私的解題−14「孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら」の元版

「孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら」は元版があり、元版はプロジェクトマネジメントの観点で「岩波文庫 新訂 孫子 金谷 治 訳注(33-207-1)」に沿って孫子の兵法を解読したものです。
なので、章立ては岩波文庫に沿っています。また、読みやすく翻案した「孫子の兵法…翻案したら」の元版では、兵法書としての細かな戦術記述であったり、既に記載されている部分の補完記載部分と思われる部分は「…」で省略記載が判るようにしている部分を消し込んでいますので、これを読んでいただければ、「翻案」の記載が「岩波文庫 新訂 孫子 金谷 治 訳注(33-207-1)」のどこに当たるかを知ることができるので公開します。

<元版>
「孫子の兵法 解読 プロジェクトマネジメントの観点から孫子の兵法を読む」 晁岳Project

1 計篇

・プロジェクトを立ち上げるに当たっての心構えと、プロジェクト評価の必要性、評価方法、その用い方

[1] プロジェクトは、組織の存亡を決めるものである。故に決して思いつきだけで着手し進めてよいものではない。

プロジェクトに着手して進めるかどうかは、五事=5項目のガイドラインと、七計=7項目の評価項目を用いて判断を行う。

<五事>5つのガイドライン項目 (⇒プロジェクトに当てはめた場合)

道  ⇒ 組織のガバナンス。
天  ⇒ プロジェクトを開始すべきタイミング。
地  ⇒ プロジェクトの対象とスコープ。
将  ⇒ プロジェクトリーダの能力。
法  ⇒ プロジェクトの遂行、運営に必要なルール。
この5項目の検討をプロジェクト遂行のためのガイドラインとする。

<七計>7つのアセスメント(評価)項目 (⇒プロジェクトに当てはめた場合)

主  ⇒ オーナは良いガバナンスができているか。
将  ⇒ リーダはプロジェクトの対象とスコープに対応した能力を持っているか。
天地 ⇒ プロジェクトに取りかかるタイミングとプロジェクトスコープの規模は適切か。
法令 ⇒ プロジェクト組織内のルールは定められ運用されているか。
兵衆 ⇒ プロジェクトメンバーの意識とスキルは高いか。
士卒 ⇒ サブリーダのリテラシーは高いか。
賞罰 ⇒ 成果やルール違反時の賞罰は明確に行われているか。
この五つのガイドラインと七つのアセスメント項目を用いることで、プロジェクトが成功するかどうかを計画の段階で知る。

[2] リーダが、このガイドラインとアセスメント項目を理解して、プロジェクトを進めるならば成功すると考える。よって彼をリーダとしてプロジェクトを進めるべきだが、そうでなければ、プロジェクトを進める前の段階で失敗すると判断がつくため、彼をプロジェクトのリーダとしてはいけない。

リーダが、このガイドラインとアセスメントの項目に沿ってプロジェクトを進める準備が出来たならば、これを土台とし、プロジェクトを前に進めようとする勢いをここに加えて、プロジェクトを開始する。

[3] 実際のプロジェクトは、五つのガイドラインと七つのアセスメントで確認ができていれば、何も問題が起こらず成功するというものではない。プロジェクトを進めていけば、想定外の障害が発生したり、抵抗勢力も発生する。このようにプロジェクトの行く先は完全には読みきれないものである。そうであるが故にも、リーダはせっかくのプロジェクトの勢いが無駄にならぬように、プロジェクト環境を含む全てをコントロールしてプロジェクトを進めなければならない。

[4] しかし、何が起こるかわからないと言っても、五つのガイドラインと七つのアセスメントの項目で示された準備が出来ていれば、成功に向かうことが出来ると予測できる。そうでなければ、失敗の可能性が高いと予測できる。

ここで示した五つのガイドラインと七つのアセスメントで検討と評価を行えば、計画の段階でプロジェクトの成否の予測が出来るので、必ずこの検討と評価を行い、そのうえで最終的にプロジェクトを進めるかどうかを判断することが重要である。

2 作戦篇

・プロジェクトにおけるリーダのコスト意識

[1] プロジェクトを進めるためにはコストがかかる。1ヶ月あたり何十人月もの人工を消費するプロジェクトが、何らかのトラブルによって計画していた期間より数ヶ月でも遅れるとなると、プロジェクトの予算どころか出資元の組織の予算すら使いきってしまう。

