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【ホームズ誕生日記念!】私のお気に入りホームズ短編『まだらの紐』の考察
こんにちは!
フリーライターのユリです。
1月6日は名探偵シャーロック・ホームズの誕生日!
本記事では、大好きなホームズの誕生日を記念し、私のお気に入りホームズ短編をご紹介したいと思います。
それは、『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている『まだらの紐』!
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画像引用:Wikipedia
原作を忠実に再現したグラナダ版のシャーロック・ホームズのドラマでは、人気ランキングで第3位。著者コナン・ドイルのお気に入り作品としても知られており、ホームズ短編集で有名な作品です。
しかし、シャーロキアンとしてネタバレはしたくありません。そこで、物語の内容に関しては簡単なあらすじのみで、作品に登場する人物や動物、国、建築物、ホームズの名言など文化的背景をメインとしてご紹介しつつ、『まだらの紐』について考察します!
本記事を読み終わるころに、『まだらの紐』を読んでみたいと思っていただけたら幸いです😊
是非、楽しんで読んでください!
ちなみに、Instagramでもホームズ誕生日記念の画像を投稿!3枚目に『まだらの紐』を読むにあたりキーワードとなる事柄をピックアップしてあります。どんな関係があるのかこちらで説明しますね😊
『まだらの紐』のあらすじ
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画像引用:Wikipedia
最初に、『まだらの紐』あらすじを紹介します。
(ほぼ、Instagramの投稿画像と同じです)
とある早朝、ホームズとワトソンが住むベイカー街の部屋に女性が震えながら訪ねてくる。顔に恐怖を浮かべた女性が話し出したのは、不可解な姉の死と彼女が死ぬ間際に言った謎の言葉だった。
「あぁ、まだらの紐よ!」
あらすじ内に登場する女性の名前はヘレン・ストーナー。父親はベンガル法兵隊の少将でしたが、亡くなっています。
若くして未亡人となった彼女の母親は、カルカッタで医者をしていたロイロット博士とインド滞在中に再婚し、娘であるヘレンたちを連れてイギリスに帰国しました。しかし、不幸な事故で亡くなってしまいます。そして、姉も不可解な死を遂げてしまうのです。
ホームズの元を訪れたとき、彼女の身内と呼べる人は義父のロイロット博士とまもなく結婚する婚約者の男性だけでした。
ヘレンの生い立ちは、『まだらの紐』で起きる事件の重大なヒントになります!
よく覚えておいてくださいね😊
大英帝国の片鱗を見せる物語
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画像引用:Wikipedia
さて。ヘレンの生い立ちにもあったように、彼女は幼い頃インドに滞在していました。
当時のイギリスはヴィクトリア女王が統治する大英帝国であり、インドをはじめとする多くの植民地を持っていたのです。
そのため、作中にはベンガル砲兵隊(ベンガルはインドの地方名)やカルカッタなど、イギリス領インド帝国を彷彿とさせる単語が多く登場します。
その中には動物たちも含まれていたのです。
ヴィクトリア朝時代にイギリスへやってきた動物たち
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画像引用:『図説ヴィクトリア朝百科事典』
多くの植民地を持つ大英帝国には、当時としては珍しい動物が各国からやってきました。
アフリカやインドからゾウをはじめ、「オベイシュ」と呼ばれたアフリカ出身のカバがロンドン動物園にて観客を楽しませていたのです。植民地を多く持つ大英帝国ならではの娯楽といえるでしょう。
『まだらの紐』では、イギリス領インド帝国という植民地を由来とする動物たちが登場します。ただし、ロンドン動物園で飼育されていたゾウやカバなどと違い、人間を楽しませるための動物ではありませんのでご用心を…。
ヴィクトリア朝時代の結婚と遺産
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画像引用:Wikipedia
さてさて、犯罪には動機がつきもの。
『まだらの紐』の動機に絡んでくるのは、一見無関係に思える「女性の権利」と「財産制度」になります。
19世紀のヴィクトリア朝では、1882年に法が改正されて女性側も分離財産を受け取ることができるようになりました。未亡人女性にも財産が与えられ、もし亡くなった場合は、子供に財産が分け与えられます。
ヘレンたちの場合は、「結婚」という条件付きで財産が分け与えられることになりました。以上のことを考えると犯人の動機が見えてくるでしょう…?
