私的解題−2「作戦篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら 

「計篇」の次は「作戦篇」で「プロジェクトリーダのコスト意識」になります。

まず、プロジェクトを行うためにはお金が必要です。
(「1」の予告では、2では銭の話しと書きましたが…ここでは上品にお金とします)
そして、当たり前の話ですが、お金がなければ、その昔、もっと働けとばかりにプロジェクトルーム等に差し入れされていた「何タラ・D」は買えません。(「プロジェクトリーダのコスト意識」とは何の関係もありませんが…)
いずれにしても、プロジェクトマネジメントでは、お金の話は避けて通れません。

この章では、基本的なお金の視点、お金の出どころ(予算)と消費(予算消化)の注意点の視点でお金を見ていますので、これを「私的解題」していきます。
なお、記載順位と違った順での解説になりますが、「私的解題」なので元の文章の順位とは関係なく勝手に進めます。(笑)

本題に入る前に、プロジェクトのお金の出どころに関しての話から始めます。

まずは、プロジェクトを行うためのお金はどこからでてくるのでしょうか。
お金は勝手に湧いては来ません(当たり前すぎて、くどいようですが…)。なので、どこかで稼いでこないといけません。でも、稼いだからといって、そのお金の全額をプロジェクトに投入することはできません。
例えば、お給料をもらったからと言って、給料日当日に好きな競馬に全額につぎ込むことは、普通の人では出来ないのと同じです。
そんなことをすると明日からの生活も成り立ちませんし、借家ならば翌月には家を追い出されます。なので、普通の人は生活費等もろもろ生きるために必要な費用を引いた後の残った金額から馬券を買うことになります。

馬券を対象とした話からプロジェクトの話に戻ると、プロジェクトは組織が行います。多くは営利企業が行うことになります。
(個人でもプロジェクトと銘打って進めることもありますが…このブログも「晁岳プロジェクト」ですね、この場合は自腹ですね)。
なので、プロジェクトを行うためのお金は営利企業(以下、企業)が出すことになります。
もちろん、企業であっても、お金が湧いてきたり、勝手にお金を刷るわけにはいかないので、企業も従業者を使って何らかの商売をして稼ぐとなります。そして稼いだ金から、原材料費、人件費(私たちの給料)、たまにおこぼれにあずかる接待費等、いろいろなお金を払ったあとの最終利益からプロジェクトを行うためのお金が払い出されることになります。
製造業ですと、最終利益の平均値は総売上の4%程度なので、年10億円の売り上げのある企業だと4千万円程度が最終利益として残ります(個人だと馬券を買う事のできるお金ですね)。ここから、まだ「利益の源泉の一つになっていない」プロジェクトの費用を出すことになります。

ここで大切なのは、この最終利益4千万円は年10億円の売り上げが無いと残らないお金になり、5億円の売上だと2千万円にしかならないとなります。
利益側からではなく損失側から見ると、この企業が4千万円の損失を出した場合、最終利益は無くなるだけですが、8千万円の損失を出すと最終利益はマイナス4千万円。賃金カット等を行わずに、通常の営業活動だけで補填するとすると、プラス10億円の売上がないと補填できないとなります。なおかつ、いつもは4千万円の最終利益を出していたので、これに加えていつも通りの4千万円の利益を出そうと思うと、もう一声プラス10億円で、都合30億円の売上が無いと、8千万円の損失を埋めて、かつ、通常の4千万円の利益を保持できないとなります。
机上での計算ではこれで問題なしとなりますが、実体的にはフル稼働で年10億円分しか商品が作れない設備しかない会社であったとしたら、年30億円の商品を作ることは不可能でしょう。8千万円の損失を出した場合、銀行から4千万円借りて何年もかけて損失の補填と返済をしていくことになります。

これで、プロジェクトをしく(じ)って、予算以上のコストがかかってしまうと、どんな悲惨な明日が来るか、ご想像できたかと思います。

ですから「孫氏の兵法」では
「プロジェクトにおけるコストの重要性を知っているリーダだけが、組織やプロジェクトメンバーの将来の成果を担うことができます。したがって、コストの重要性を理解していないリーダを任命してはいけません。」
となるわけです。
そこで最初に戻って、そうならないためにリーダは何を考えていないといけないか、が以下の記載になります。

「何らかのトラブルで予定期間より数カ月でも遅れるとプロジェクトの予算はおろか、組織の他の予算さえも使い果たしてしまいます。」
→ これは、上記内容を一言で言っていますが、コスト面から見れば、絶対に納期遅延は許しません。という事を裏で言っています。