こうなると全てが滞り、プロジェクトに対して反対の声も大きくなり、どんなに優秀な人材がいたとしてもプロジェクトを守りきることが出来なくなり、目標に向けてプロジェクトを進めることすら出来なくなってくる。

だから、プロジェクトに問題が発生した場合、すばやく重要度を判断して対処し、場合によっては受容してでも、1日でも早くプロジェクトの成果を出すことが求められる。完璧な結果を出すためだけにプロジェクトを遅らせる(コストをかける)といったことは認められない。

このように、プロジェクトを遂行することが、組織からのコストの供給の上に成り立っていることを理解できないリーダは、プロジェクトの遂行によって得るべき成果の重要性も理解できない。だから故に、そういうことが理解できない人間をリーダとしてはいけない。

[2] プロジェクト専従者は、基本的には一度定めたら結果が出るまで補給は行わない。また、プロジェクト運営の追加コストの発生は、できるだけ少なくする。出来るならばメンバーは自分の組織から出し、コストは反対/抵抗勢力から供出させるのがよい。なぜならば、プロジェクトコストの全てを自身の組織でまかなっていると、プロジェクトが大きくなればなるほどコストがかかり組織は疲弊する。これを防ぐためにも反対/抵抗勢力からコストの供出を求め、反対/抵抗勢力の力を弱めるのがよい。

[3] 抵抗勢力と直接対決を求める者は、理性ではなく感情にとらわれているだけで利益を生まない。感情を超えて反対/抵抗勢力より利益を得ることを軸に置いて進めば、反対や抵抗に打ち勝ち、かつ、プロジェクトの力を増すことになる。感情での対立は、その場の勝ち負けでしかなく、消耗=損失はあっても利益を生まない。プロジェクトは目標を達成すること=成果を出すことである。常に利益を考えて行動する必要がある。

[4] プロジェクトは成功すること=目標を達成することが第一であるが、このために長引いてよい=コストかけてよいといっているわけではない。時間はコストであるから故にプロジェクトを短期間で成功させるのはコストを少なくして成功することになる。

プロジェクトにおけるコストが、どういうものか知っているリーダだけが、プロジェクトメンバーと組織の未来を担うことが出来る。だから、コスト面の重要性を理解出来ないリーダには絶対にプロジェクトを任せてはいけない。

3 謀攻篇

・障害や反対/抵抗勢力への対応の仕方、オーナとリーダの関係、自他の評価

[1] プロジェクトを成功させるとは=成果を出すことである。リスク管理も行わず、障害発生の都度、闇雲にメンバーを投入したり、ましてや、反対/抵抗勢力と競り合うことでもない。武勇談は不要で、誰も傷つくことなく成果を出すことが最善である。

[2] 障害や反対/抵抗勢力への対応策として最もよいやり方は、リソースを投入する前に解決することであり、次策としては孤立させ、その次は動けなくし、最終手段としては直接介入して終息させることである。しかし、直接介入するとなると自身の組織の損失も発生し、想定外のコストもかかり、これらが大きくなればプロジェクト目標の達成も危うくなる。だから、直接介入を最後の手段とする。

良く出来たリーダは直接介入を行わず、失うものも無く、コストもかからない内に対応し終息させる。こうすればメンバーの疲弊もなく、プロジェクトの前進に全てのリソースやコストを投入することができ、損失無く全ての利益をすくい上げることができる。これが直接対決を避け、謀(はかりごと)でリソースやコストを投入する前に解決することの意味である。

[3] 自分の組織の力が対象に対して極端に大きければ、そのまま飲み込んでしまい、明らかに大きければ、対応を行う準備を見せることで帰順を求め…[省略]…こちらの力が小さければ、下手な関係を持つことから逃げ、力が及ばないならば、これを避けてプロジェクトを進める。

障害や反対/抵抗勢力に対峙する以上の力が無いのに、挑発するようにプロジェクトを進めるのは、プロジェクト自体を潰してしまう愚かなことである。

対応が出来ないほど大きな障害を避けて進むのは恥でもなんでもない。何のためにプロジェクトを進めるのか。プライドよりもプロジェクトの達成が大切である。プロジェクトは目標が達成されなければ意味をなさない。だから、自分の組織が弱ければ、なおさら慎重に行動し対応策を選ぶことが求められる。

