「ましてや抵抗勢力と競り合いを行う事でもありません。」=プロジェクトの目的は成果を出すことなので、抵抗勢力と競り合うことが目的では会いません。言い換えれば「成果に関わらないこと」に拘泥してはいけませんという事になります。
ですの常に「成果」に照準を合わせてマネジメントしなさいと言っています。
また、「多くの傷や損失の上に咲く武勇伝など必要ないのです。」=ラウドスピーカーのように大変さを周りに見せつけるがごとく、大立ち回りのような振る舞いの上に「成果」が得られるものだとする意識は下の下の下、孫子の兵法では、そこまで言っていませんが、「見苦しい」ということですね。
「障害や抵抗勢力への対処法の最上の策は、敵味方の誰も傷つけず」=恨みも買わず=将来の抵抗勢力の芽を作らず、損失もなく=コスト的な消費やダメージもなく「成果を出すことです」が本来の姿であると言っています。
そして、
「障害や抵抗勢力に対処する方法は…直接介入は最後の手段となります。」
→ ここでは、障害や抵抗勢力への対応手段のエスカレーションの順位を示しています。視点は「敵味方の誰も傷つけず、損失もなく」なので、このことを意識した方策が主であり、いろいろ策を練って対応したけれど、どうにもならない。そうなる最終手段としての「直接介入」となるといっています。
なので、
「優れたリーダは、直接介入するのではなく、コストをかけず、何も失うことなく対応し、障害や抵抗を終結させます。そうすれば、無駄にメンバーを疲労させたりコストを消費したりすることなく、プロジェクトの目標を達成させることに集中できます。
つまり、直接対決を避け、資源や資金を投入する前に、策(孫氏の兵法では「謀」)を使って問題を解決することが重要だということです。」
→ ここは、この通りですね。あえて言うならば、リーダは(消耗や恨みを買う)直接対決を避け、策(孫氏の兵法では「謀」)を使うことができないといけない、と言っています。
「自身の組織の力が対象に対して極端に大きければ、有無を言わさずそのまま飲み込みます…明らかに力が足りない場合は避けてプロジェクトを進めます。
障害や対応勢力に立ち向かう力がないのに、挑発に乗ってしまうのは愚かなことです。最悪、プロジェクトそのものを破壊することにもなります。」
→ ここは、自らがターゲットになった、なりそうになった場合の対処法を記載しています。やはり基本は、挑発に乗らず、直接対決を避けることを軸にしています。
だから、
「大きな障害を避けてプロジェクトの前進を優先することは恥じではありません。プロジェクトの目的は何かを考えれば答えは明確です。
プロジェクトの達成=成果の創出はプライドよりも重要です。プロジェクトは目的が達成され、成果が出なければ、プロジェクトを行う意味はありません。
したがって、組織が弱ければ、なおさら慎重に行動し、対応を選択しなければなりません。」
→ 力量を越えた障害にあった場合、避けてプロジェクトの前進を優先することは正しい選択である。と宣言し、言い方を変えると、個人的なプライドなんてプロジェクトの達成に比べれば、どうでもいいことである。と言っています。
ここでの踏ん張りができずに、抵抗勢力の策に乗りつぶれていったプロジェクトを見ているので、「組織が弱ければ、なおさら慎重に行動し、対応を選択しなければなりません」の通りだと思っています。
次いで「2)オーナーとリーダの関係」になります。
「リーダは、組織の資源とコストを使うプロジェクトを任されているがゆえに、組織のオーナーの補佐役となります。
オーナーは組織の利益からプロジェクトコストを出し、組織のメンバーからプロジェクト・リソースを捻出し、プロジェクトが成果を出すまで、コストとリソースと時間をリーダに与えます。ですので、目標達成に向けてリーダはオーナーと緊密な協力関係を築く必要があります。
なお、オーナーとの密接な関係は必要なのですが、オーナーが注意すべきプロジェクトへの介入パタンがあります。
(1)リーダの意見を聞かずに、プロジェクトの方針に直接指示を出すこと。
(2)プロジェクトのマネジメントを知らずに直接指示を出すこと。
(3)プロジェクトの実務を知らずに直接指示を出すこと。
このような行為が行われると、オーナーはプロジェクトを混乱させ、最悪の場合、失敗させてしまいます。
オーナーもプロジェクトに関与をしていますが、リーダを越えて現場に直接指示を行うことは控えなければなりません。」
→ ここは読んでの通りですが、オーナーに対しても、変に介入するなと言っているわけですね。
COOに株主が変に介入して、株価が落ちた、または、組織が消失した例はいくつもあるので、いうまでもないでしょう。
最後が「3)自己と他者の評価」ですね。
「最後に、リーダは対象を正しく理解し評価しなければいけません。そして、自身並びに自身の組織の力量も正しく理解し評価できていなければなりません。
双方を理解し評価できている状態であれば、どう進めばいいかが手に取るようにわかるのでプロジェクトのコントロールで失敗することはありません。
自身並びに自身の組織の力量しか理解し評価できていなければ、理解し評価できていない対象を常に探る状態になるので、プロジェクトのコントロールがうまくいく場合もあれば、うまくいかない場合も発生します。
自身並びに自身の組織の力量を理解し評価ができていなくて、対象の理解も評価もできていないと、そもそも何が起きているのか、何が起こるのか予測できないまま運営することになり、プロジェクトをうまくコントロールできませんし、最悪の場合、プロジェクト自体を崩壊させてしまうことになります。」
→ 超有名な「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」の下りになります。
個人的には「敵を知らず、己を知らずれば、百戦して殆(あや)し」と冗談半分で言っていますが、ここでのキーワードは「コントロール」です。
なので、
「双方[自身と自身の組織と対象]を理解し評価できている状態」であれば、「どう進めばいいかが手に取るようにわかるのでプロジェクトのコントロールで失敗することはありません。」となり、くどいようですが、自らをコントロールでき、自らの動きで相手をコントロールできれば、「失敗することはありません。」と言っているわけです。
孫氏の兵法は、コスト管理、策(孫氏の兵法では「謀」)等いろいろなことを言っていますが、最終的には「コントロール」に収束しますというか、プロジェクト(に関係するすべて)を「コントロール」できるようにするためには、どうすればよいのか。が、主題と思っています。(「史記」の孫武が、最初は統率が取れなかった王宮の美女たちを思う通りに動かした。という逸話がありますが、これも、強硬手段であっても、コントロールが大事であると言う逸話と読めます)
これ以降の章では、この「コントロール」に収束するお話が続きます。
長文、お付き合いいただきありがとうございます。感謝しております。
これからもよろしくお願いいたします。
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