「プロジェクトに問題が発生したら、迅速に評価し、対処し、場合によっては問題を受容してでも、プロジェクトを進め、成果をできるだけ早く出さなければなりません。ですから、成果を求めるのではなく、結果の完璧さを求めるためにプロジェクトを遅らせる(コストをかける)ことは許されません。」
→ また、プロジェクトはビジネス上の成果を出すための「手段」なので、問題の軽重を素早く判断し、納期遅延に繋がる問題の解決はさっさと行い、重度の低い問題の場合は、受容という選択をしてでもプロジェクトを進めないといけないと言っています。ですので、個人的な趣味感覚で成果の完璧さにこだわって時間(=コスト)を使うのはもってのほかだと言っているのです。

「プロジェクトの実行が組織の利益を消費して進むことを理解していないリーダは、利益を消費してまで求められるプロジェクトの成果の重要性が理解できていません。なので、プロジェクトの実行が組織の利益を消費して進むことを理解している人物をリーダに任命する必要があります。」
→ これは前述の内容と同じことを言っているわけですが、同じ内容が二回出てきているという事は、とても重要なことになります。この内容を、少し現実の実務寄りに踏み込んで言うと、プロジェクトリーダですと言う人でも「EVMS(Earned Value Management)[←知らない方は、ネットで調べてみてください。ためになります]」を理解していない方がいますが、こういう人をリーダにするとプロジェクトが(大)赤字で終わるか、ぶっつぶれるので任命してはいけないという事を言っています。

「プロジェクトを進めるにあたって、プロジェクトメンバーは自らの組織から選任者を割り当て進むべきです。また、プロジェクトが大きくなればなるほど、コストはかさみ、組織負担が増えます。ですので、プロジェクトを運営するためのコストは、できる限り最小限に抑えるべきです。」
→ ここの文章は原著では、敵対勢力との絡みある部分も含んでいるのですが、プロジェクトでは「抵抗勢力」はいても「敵対勢力」は基本的にはいないので、その部分を抜いた関係で、記載のような翻案になりました。これは解題もなくこの通りです。ちなみに「自らの組織から選任者を割り当て」の部分はノウハウが自社組織に残るための後継者育成の意味合いも含めています。

「また、成果を出すことを忘れて、抵抗勢力と直接対決しようとするリーダは、理性よりも感情にとらわれているため、目標に到達することは難しいです。感情を超えて、目標達成に集中すれば、課題やリスクに打ち勝ち、プロジェクトの力を高めることができます。感情的な対立は、その場の勝ち負けでしかなく、その勝ち負けで目標が達成できるわけではありません。プロジェクトとは目標を達成すること=成果を出すことですので、目標を達成するための利を考えて行動すべきです。

→ プロジェクトリーダがコストを消費してプロジェクトを遂行する上で意識をどう持つべきかといった部分ですね。感情に振り回されてプロジェクトを進めるな。そんなことを行っている暇があれば、感情ではなく理性をもって「目標を達成するための利を考えて行動」しろと言っています。

「また、プロジェクトの第一目標は成果の創出ですが、そのために過剰なコストや時間を費やしてもよいということではありません。時間はコストでもあるので、短期間でプロジェクトを成功させることは、コストを抑えてプロジェクトを成功させることでもあります。」
→ ここでも前述の内容が形を変えて出てきていますね。くどいという事は大事なところですね。少し「兵法」に近い表現で説明すると「降参だ」と言って負けを認めているのに、わざわざ追加の時間(=コスト)をかけて「完膚なきまでにたたきのめす」必要はないという事です。無尽蔵にお金があるわけではないので、時間(=コスト)をかけてそんなことをしている暇があれば、コスト圧縮の意味も込めて、次のフェーズないしタスクに移ってプロジェクトを前進させろ言っています。

男女の仲が終わるときに「カネの切れ目が縁の切れ目」と言ったりしますが、プロジェクトもスタートアップ企業と同じく、成果まで、あと一歩でパラダイスだ。と言っても、お金が切れれば、その場でおしまい、組織は解散です。ですから、プロジェクトリーダはコストの意味を理解し、コストにこだわり、コストの視点を忘れてはいけない。と言っているのですね。そして、これが分からない人をリーダにしてはいけない。となります。

今回は「私的解題」が、前回に比べて(前回が甘い?)ずいぶんと長くなってしまいました。
しかし、お金はプロジェクトマネジメントの基盤であり、とても大事な部分なのに、これを理解していない人=予算は俺のお小遣いなんて思っている人がいる関係で、少し多言してしまいました。

次は、「謀攻篇」で「障害や抵抗勢力への対処法、オーナーとリーダの関係、自己と他者の評価」とまた長くなりそうです。

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