[4] リーダは組織からリソースとコストの提供を受けてプロジェクトを任されているが故に、組織運営者(オーナ)の補佐役である。組織運営者(オーナ)は組織の利益からプロジェクトのコストを捻出し、組織のメンバーからプロジェクトの人的リソースを出し、プロジェクトが利益を生むまでの間、コストと人的リソースと時間をリーダに与えているのである。だから、組織運営者(オーナ)と密に連携をとって動いていれば、目標の達成にも近づくが、疎な連携で対応していると目標に対する意識の乖離が生まれ、あらゆる面で目標の達成が難しくなる。

上記のような関係でもあるが、組織運営者(オーナ)が注意しなければいけないプロジェクトへの介入のパターンが三つある。

  (1)リーダーの意見も聞かず、プロジェクトの方針に対して直接指示を出す。
  (2)プロジェクトの運営も知らずプロジェクトの運営に対して直接指示を出す。
  (3)プロジェクトの実務も知らずプロジェクトの実務に対して直接指示を出す。
これが行われると、組織運営者(オーナ)がプロジェクトを乱して、プロジェクトを失敗させることになる。

[5] 対象への評価ができており、自身の評価ができていれば、どの様に進めればよいかが手に取るようにわかるので、何を行っても誤りが無い。自身の評価しかできていなければ、都度、動きのわからない対象に合わせて進め方を考えないといけないから、うまく行く場合と、うまく行かない場合が出てくる。自身の評価も対象の評価もできていなければ、進め方も出たとこ勝負になり、この勝敗の結果が跳ねた先を起点にして都度々々プロジェクトの方向を変えて運営するため、プロジェクトをうまくコントロールできなくなり、最悪の場合、プロジェクト自体を崩壊させてしまう。

4 形篇

・プロジェクトの運営態勢

[1] プロジェクトの既に見えているリスクに対しては、必ず防ぐことのできる態勢で望み、その態勢でプロジェクトを守りながら、進める中で新たに現れてくる障害に対処すべきである。

目標を達成できるか評価することは大切である。しかし、達成できると評価し計画を立案して進めても、障害はいつどんな形で現れるかわからず、実際に達成できるかどうかは、プロジェクトが完遂されるまで判らないものである。だから、障害やリスクに負けないのが守備となり、障害やリスクに打ち勝つのが攻撃となる。

[2] プロジェクトを進めることが巧みなリーダは、派手な動きを見せず、無駄のないプロジェクト運営で目標を達成する。

必ず成果を出すリーダは、障害やリスクを自身でコントロールできる圏内に引き込む。だから、何一つ目立つこともなく目標を達成する。何事も無かったかのように対応するため、プロジェクト運営を本当に知る人にしかリーダの真価はわからない。

プロジェクトを巧みに進めるリーダは、状況をコントロール可能な状態にして、かつ、成功を収めるチャンスを見失なわない。

目標を達成するプロジェクトは、リスク等への各種対応や施策の計画を立て、成功の可能性を検証の上で着手するが、達成できないプロジェクトは、計画も無くプロジェクトに着手し、動き始めてから目標達成の方策を考える。

[3] プロジェクトを巧みに進めるリーダは、メンバーのベクトルを目標に向けてそろえ、定められたルールを遵守させることができる。だから、プロジェクト全体の一体化した運営が行え、目標を達成することが出来る。

[4] プロジェクトを進めるに当たり以下の五つの確認項目がある。
①度 ⇒ プロジェクトの規模
②量 ⇒ 投入すべきリソース
③数 ⇒ 要員
④称 ⇒ プロジェクトチームの能力
⑤勝 ⇒ 目標達成の可能性

(地)対応すべきプロジェクトの対象とスコープのことを考えると、度:プロジェクトの規模の検討が必要となり、規模の検討の結果、量:投入すべきリソースの検討が必要となり、リソースの検討の結果、数:要員の検討が必要となり、要員の検討の結果、称:プロジェクトチームが持つべき能力の検討が必要となり、プロジェクトチームが持つ能力の検討の結果、勝:目標達成の可能性の検討ができるようになる。
目標を達成するプロジェクトは、都度、この検討のプロセスを経て進めるが故に、目標達成の確度は明確にわかるが、この検討を行わない=現状の分析を怠るプロジェクトは、先々どうなるの読むことができない。

