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パンはいろんなものを許してくれる-縁結びカツサンド
パン屋さんの物語はおいしさが溢れている。
パン屋さんはよく物語に現れる。とても身近で、温かくて、懐かしい。そして、パンの種類の数だけ作り方も哲学もこだわりもそれぞれあって、そのぶんたくさんの物語が生まれやすい。
『縁結びカツサンド』でも、人と人が交差する場所として、パン屋さんが描かれている。
清々しくていいなぁ、と思う。商店街、人の縁、ベタな物語かもしれないけれど、これでいいのだと思わせてくれる、素直な優しい筆致がある。
私の家の近くにも、無口な店主のいるパン屋さんがある。分厚くてボリュームのあるブールやデニッシュ生地の惣菜パンを暑苦しい夏でも平気で出しては、売れないなぁとインスタグラムでぼやいている。
ある時、上の階で漏水が起きたらしく、かなりの機材がダメになったらしい。ずっとインスタグラムを見ていた妻は、その危機にいてもたってもいられず、以来、毎日のようにパン屋さんに通い、パンを買い続けている。
そうしているうちに、その日余ったパンや試作で失敗したパンをくれるようになった。職場も近い妻が、職場でもそのパンを分け与えていたら、職場の人もよく通うようになった。パン屋さんは今もそんな縁で、続けている。たしかに、ここで一番おいしいのは厚くて丸いブールだ。暑い夏には向かないけれど、それでもこだわりの好きなパンを焼き続けるそのパン屋さんは憎めない。
おいしいパンの存在は、いろんなものを許してくれる。すべてのパン好きに贈りたい本。
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