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『最後の一文』向田邦子さん、そしてハミー

古本屋さんで見つけた『最後の一文』(共立女子大学教授・半沢幹一著)。
私でも知っている有名な小説の[最後の一文]に焦点を当てた本です。

著者・半沢先生「はじめに」のお言葉がコチラ。

最後の一文は「それら以外の位置にある文よりも、はるかに重い意味を担っています。」
「本書の一番の目的は、小説の読み方の一つを示すというところにあります。」
「近代の名作と称される作品は、ややもすれば定説として読み方が固定してしまっているきらいがあり、あえて新たな視点から読み直してみるという目論見もあります。」

「新たな視点」面白そう!美品でお安かったので購入しました。

本書は、全50作品の著名な小説について、
◉[最後の一文]
◉ 題名と著者
◉[最初の一文]
を紹介した上で、
あらすじ[最後の一文]の意味合いを中心にした解説を加えることで、小説の新たな魅力を紹介してくれています。
一つの小説について4ページ(見開き2ページ)、簡潔かつ興味をそそる内容なので、気になるページに付箋をつけながら、あっという間に読み終えました。

たとえば、
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最後勇者は、ひどく赤面した。
◉ 『走れメロス』太宰治
最初)メロスは激怒した。
解説)“なぜ激怒したのに、赤面するのか?”、“太宰治の最後の一文の意図は?”
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といった具合です。
↑ 「メロスは激怒した」は覚えているのですが、最後に勇者が赤面して終わっているのは覚えていませんでした。
「メロス」→「勇者」へ、「激怒」→「赤面」という変化が面白いですね。

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最後「百年はもう来ていたんだな。」とこの時初めて気がついた。
◉『夢十夜 第一夜』夏目漱石
最初)こんな夢を見た。
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最後友よ、中国はあまりにも遠い。
◉『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹
最初)最初の中国人に出会ったのはいつのことだったろう?
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↑ 最後が印象的な作品なので、この2つは覚えていました!

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最後今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ。
◉『山椒魚』井伏鱒二
最初)山椒魚は悲しんだ。
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↑ 読んだはずなのですが、すっかり内容は忘れていました。
始まりも特徴的ですが、終わりの一文も面白いですね。

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最後今年は柿の豊年で山の秋が美しい。
◉『有難う』川端康成
最初)今年は柿の豊年で山の秋が美しい。
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↑ 最初と最後が全く同じ⁈ 面白い!同じ文章でも、最後に読む一文は受ける印象は全く異なっているのかも知れません。この作品については全く知りませんでしたが、ちょっと読みたくなります。

半沢先生、「新たな視点」をいただきました!

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本書を見て、小説全体を読み直した作品もあります。

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最後写真機のシャッターがおりるように、庭が急に闇になった。
◉『かわうそ』向田邦子
最初)指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった。
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↑ 解説には “宅次の脳卒中の前触れで始まり、脳卒中の(おそらくは致命的な)発作で終わるという、見事に首尾照応した構成になっています。” とありました。
向田邦子小説の「あの感じ」にまた触れたくなり、以前 断捨離をしたときに手放した『思い出トランプ』をまた購入して読んだ次第です。

いやぁ〜。いいですね。
向田さんのエッセイが大好きだったのですが、小説もやはり…◯マル。
『思い出トランプ』収録作品を読むと、私自身の弱くてズルくて嫌な部分を指摘されて、後ろめたくて触れたくない過去の出来事を蒸し返される…そんなザラザラした感覚になります。それでも「上手い!」と唸ってしまうのです。

“若い読者で、短編を勉強したい方があるなら、この『思い出トランプ』の一、二編を写してみられるといい。”
と「あとがき」で水上強さんがお勧めしてくれます。
私は、若くもないし短編の勉強をしているわけでもないのですが、『かわうそ』はノートに写してみたくなりました。

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最後に、とても素敵な小説を紹介させて下さい。

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◉『かわいいハミー』大木芙紗子
最初)博士が死んでしまうときも、ハミーは全然かなしくなかった。
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↑ [最後の一文]は最後まで読んでから味わってください。

SF文芸サイト「Kaguya Planet」に掲載されている無料の短編小説で、10分程度で読めると思います。
今まで読んだことがない「新しい視点」の作品。体の “どこか” があたたかくなりました。お時間がある方はぜひ。

<終わり>


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