[5] プロジェクトを一気加勢に進めることが出来るのは、ここまで言ってきたプロジェクトの運営態勢が準備出来ているからである。

5 勢篇

・プロジェクトのコントロール

[1] プロジェクト全体が統一感を持って進めることができるのは、分数 ⇒ チームの編成による。また、プロジェクト全体が崩れることなく、障害やリスクに立ち向かえるのは、形名 ⇒ 指揮系による。プロジェクトが目標を達成できるのは、まず、正 ⇒ 標準動作ができる上で、奇 ⇒ 臨機応変の対応ができるからである。プロジェクトがいかなる障害やリスクにやすやすと対応できるのは、対象の虚 ⇒ うつろな部分を読み切って、実 ⇒ しっかりした方式で対応するからである。

[2] プロジェクトは正:標準動作ですすめ、奇:臨機応変の対応で課題を解決して進める。いつしかこの奇:臨機応変の対応が正:標準動作となり、環に端がないように奇:臨機応変と正:標準動作が永遠にめぐり合う。この正:標準動作と奇:臨機応変の対応を極めたリーダがプロジェクトを成功へと導く。

[3] プロジェクトの勢いは鋭く、節 ⇒ 重要なポイントでは、その勢いの力で一気に突き貫くようにしなければならない。

[4] プロジェクトの混乱は、治めることの揺らぎ中から生まれ、目標到達への不安は推進する力の隙間から生まれ、任務に対しての弱気は責任の重さから生まれる。混乱が生まれるか、どうかは(分)数 ⇒ チームの編成が、実態に合っているか、どうかである。不安を拭うことができるかどうかは、プロジェクトチームの勢 ⇒ 勢いが、強いかどうかである。任務に対して弱気に陥るか、どうかはプロジェクトの形 ⇒ 態勢が、メンバーの責任をフォローできる仕組みを持っているかどうかである。

[5] 相手に求めるものを見せれば、それを求めるために動き、渡そうとすれば取っていく。相手を自分の思い通りに動かそうとする者は、利益を見せることで相手を動かし、自らは準備し、相手がやってくるのを待って、相手が来れば、利益を用いて相手をコントロールする。

[6] プロジェクトをうまく運営する人は、プロジェクトの力を個々人の能力発揮だけには求めず勢いを作ることを重視する。この上で、個々人の力を最大限発揮できるように適所に配し勢いに乗せて目標へと突き進む。

6 虚實篇

・障壁に対してのプロジェクトの組織態勢について

[1] 先に準備して進める 充 ⇒ 実のあるプロジェクトは楽ではあるが、すでに遅れて 隙 ⇒ 虚を持つプロジェクトは大変である。よきリーダは、まず自らを 充 ⇒ 実のある状態に置き、コントロールの中心である態勢を作るが故に他の干渉を受けない。

[2]  何事においても静かに動き、プロジェクトの内情を知らせてはいけない。故に障壁側からは手の打ち所の無い状態を保つことによって、プロジェクト運営の全てを思い通りにコントロールすることができる。

[3]…[省略]

[4] 障壁側を常に見える状態にして、情報のコントロールにより自からを見えなくすれば、障壁側は我々を探すため力を分散し虚を生み出す。これにより我々は相手の持つ虚に集中できる。…[省略]…このような状況下で、対応を行う場所とタイミングが分れば、無理をしてでもプロジェクトを進めるべきである。必ず障壁を超えることができる。

[5]…[省略]

[6] プロジェクトの動きは定められた形が無いことに極まる。定められた形が無ければ、抵抗勢力といった障壁側にもプロジェクトの動きを読まれることはない。

[7] プロジェクトは水に習う。水は形を地形に合わせ、休むことなく流れて行き決して動きや形態に無理がない。…[省略]…このようにプロジェクトの置かれている状況に合わせて静かに留まることも無理もなくプロジェクトを進めていくことを「神妙」と言う。

7 軍爭篇

・プロジェクトの動きについて

[1] プロジェクトは計画を立て、メンバーやリソースを集め、方針を提示し、それを理解させ、一丸となって動き出すまでが一番難しい。

必要なメンバーやリソースを集めることは時間がかかる。だから、手元にいる少数のメンバーとリソースを用いて短時間に立ち上げ、この弱くもあるが軽い組織をうまく使って早くプロジェクトを稼動させることが出来れば利益を生むことができる。

