三国志を知らない人は無双から入った方が良いのではないのか?

 私は10月の下旬に「三国志 演義から正史、そして真実へ」と「図説 呉から明かされたもう一つの三国志」を読んで、初心者に三国志をすすめるにはどうすれば良いのかを考えたため、今回の記事を書いた。


1.本のレビュー

「三国志 演義から正史、そして史実へ」のレビュー

 本書は三国志を史実から正史、演義と考察・探求していくのではなく、演義の成立過程から演義の限界、正史の記述者の状況や思想から正史の限界を考察・探求していく。それらと遺跡から史実を考えていくことが本書の目的である。

 唐代には仏教寺院において人集めのために三国志の語り物がされいたのだという。本書には、諸葛亮が司馬懿を敗走させた物語が引かれている。
 その物語には後の演義の特徴がすでにあり、政治にではなく軍略に長けている諸葛亮、神秘化されている諸葛亮、劉備を下げて持ち上げられる諸葛亮などといった要素が見受けられるらしい。
 説三分や三国志平話にて語られる張飛像や悪役化していく曹操などが本書には引かれている。

 蜀漢正統論にも触れており、三国時代は中華王朝が黄河流域を北方や西方の民族に取られた歴史の一部に過ぎない。
 蜀漢を正統とする最初の史書は習鑿歯の「漢晋春秋」である。当時の東晋王朝は長安や洛陽などの黄河流域(中原)を胡(非漢民族)に取られていた。彼らは長江流域に王朝を作り中原を取り返すために北伐を行おうとしていた。そのため、魏を簒奪者とみなして北伐を行い漢を再興せんとする蜀漢に共感したのだった。

 755年、安禄山の乱によって中原が奪われると、蜀漢への憧憬が盛り上がった。蜀へと流浪した詩人の杜甫は、諸葛亮を賛美する多くの詩を読んだという。杜甫は呉を滅ぼした西晋の英雄杜預の子孫であった。それにも関わらず、蜀漢につかえた諸葛亮に感情移入するのだった。

 これらのように中原を取られた王朝の君臣たちは、蜀漢に肩入れして正統性が蜀漢に感情移入するのだった。

 演義は史実7割、虚構3割といわれており、仙人や妖術が戦に用いられているため、正史と比べられる。だが、正史とは正しい歴史書という意味ではなく国家の正当な歴史書という意味である。
 また、三国志を著した陳寿は元々蜀漢に仕えていたが、曹魏から禅譲を受けて誕生した西晋に仕えたという。後漢の皇帝から曹丕に禅譲を受けて曹魏が誕生し、曹魏の皇帝から司馬炎に禅譲を受けて西晋が誕生した。そのため、三国志は紀伝体の形を取るのだが、帝紀は曹魏に置かれている。これは死に対する単語の使い方に現れているそうだ。
 曹操には「崩」が使われており、孫権には「薨」が使われている。一方、劉備には「」が使われている。曹操に使われている「崩」は天子に使われている言葉である。孫権に使われている「薨」は春秋によれば諸侯に使われている言葉であるから、陳寿は孫権を帝位を僭称したと考えたのだと推察できる。
 一方、劉備には「」という字は使われているが、堯(中国の伝説上の帝王)の死去に対して用いられている。陳寿は楊戯伝に「季漢輔臣賛」という書物を引用しているが、蜀漢に仕えた者たちは「自分たちが漢であると考えたこと」が分かる。

 関羽、諸葛亮、曹操が演義でどのように描かれているか、正史ではどのように記述されているか、史実ではどうであったかを当時の思想などを考察していく。

 三国志の故事や思想(儒教や太平道のスローガン)を学ぶことが出来て、当時の人々がどのように物事を考えたかを分かった。

 人物の死の表現に関しても言葉を使い分けていて著者が何を考えたかを推察できることは意外だった。

「呉から明かされたもう一つの三国志」

 蜀漢と曹魏はどちらが正統であるかという議論が起きていた。
 その点、孫呉は歴史上において正統の議論の場に上がることがなく、物語においても道化になるだけであった。
 そんな孫呉の歴史を孫堅の海賊退治から孫晧の降伏までを図を使って解説するのが本書である。

