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画壇の明星(19)・最大級のNAPOLÉONとヴェロネーゼ

古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』。
特集記事【画壇の明星】で毎月一人ずつピックアップされる世界の巨匠たちは、70年前の日本でどのように紹介されているのでしょうか。

今回は1953年10月号について投稿します。

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まず、3回目を迎えた特集【ルーヴル博物館案内】の記事から。
今回は、ジャック=ルイ・ダヴィッド『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョセフィーヌの戴冠』が紹介されています。

国際文化画報1953年10月号の記事より

この作品との出会いは5年前の大塚国際美術館の一室でした。原寸大に再現した陶板の作品は、621 × 979 cm!。まだ画家ダヴィッドのことなど知らなかった私は「こんなに大きい絵を描いた人がいたんだぁ」と、ただただ驚いたのを覚えています。

そして4年前。ルーヴル美術館で本物(オリジナル)作品を前にして、その臨場感に圧倒されました。
荘重なノートルダム大聖堂の空間の中に描かれた、等身大の参列者たちがまとう豪華な衣装を目に焼き付けようと近づいて行くと、やがて衣擦きぬずれが聞こえて いつの間にか私も参列者の一員となっていました。200年以上前に執り行われたこの世紀のイベントを 固唾かたずを呑んで見守ったのです。

完成した作品を観たナポレオンが、
「これは絵画ではない。我々はこの中で生きている!」(←意訳です)
と叫んだそうです。
あの臨場感・・「私もそう感じましたよ、閣下!」

そして別日に訪れたヴェルサイユ宮殿で観た別バージョンの『戴冠式』。
「あれ?。同じ作品が二つ?どっちがオリジナルだろう?」と疑問を持ったまま通り過ぎました。
帰国後、ルーヴル版とヴェルサイユ版の見分け方は、(下の画像)左から二番目に並ぶ女性のドレスがピンク色になっているのがヴェルサイユ版であると知ったのです(共に現地で撮影した写真なので わかりにくいかも知れません)。

上)ルーヴル美術館 所蔵作品(部分)
下)ヴェルサイユ宮殿 所蔵作品(部分)

ルーヴル版を完成させた後、アメリカの事業家に同じ作品同じサイズで制作するよう依頼されたダヴィッドが描いたヴェルサイユ版(下の写真)。当時、たとえ制作者本人であっても、複製画を描く場合には必ずどこか一部分を変えなくてはならなかったのだそうです。
ピンク色のドレスに衣装替えさせてもらったのは、ナポレオンのお気に入りだった妹・ポーリーヌ。あらっ。よく見ていると、他の人物の向きや服装も少し違いますね。それもそのはず、ダヴィッドはヴェルサイユ版を制作するとき ベルギーに亡命中でした。簡単なスケッチを頼りにして記憶だけでこの複製を描いたというのですから、その再現力には驚かされます。

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ちょうど先日(2023年11月22日)、ルーヴル美術館の Instagram にこの作品のことが投稿されていました。タイムリー!
おっ、リドリー・スコット監督の映画『NAPOLÉON』がフランスでは既に公開されたのですね。

ルーヴル美術館のInstagramより

日本では12月1日(金)に公開される『NAPOLÉON』。ホアキン・フェニックス演じるナポレオンがどんな風に描かれているのか・・・見に行きたいものです。

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さて、ルーヴルの Instagram にはこうあります。
「現在ルーヴル美術館で開催されている <ノートルダム大聖堂の宝物 展> には、ナポレオンの戴冠式(1804年12月2日)で実際に着用された装飾品や銀食器が展示されています。ダヴィッドが巨大な絵画作品の中で、いかに細部にまでこだわってこれらの装飾品や銀食器を描いたのか、ぜひ比べて見てください」(←意訳です)。

ルーヴル美術館のInstagramより

本当に実物と見紛みまごうほど、その精緻な形状、輝きまでがしっかり描き込まれています。
「さすが!」のダヴィッドなのです。

実は、ダヴィッドの描いた他のオリジナル作品を何枚観ても、不思議と「好き」「嫌い」の感情は湧いてきません。「凄い!」「ほーッ!」という感想のみ。
画家ダヴィッドについては、また次の機会に勉強しなくてはなりませんね。

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さて、本題へ。
今回の【画壇の明星】で取り上げている画家は、パオロ・ヴェロネーゼ(カリアーリ)(1528-1588年)です。

国際文化画報1953年10月号より

色彩の美しい配合、あたたかな配色の華麗さ__それが16世紀の[ヴェネツィア派]ヴェロネーゼの奏でる造型の世界です」

国際文化画報1953年10月号の記事より

イタリア・ルネサンス期の画家は、その活躍した都市と作品の特徴から[フィレンツェ絵画]と[ヴェネツィア派]に大きく分類されます。
ただ、イタリア・ルネサンスはフィレンツェが「発祥の地であり王道」と理解されているため[フィレンツェ派]と あえて呼ぶことは少ないようですね。