しかし、このようにプロジェクトを少ないメンバーでいち早くスタートできることは利益を生むが、ここに無理があれば、後々響くリスクを抱えることになる。

[2] サブリーダやステークホルダーがプロジェクトに参加することによって何を得たいのか判らなければ、プロジェクトをうまくまとめることは出来ない。プロジェクトの対象とスコープを理解できていなければ、メンバーに適切な動きを指示することはできない。また、対応すべき対象をよく知っているメンバーがいても、うまく用いることが出来なければ、プロジェクトを善い方向に進めることは出来ない。

[3] 良いプロジェクトチームとは無駄な動きを排し、利益に従って動き、状況に応じて編成をダイナミックに組み替えながら進むプロジェクトである。

成功するプロジェクトは 風 ⇒ 素早く、林 ⇒ 静かに乱れることなく、火 ⇒ 一気に、陰 ⇒ 身を低くして目立つことなく、山 ⇒ 動ずることなく、雷 ⇒ ひとたび表に現れれば周りを震撼させ、面を確保しポイントを押さえ、先を読んで動くダイナミズムの上に成り立つ。そして、どのように動けば、短時間でいかに成果を出せるかを知っているリーダだけが、間違いなく成果を出すことが出来る。

[4] なお、コミュニケーションルールやエスカレーションルール等、各種運営に関わるルールと、その中での役割確定が必要なのは、これらが定まっていることによって、チームが一丸となって課題や障害に対応できるからである。これが定まっていれば、発生した障害や課題に対して、闇雲に進むことも、怯むことも無く対応することが出来る。…[省略]…

自らの動きによって相手の出方をコントロールできるのものが、自らの力をコントロールすることが出来き、無駄なくゴールにたどり着くことが出来る。また、状況の変化を読み取り、自らの行動をコントロールできるものだけが、変化をコントロールすることが出来る。

8 變爭篇

・プロジェクトをめぐる状況への対応指針とリーダの意識について

[1] 対応を行うにしても、対応を行ってよい状況と対応を行ってはいけない状況がある

[2] プロセスでも行ってよい進め方と行ってはいけない進め方がある。

[3] 各種の状況への対応の仕方を理解しているリーダは、利益を得ることが出来るが、理解できていないリーダはプロジェクトを消耗させるだけであり、たとえ、対応パターンを知っていても、うまく使いこなすことができない。

[4] 賢いリーダは必ずプラスのリスクとマイナスのリスクを考える。このバランスを見ているから不安もなく、成功する。

[5] リスクのプラス面もマイナス面も見えているが故に、サブリーダやステークホルダーに、このリスクのプラス面とマイナス面を使い分けて提示し、これによって指示とおりに動かすことができる。

[6] プロジェクトは、障害やリスクが発生しないことをあてにするのではなく、いつ障害が発生しても対応できる体制を頼みとする。

[7] 猪突猛進のリーダは自らリスクに飛び込み、リスクに怖気づいて進めることの出来ないリーダはプロジェクトを停滞させることによってコストを増大させ、怒りをコントロールできないリーダはリスクに足をとられ、名誉を重んじすぎるリーダはリスクにはまると知りながら自らリスクに向かい、下手にメンバーに甘いリーダはプロジェクト自体をコントロールできなくなってしまう。これらはリーダの過失であり、その結果、プロジェクトとそのメンバーを潰してしまう。

9 行軍篇

・プロジェクトを進めるために必要なリーダの心得

[1] プロジェクトを進めるに当たっては、利益を勘案して自らの位置を定め、そこから自他のリスクの関係を見ることが必要である。また、自らへの利益が常に相手のリスクではないことの理解も必要である。大変な障害に入り込んでしまった場合は、まずは、リスクとコストの少ない対応方法を探り、いかなる場合でも利益に通じない無駄な損失を犯す行為や、後々に響くリスクが潜んでいるところにプロジェクトを進めてはいけない。…[省略]…自身の位置を定め、そこから自他のリスクとの関係を見て、自らの利益を読み取ったことこそが、(中国開国の帝王)黄帝が四帝に勝った理由である。

[2] リーダは、プロジェクトメンバーが作業する場所には、必ず健康的なところを択ぶべきである。健康的な場所では活力も湧き進捗もよい。場所を択ばないのは疲労や病気を蔓延させ、このことによりプロジェクトが疲弊し、結果、納期を遅延させ、プロジェクトコストを増大させるだけになる。