〈Point!〉しかし、財産は男性から男性へ?
分離財産権が与えられていても、ヴィクトリア朝時代の女性の立場は弱いものでした。
男性優位の家父長制度があり、財産が分け与えられても女性個人が自由に使えるわけではありません。たいていの場合は、財産を継いでも結婚した場合は夫のものになったのです。
ヴィクトリア朝にスチュアート朝の建築物
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画像引用:『シャーロック・ホームズの建築』より
『まだらの紐』の作中では、「200年ほど前に建てられた古い屋敷」が登場します。作品が出版されたのは19世紀のため、舞台となる屋敷は17世紀スチュアート朝時代のものでしょう。
作中の描写では「廃墟のような屋敷」とされていますが、実際は広大な土地に立つ広い屋敷です。イギリスには領主館(マナーハウス)という地主が持つ屋敷があり、この「廃墟のような屋敷」も領主館といえます。
現代風に言えば、門から玄関まで車で移動しなければいけない距離があり、数人用のゲストルームがある家ということですね。
『まだらの紐』では、舞台となるこの屋敷が恐ろしい企みに利用されています。
現代にも通用するホームズの名言
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画像引用:Wikipedia
最後に、『まだらの紐』の作中でホームズが言った印象的な言葉を紹介します!
「私には仕事そのものが報酬なのです」
依頼料を心配するヘレンに対してホームズが言った言葉です。他の短編集でも垣間見られますが、ホームズは依頼料金に関してそこまで固執しません。
彼にとって何よりも重要なのは、事件の内容なのです。興味をそそられるか否かが1番の優先事項なため、どれだけお金を積まれても依頼内容に興味がなければ意味ないのです。
私はこの言葉を読んだとき、自分もこんな生き方がしてみたいと思いました。物質的な財産より仕事そのものが大切だと思えるような人生を送れたら、身体的にも精神的にも健やかになれる。そんな気がしします✨
「医者が悪事に手を染めると最悪の犯罪者になる。いずれも人並み以上の度胸と知識を備えた連中だからね」
こちらの言葉は、まさに真実を表していると個人的に思いました。
もちろん、どんな犯罪者でも犯した罪を償うまでは許されるべきではありません。しかし、犯罪者の中で、とりわけ凶悪な犯罪者と考えればホームズの言う通り、医学的知識を持った人物だと思います。
実際に、19世紀には毒殺の王子とも呼ばれたウィリアム・パーマーや切り裂きジャック*だと疑われたトマス・ニール・クリームなど、医師による残酷な殺人事件が起こっていたのです。
人の命を救うはずの知識は、扱う人物によって人の命を奪う武器になりかねません。知識は良い方向に役立てるものです。私たちも知識を扱う人間として肝に銘じなければいけませんね。
*切り裂きジャックとは…
1888年から1891年にかけて、イギリスにて売春婦を殺害した連続殺人鬼。犠牲者の状態から医学的知識のある人物が犯人だと言われていますが、未だ未解決です。
いかがでしたでしょうか?
『まだらの紐』に関する文化的背景を解説しながら、所々に作品の面白さを散りばめてみました。
異国の文化とイギリス特有の文化、ホームズの名推理が光る素晴らしい作品です。本記事をきっかけにして、ぜひ『まだらの紐』を読んでみてください!
それでは、また次回の記事でお会いできることを祈っています✨
ユリ
【参考文献】
『シャーロック・ホームズの冒険』
著者:アーサー・コナン・ドイル
『ミステリ・ハンドブックシャーロック・ホームズ』
著者:ディック・ライリー、パム・マカリスター
『シャーロック・ホームズ人物解剖図鑑』
著者:えのころ工房
『図説ヴィクトリア朝百貨事典』
著者:谷田博幸
『シャーロック・ホームズの建築』
著者:北原尚彦
『シャーロック・ホームズ大図鑑』
著者:デイヴィッド・スチュアート・ディヴィーズ
【参考資料】
まだらの紐 - Wikipedia -
イギリス領インド帝国 - Wikipedia -
ロンドン動物園 - Wikipedia -
Takashi Ito, London Zoo and the Victorians
1828-1859
(Martlesham: The Boydell Press, 2014)
著者:岩間俊彦
イギリスにおける受託者概念の変遷 著者:佐藤勤
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