王道ではない[ヴェネツィア派]について知りたい!と思い、以前いくつかの資料を読んだので、私なりにボンヤリと大枠を押えているつもりです。
◉ デッサンの[フィレンツェ絵画]、色彩の[ヴェネツィア派]。
記憶が曖昧なので、もう一度ここで復習させてください。

とにかくデッサン(素描)が基本!。
デッサンの存在 → それに基づいて計画的に構図を練る → 線描によって立体感や奥行きを表現 → 最後に色を塗っていく。
これがそれまでの王道の描き方=[フィレンツェ絵画] 。

これに対して[ヴェネツィア派]は、直接 色(絵具)をのせた筆で描き始めるため、構図や形は、制作の過程で構想され、また自由に変更されていくという描き方でしょうか。
感覚的で豊かな色彩、そして自由な筆致・自由な構図が特徴なのです。

絵画「制作」の経験がないため言葉だけの理解になりますが、両者の制作過程の違いは、とても興味深いです!

そういえば、ルネサンスの代表選手ミケランジェロが[ヴェネツィア派]について言及したエピソードがあります。
『芸術家列伝』(ヴァザーリ著)によると、[ヴェネツィア派]の巨匠ティツィアーノの工房をミケランジェロが訪れたそうです(← この場面を想像するだけでドキドキします)。
ミケランジェロはティツィアーノの描いた『ダナエ』について「本人の前では褒めちぎり」ながらも、工房を出たあとにこう語ったそうです。

参考)ティツィアーノ『ダナエ』

ティツィアーノの色彩も様式も私の気に入ったが、しかしヴェネツィアでは、まず最初にデッサンをよく学ぶということをしない。これは残念なことだ。ヴェネツィアの画家たちは勉強の仕方をもっと改善することもできように、その点が惜しまれる。もしあの男が、あれだけ天賦の才があるのだから、技術を磨きデッサンで進歩したら、とくに実物を描写する訓練をしたら、もう匹敵する男はいないであろう。ティツィアーノは実に美しい精神の持ち主だし、実に愛らしく溌剌とした様式を持っている

ヴァザーリ『芸術家列伝』訳:平川 祐弘氏 

絵画とはこういうものだ!と確固たる信念と自信を持つデッサン重視のミケランジェロが、[ヴェネツィア派]の巨匠ティツィアーノに苦言を呈した
と同行したヴァザーリは書いています。

なるほど、なるほど。

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と、文章で理解したつもりの素人の私が「これが[ヴェネツィア派]なんだね」と腑に落ちるきっかけを与えてくれたのは、国立西洋美術館の常設展にある この作品でした。

パオロ・ヴェロネーゼ『聖カタリナの神秘の結婚』1547年頃

解説によると、この作品は聖書の物語を主題としながら【結婚記念画】を描いた作品で、ヴェロネーゼが生まれ故郷ヴェローナで活躍していた20歳頃の作例なのだそうです!
そして私が注目したのがこの “赤い布” です。

『聖カタリナの神秘の結婚』部分

“布” の描き方、とくに “赤い布” の描き方を見ると、素人の私でも「なるほどデッサンではなく色彩なんだね」と理解できる気がしたのです。
鮮やかな赤い布に明るく跳ね返る光の表現を、絵の具をのせた筆に任せて描いている。。。うーん、どうも うまく言葉で表現できないのが残念です。
それからしばらくの間[ヴェネツィア派]の作品を鑑賞するときには “赤い布” を目印にして楽しみました。
私の[ヴェネツィア派]理解の手助けをしてくれたのが、ヴェロネーゼだったのですね。

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さて、ティツィアーノ、ティントレットと共に[ヴェネツィア派]を代表する画家の一人である、パオロ・ヴェロネーゼ(1528-1588年)について、70年前の記事にはこうあります。

「ヴェロネーゼがヴェネツィア派の画匠ティツィアーノとティントレットに深い影響を受け、二人に忠実に従ったがために二人の上に出ることができなかった
「ヴェロネーゼは華美で、装飾的。甘いとして嫌う人もいます。現世的で多少は俗ですらあります

国際文化画報1953年10月号の記事より

おっと、手厳しい。美術評論家の批評を翻訳したのかも知れません。
以前、ヴェロネーゼの代表作『カナの婚礼』について投稿した時、ヴァロネーゼ= “まばゆいばかりの色彩と光、豊かな感情表現で物語を描き出すヴェネツィアを代表する画家である” と学びました。

『カナの婚礼』1562-1563年(ルーヴル美術館)

ルーヴル美術館で最大サイズ(677 × 994 cm)というだけでなく、個人的には
「とても興味深い作品なのに、ルーヴル美術館で観ることができなかった作品」です。

450年前に異端審問会にかけられ、自身の作品を描き直すように命じられたとき、
「我々画家は、詩人あるいは狂人と同じく、心に思ったことを自由に表現する権利を持っている」
と言い放つことができたヴェロネーゼ。ちょっと魅力的です。
しっかりと資料を読んで理解したいなぁ〜 と、またまた宿題を多く抱えたまま、今回の投稿を終わらせていただきます。

<終わり>

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