[3] プロジェクトリーダは、事が起きる前に、必ず予兆を読み対策を取らなければならない。

[4] プロジェクトリーダは、明らかに大きな損失をもたらすリスクからは早く去り、近づいてはいけない。

[5][6][7][8]…[省略]… そのためにはリーダはプロジェクトにおいて発生したリスクを知るのではなく、経験と知識を総動員して見えないリスクを確認し(プロアクティブリスクマネジメント)、感覚を研ぎ澄まし、対応する必要がある。

[9] メンバーは多いことが良いわけではない、大切なのは力を合わせて対応していく能力である。これがあれば成果を出すことが出来る。力を合わせることも、思慮も無く安易に進めるプロジェクトは、必ずリスクに絡めとられて成果を得ることができない。

メンバーとの信頼関係が無ければ、ルール違反をとがめても守らない。メンバーは信頼関係がないと動かない。この信頼関係が成立しているチームを常勝チームとよぶ。

指示が常に守られているなかでリーダが指示を行えば守られるが、そうでなければ誰も守らない。指示が常に守れるのは、リーダとメンバーとの信頼関係が成立しているからである。

10 地形篇

・プロジェクトへの対応指針

[1] プロジェクトのタスクには易しいもの、難しいものといろいろあり、各々に利益と損失が伴う。これらのことをリーダはプロとして理解していなければならない。

[2] メンバーにはプロジェクトの責務に耐えられず逃げるもの、勝手に緩むもの、落ち込むもの、自らを失うもの、混乱するものがおり、障害やリスクに捕らえられるや否や、対処も考えずプロジェクトから逃げ出すものもいる。これはリーダの運とかではなく、リーダの能力によるものである。

[3] 個々のタスクはプロジェクトの重要な要素である。これをどのように扱えば良いか理解して対応するものは必ず成功し、雑に扱うものは必ず失敗する。

また、成功すると理が通ずるときは、だれがなんと言おうと進めるべきであるし、理が通じないときは進めてはいけない。進めるべき時には進め、退くべき時には退く。功名を求めず非難も恐れない。ただ、組織とメンバーのことを思って組織に貢献するリーダは、組織の宝である。

[4]…[省略]…

[5] プロジェクトの達人は、状況も対応もわかった上で事を進めるため、行動を起こしても迷いが無く、障害が発生しても既に対応策を考えているが故に、つまずくところが無い。プロジェクトの達人は、自らのチームを知り、相手を知り、必ず成果を出し、プロジェクトスコープを正しく知り、状況を理解し、必ずゴールにたどり着く。

11 九地篇

・プロジェクト運用

[1] プロジェクトの状態は、さまざまである。プロジェクトがまだ始まっていない状態。まだ全体が動ききっていない状態。プロジェクト内でぐずついている状態、…プロジェクトが全体絶命の窮地に追いやられてしまった状態。…リーダは各状態に合わせてプロジェクトをコントロールしないといけない。

[2] 故に、各タスクを進めるに当たってリーダは、対象と状況をコントロールし、有利な状況になれば進め、そうでなければ機会を待つということも理解しないといけない。

[3] とは言っても、プロジェクト一歩でも早く進めることは重要である。これにより障害やリスクが顕在化する前に、対応が可能になるからである。

[4] 次のステップに進むたびに、やり切れるかどうか、心が不安で一杯になるが、後に引けないことを宣言し、明日がどうなるかを、明確に提示できれば、メンバー全員がプロジェクトに自主的に貢献する。

[5] プロジェクト運営のうまい人は、プロジェクトチームを「率然(常山の蛇)」の様に組織全体を一体化させて運営することが出来る。

プロジェクトの会議体やコミュニケーションルール、エスカレーションルール等の運営のルールがプロジェクトの動きを標準化し、プロジェクトの置かれた状況に対して、スキルの有り無しにかかわらず全メンバーが共同して力を出し切ることが出来るようにする。この上で、「率然(常山の蛇)」の様に組織全体を一体化してプロジェクトを進めることが出来るのは、リーダが進めるしかない状況下にプロジェクトを置くからである。

[6] リーダは、深く静かに、何事においても公正に仕事を行うべきである。そして、メンバーには目前の仕事に集中させ、行うべき事以外の動きに対して気を煩わされないようする。…[省略]…リーダは、自他から見たプロジェクトの状況、組織の一体化と自在な組織運営、人の心の動きを充分に考えなければならない。

