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オグナ

13
書いていたヤマトタケルのお話をひとつに纏めてみました。
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オグナ 小説(1)

オグナ 小説(1)

プロローグ

 波の音が大きくなった
木々の間から波打ち際に佇んでいるあの人を見つけた
ミズラを解いて髪を風に靡かせている
私はそれ以上近づくのをやめてその背を見つめる
この遠浅の海のほとりに居を築いてからどのくらい経ったのだろう?
父があんなにあっさり許可するなんて、あの人にこんなに惹かれるなんて全然思ってなかった
だってあの人…
まったく、
まったく、
顔が良いんだから!

あの人は大王(オオ

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オグナ 小説(2)

オグナ 小説(2)

↑ここまでのお話

出会い

 初夏の日差しが川面をキラキラと輝かせている
私はふくらはぎまで水につけて布にする麻を灰汁に漬けて叩いたものを洗う作業を手伝っていた
「姫さまやめてください。日焼けしてしまいます。」
川岸でお供のスズが叫んでいる
「スズもおいでよ。気持ちいいわよ。」
彼女は足を濡らして私を川から引き出すことまではしたくないようだ
灰汁に浸かった麻を水に晒すと白い繊維が現れる。それを乾

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オグナ 小説(3)

オグナ 小説(3)

↑ここまでのお話

私の前に立ちはだかったのは驚くほど顔の良い男だった。
いくら顔が良いとはいえ、突然近づいてきて自分から名乗りもせず名前を問うのは失礼じゃない
会話の内容からしてこいつが兄さんが言ってた皇子なんだろう。
応えないと不敬だったりするんだろうけど腹が立った。
よし、聞こえないふりをしよう
「おい、お前は誰だ?」
ご丁寧に同じ質問を2回繰り返してきた
後ろから追いかけてきていたお供らし

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オグナ 小説(4)

オグナ 小説(4)

↑ここまでのお話

「終わったか?」
汗だくの男が手の甲で頰を拭いながらゆっくりと近づいてくる
「兄さん」
皇子が来たのを兄の所に誰かが知らせに行ったようだ
どんな知らせ方をしたのか、いつもはちゃんとしている髪や服が少し乱れている
全力疾走したらしい
兄はチラッと私に目を向けると皇子に向かい
「小碓命殿、オトヨが長子、タケイナダネが参上しました。ってか、なんでまっすぐうちに来てくれないんだよ。」

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オグナ 小説(5)

オグナ 小説(5)

↑これまでのお話

兄は川岸の木陰に私を降ろすとスズを呼んで水と布を持ってくるように命じた。
「ミヤズ、顔とか腕とかだいぶ赤くなっている。木陰でちゃんと水分を取って休むように。あと赤くなった所は冷やさないとダメだ。」
言われて腕を見ると確かに赤くなっている
あー、やってしまった。
良家の姫なのに。
「ごめんなさい。」
「そうだな、迂闊だったな。今日は眠れないかも知れないぞ。
後、とんでもないやつに

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オグナ 小説(6)

オグナ 小説(6)

↑これまでのお話

それから数日は何事も無く過ぎた。
私が大人しくしているからなのかも知れない。
あの衝撃の出会いから考えると拍子抜けな気がした。
まあ、顔だけ皇子には大人しく旅立って欲しい。面倒事は嫌だ。
そう思っていたのに
ただ、頼まれた野菜を届けに出ただけなのに、庭の中心で綺麗な女性に愛を囁いている顔だけ皇子を目撃してしまう。
囁いているだけじゃなくてそこで抱き合い顔を寄せ合っている。
ひゃ

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オグナ 小説(7)

オグナ 小説(7)

↑これまでのお話

夕宴には出席するようにと言われたのでその後は侍女達に寄って集って身支度をされた。
「姫さま、少し痛みます。我慢してください。」
一人はずっと髪を櫛っていて、また一人は寝そべっている私の太ももの裏をぐりぐりしている。また一人は肩から腕にかけて甘い香りのする油を擦り込んでいる。
痛気持ちいい。
「この前日焼けしてしまったことが惜しまれますね。あれがなければもっと美しくできましたもの

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オグナ 小説(8)

オグナ 小説(8)

↑ここまでのお話

両手首を2回振る
シャンシャンと鈴が鳴る
そのまま円を描くように回る足運びは巫女特有のもの。
歩くたびに鈴の音が追いかけてくる。
手を大きく振るたびにヒラヒラと体に巻き付けた裳が舞う
緩急をつけながら優雅に
鈴の音が静かにまわりを浄化して行くよう。それから段々と激しくしていく
夢中で舞っている内に視界の隅にキラリと光るものが映りハッとして避ける
隣にタッと音がして振りかえると皇

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オグナ 小説(9)

オグナ 小説(9)

 ↑ここまでのお話

暫くそのまま月を眺めていた。
板張りの床は冷たくて気持ちがいい。
もう少しこのまま
ーーと月が何かに隠される
垂れ下がった何かが頰に当たる
長い髪の、女だ
私は飛び起きて距離を取る
女は膝と胸を付けて座って私を目で追っていた。
「あら、ごめんなさい。びっくりさせちゃった?」
うわ、オトタチバナヒメだ
何こいつ、足音全然しなかった
「なんですか?」
「さっきの、凄く良かったです

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オグナ 小説(10)

オグナ 小説(10)

↑ここまでのお話
オトタチバナヒメはタケオシヤマタリネの養女で小碓命との間にワカタケヒコというお子が居る。
他にも養子として引き取っていて9人の子の母だ。
小碓命の后のフタジイリヒメに次いで2番目の妃で近侍している、
学問にも礼法にも通じた有能な女性だ。
「過去には大国主がやっていたように平和的に友好関係を結ぶために政略結婚は有効な手立てよ。」
オトタチバナヒメは言う
「でも、尾張はすでに友好な関

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オグナ 小説(11)

オグナ 小説(11)

↑ここまでのお話

それからはオトタチバナヒメに言われたからか私の周辺で小碓命を見かけることが多くなった。
いちいち声をかけてくる皇子に私はウザいと少々不敬な思いを抱いていた。
「ミヤズヒメはなかなかに情の強い女性なのですね。」
皇子は言う
「強情ですか。天叢雲剣の事は承りましたが、皇子にはオトタチバナヒメがいらっしゃるでしょう。あんなに綺麗で頭の良いお妃が近くにいらっしゃるのに何が不満なのですか

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オグナ 小説(12)

オグナ 小説(12)

↑ここまでのお話

注意:少しだけ衝撃的な描写があります。

水場で皇子は顔の傷を洗う。
私は木の桶に水を溜めてその中に手をつけている。
「私には双子の兄が居たんだ。」
顔を拭きながら皇子は言う。
「あのバカは大王の代わりに美人と評判の姉姫(エヒメ)と弟姫(オトヒメ)を迎えに行ってそのまま自分のものにしてしまった。そして大王に代わりを差し出した。」
それは思ったよりゾッとする告白だった。
「ある日

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オグナ 小説(13)

オグナ 小説(13)

10日ほど開いてしまいました。すみません。

↑ここまでのお話

「十年以上かけて戦いから戻った私に大王はなんて言ったか、わかるかい?」
水に付けていた私の手を取り、顔を拭いていた布で私の手についた水をとんとんと取ってくれる。
お互いの距離の近さにドキドキする。
顔が良いっ。
「朕は出雲建を倒せなどとは言っていない。お前はおかしい。そんなに戦いが好きなら東の蝦夷も討ち取ってこい。とね。」
悲しそう

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