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画壇の明星(23)② ・ <ムリーリョ展>

先週に引き続き 70年前の月刊誌『国際文化画報』1954年1月号の特集【ルーヴル博物館案内】です。

『国際文化画報』1954年1月号の記事より

前回は ① ディーリック・バウツ(右のページ)について書いたので、今回は ② ムリーリョ『聖家族』(左のページ)について投稿します。
70年前の記事に簡単な解説があります。

天上と地上には祝福の群像が描かれ、画面全体に平和と愛情と信仰が溢れでています。(中略)かれはすぐれた観察力と写実的精神をもっていた、新しい市民的社会の画家でした。

『国際文化画報』1954年1月号の記事より

ふむふむ。何となく言いたいことは伝わってきます。

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バルトロメ・エステバン・ペレス・ムリーリョ(1617-1682年)は、17世紀スペイン黄金時代の【バロック】の画家。ムリーリョについては、
2021年1月に『蚤をとる少年』(画像・左)、2024年2月に『ベネラブレスの無原罪の御宿り』(画像・右)について投稿しています。

左)『蚤をとる少年』1645-1650年頃
右)『ベネラブレスの無原罪の御宿り』1678年頃

[風俗画]と[宗教画]の作風については すでに触れたので、本日は別の観点から考察したいと思います。

2019年秋、ルーヴル美術館で『蚤をとる少年』(画像・左)を観ました。
ムリーリョについてはもちろん、絵画の鑑賞方法もわかっていなかった “ど素人” の私の感想は、
「窓の位置、少年の姿勢や手足の角度、水差しやバスケット、そして散らばった小エビの配置など、なんとも調和が取れているなぁ…」でした。
それまで絵画作品の “構図” など考えたこともなかった私が、ムリーリョ作品に惹かれたポイントでした。

ということで、今回はムリーリョ作品の “構図” に注目したいと思います。

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本日の作品がこちら。
うわーーっ、ムリーリョならでは!ですね。
1660年代、ムリーリョの絶頂期に描かれた作品には安定感があり、色調の柔らかさに心癒されるのです。

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『セビリアの聖家族』1665-1670年

この作品、やはりその “構図” に注目ですね。
中央の幼子「キリスト」、その上に描かれた「精霊」の鳩と父なる「神」
=「三位一体」の配置とバランスに目が止まります。

私が知っている「三位一体」の「精霊」や「神」は天高く、我々の手が届かない遠い存在として描かれていました。
それなのに・・・なんとも近い!「すぐ近くで見守ってくれている」・・・のですね。
「三位一体」のことなど よくわからない私でも「神のご加護が在らんことを!」 と祈りたくなる、そんな深い信仰心を持たせてくれる世界観です。

そして「キリスト」「精霊」「神」三者が等間隔に配置されています。
全てを包み込むようなこの安定した配置から、神の揺るぎない存在によって自分の中にある不安な気持ちが救われるようです。
また気品と威厳を保ちつつも、身近な母子として描かれた聖家族に自然と心癒されるのであります。
やはりムリーリョの描く[宗教画]は100点満点ですね。

そして70年前の解説=「画面全体に平和と愛情と信仰が溢れでています
…まさにその通りなのです(拍手)。

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聖母マリア信仰が盛んだったこのスペイン・セビーリャ地方で、1649年ペストが流行しました。不安と恐怖からますます民衆の信仰心は高まったそうです。そこに登場したムリーリョ作品。
“17世紀後半のスペインの民衆は、ムリーリョの出現によって救われた” ことでしょう。

そういえば4年前にラファエロについて投稿したときに覚えた素敵なフレーズがありました。

“聖母子はきっと、ラファエロの出現を待ちわびていたに違いない”。

おおーーっ!
ムリーリョが “スペインのラファエロ” と呼ばれることに、大いに納得した次第であります。

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さてさて。
前回、ディーリー・バウツと国立西洋美術館の所蔵作品について書きましたが、ムリーリョ作品も国立西洋美術館・常設展にあります。

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『聖フスタと聖ルフィーナ』1665-1666年

実はこの作品を観るたびに、
「走り書きかしら。何が描かれているのかわからないし、ムリーリョの良さがあまり感じられなくて残念」
と思っていました。

調べてみると、この作品は祭壇画のために描かれた油彩スケッチ
解説には、
「本作品は習作であるため、ここにムリーリョ芸術の典型を見るという訳にはいかないが、作者の構想がそのまま素早く表現されているだけに、その美的感覚に直接触れることができる」
とあります。

どれどれ。
では完成品と比べてみましょう。

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『聖フスタと聖ルフィーナ』1665-1666年
左)完成品:セビーリャ美術館所蔵 右)国立西洋美術館所蔵

二人の立ち位置、衣装、持ち物、視線や仕草まで同じです!。
・・・油彩の「デッサン」(右)なのに、布のひだまで、そして漂う空気感までをしっかり捉えています。ムリーリョが、自身の構想を素早くカンヴァスに写し出した筆運びをしっかりと感じられるのです。
そしてやはりムリーリョは、構想段階から “構図” をしっかり固めていたのですね。

展示室でいつも素通り・・・まあ、なんてもったいことを!。
次回 国立西洋美術館・常設展に行ったときには、しっかりムリーリョの美的感覚に直接触れることにしましょう。

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せっかくなので、セビーリャ美術館にある完成品を鑑賞してみます。
手にした「塔」を中心にして二人の女性が左右対称に配置されています。
気品と威厳に満ちた二人の聖女が我々に安心感を与えてくれているのですね。
また、画面上部の空間はとても狭いはずなのに、不思議と伸びやかさと大らかさを感じます。これが「ムリーリョ・マジック」です!。

そして描かれている「物」がはっきりわかります。

再登場!『聖フスタと聖ルフィーナ』1665-1666年(セビーリャ美術館所蔵)

描かれた二人の聖女は、3世紀にセビーリャで陶器を売っていたキリスト教徒の姉妹・フスタとルフィーナ。
ローマ人司祭からの命令=「異教神の礼拝道具を作ること」を拒絶したため殉教したそうです。
それで足元には陶器が、そして彼女たちの手には殉教の証、棕櫚しゅろの葉が描かれているのです。
そして1504年セビーリャ大地震の際、この二人の聖女が天から降りて来て、街の象徴とも言えるヒラルダ塔を抱きかかえて倒壊から守ったのだとか。。。それで彼女たちは「塔」を手にしているのですね。面白い!。

そして、南フランスにあるボナ美術館にはほぼ同じ構図の「習作素描」があるそうです!。これは・・・放っておけません!。
いつか <ムリーリョ展> を開催する暁には、
「習作素描」・「油彩デッサン」「完成品」を並べて展示してください!!

<スペイン黄金時代の巨匠たち展>も観たいですね。

と、夢が膨らんだところで投稿を終わらせていただきます。

<終わり>

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