[7] プロジェクトが深く進めばメンバーは障害があっても対応するが、浅いうちは障害が出れば浮ついて対応できない。…[省略]…であるが故に、進めるしかない状況に追い込まれれば自発的に活動し、あまりにも大変な事態になれば、自ずからリーダの指示に従うようになる。

[8] サブリーダの思いがわからなければ、プロジェクトを一体化することは出来ないし、プロジェクトのスコープがはっきりしなければ、プロジェクトを、どれだけ、どの方向に進めてよいのかわからない。プロジェクトの状況がよくわからなければ、何を手がかりに進めてよいのかわからなくなる。これらのなかで一つでも把握できていないものがあるのならば、プロジェクトの達人とは言えない。

プロジェクトを進めるためには成果の見える仕事だけを与え、余分な思いに走る可能性のある事は知らしてはいけない。プロジェクトを進めるためにはメンバーにとって成功の利益だけを教え、失敗することによる損失の可能性は教えてはならない。

[9] プロジェクトにとって大切なことは、対象や状況を正しく理解することである。これがあってはじめて、遠いゴールに向かってプロジェクトを遂行し目的を果たすことが出来る。これをプロジェクトの巧みな運用による成功という。

最初は物静かに進め、対象の全貌が明らかになった時点で一気加勢にゴールを目指す。こうなると障害や障壁も障害や障壁ではなくなり、成功を収めることが出来る。

12 火攻篇

・障害、リスク対応

[1] プロジェクトの障害を、短期間に最小限のコストで味方のダメージを最小限にして取り除くには、いくつかの方策がある。先ずは障害を実際に発生させているそのものを排除する…[省略]…これらの対応を行うためには、有効になる条件が必要である。また、条件を整えるためには準備が必要であり、実行するとき、行動を起すときには必ずタイミングがあり、それを読むことが出来ないと成功しない。

[2] 行動を仕掛けたら、必ずその行動に応ずる対処法で対応する…[省略]…このためには、プロジェクトの全員が、この対処法を理解して守り、実行することが必要である。(そうでないとせっかくの策が無駄になってしまう。)

[3] プロジェクトの障害を短期間で、コストと味方のダメージを最小にして取り除くことが出来るリーダは賢明である。もちろん、時間とコストをかけて、少ないダメージで押さえ込むことも出来るが、それは資金とリソースを集める力がある者だけが可能にする。しかも、資金とリソースを用いて対応しても多くの場合、障害を押さえ込むことは出来ても、完全に排除することは出来ない。

[4] また、タスク個別の成果のみに拘泥してしまい、これら各タスクの成果をプロジェクトの観点から総括し、プロジェクトの成功のために用いないリーダは危険である。このような進め方を行うリーダは、限りあるプロジェクトリソースの無駄遣いを平気で行い、プロジェクトのゴールへの到達を危うくするものである。

…[省略]…リスクが無いものや、利益を得ることが出来ないものに、いちいち対応してはいけない。…[省略]…利益や損失があれば対応し、利益や損失が無ければ放置する。…[省略]…

また、(プロジェクトの失敗によって)つぶれた組織は決して元には戻らず、去ったメンバーは二度と戻ってこない。だから、組織のオーナは自らの思いだけでプロジェクトに介入することは慎むべきであり、その様な事が起きれば、リーダはこれをいましめる必要がある。このことが組織を守り、プロジェクトを成功させる。

13 用閒篇

・情報収集

[1] 数年にわたってプロジェクトを進めて来ても、たった1日の予期せぬ出来事で失敗することがある。コストを惜しんで各種の状況を知ろうとしないものは、支えてくれたプロジェクトメンバーの苦労を理解しないこと甚だしいものである。リーダともいえず、オーナを支援してるとも言えず、成果を出せる者とも言えない。…[省略]…

成功を得るものは、いち早く情報を得ることによって成功を得る。…[省略]…そして、プロジェクトにとって知るべき情報は必ず人によってもたらされる。

[2][3][4][5]…[省略]…
[6] リーダが聡明でなければ、情報をもたらすメンバーを用いることは出来ない。リーダが人の心を持たなければ情報をもたらすメンバーを活躍させることは出来ない。リーダに思慮深い心があって、有意義な情報をもたらすメンバーから信頼されて、初めて情報を得ることが出来る。

以上

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