 本文にはその章やページごとの政治・軍事に関しての歴史が解説されている。地図には長江や戦に参加した人物が表記されていてどのような動きをしたのかが分かる。本文でもどんな動きをしたか説明されているが地図と矢印を使って時系列順に説明しているため、視覚化されていて分かりやすい。

 政治上の対立も四角い区分けや家系図を使って説明しているため、誰がどんな派閥に入って粛清されたりどんな末路を迎えたかが分かる。三国志は紀伝体で書かれており、歴史的な流れを掴みづらいため、図説で視覚的に分かりやすい本だった。

 また、ある時代のある地域にどんな出来事があったかを学ぶと同時代の他の地域には何があったか、同地域の後の世にどんな影響を与えたかを失念してしまう。
 本書は三国時代の孫呉を取り扱うものの曹魏・蜀漢にも軽く触れている。巻末には縦軸に西暦をとり、横軸には孫呉・曹魏・蜀漢の歴史をとっているため、呉だけでなく三国全体に何が起こったのかを1書に纏められているためおすすめである。

2.初心者は無双から入ったほうが良いのでは

 三国志を全く知らない人におすすめのものは何ですか?
 このように問われたら吉川英治の三国志、横山光輝の三国志、中には王欣太の蒼天航路を挙げるものが多いであろう。
 しかし、優れた歴史作品は史実と創作との違いが分かりづらい。
 史実と創作とを滑らかな接続語を使うことによって本物らしくするのだ。それは優れた作家ゆえであろう。

 無双シリーズは武将や軍師、記録が残っていないはずの女性キャラも戦うゲームだ。プレイアブルキャラは無双武将と呼ばれている。
 そんな無双武将たちは何と武器や羽扇!?で敵に斬りかかった途端、ビームや火炎、氷、衝撃波を出すのだ。驚くのはそこだけではない。
 武器を一振りするだけで10~100人くらいの敵兵が吹っ飛び、無双武将の身長を160~200cmとすると10mほど宙を飛ぶのである。

 実際に後漢末から三国時代を生きていなくても武器からビームや衝撃波、火炎を出せるわけがないことは分かる。我々は軍師ビームを目撃した瞬間、あまりの荒唐無稽さに驚きと笑いが生まれ、それを史実と混同することは無いのだ。

 無双ゲームには事典モードなるモードがある。
 このモードには、三国志演義全体の流れを概ね理解できる「三国志事典」、人物の生没年や活躍、経歴が記載されている「武将事典」、三国志由来の故事成語や用語などが収録されている「用語事典」、合戦の概略や起こった理由、勝者・敗者が記載されている「合戦事典」などが収録されている。
 などと言葉を濁した理由は、私は無双シリーズを2年くらい触れていないため、具体的のどんなモードだったか覚えていないからだ。

 事典モードには索引機能がある。
 例えば「泣いて馬謖を斬る」をモード内において選択して、索引ボタン(△か◇)を押すと諸葛亮・馬謖・街亭の戦いのリンクが表示される。
 当然ではあるが歴史上の出来事から後の世に故事成語が生まれる。
 読んで字のごとく故き事である。
 そのため、慣用句として使われる「画に描いた餅」や「泣いて馬謖を斬る」、「破竹の勢い」は歴史書よりも故事成語用の辞書を買った方が用例や意味を理解できる。

 三国志は紀伝体であり時系列が分かりづらい(異なる人物の記録を読むと矛盾しているところもある)、三国志演義は情報過多な現代人からすれば物足りない部分があるかもしれない。
 横山光輝や吉川英治などの小説や漫画媒体は、横山光輝の三国志は60巻と長く出版時期も古いためプレミアがついているだろうから、気楽に揃えられない。
 ましてや三国志を知らない人が渡邉義浩教授の学術的な本を読んでみようとは思わないだろう。
 そんなわけでゲームを楽しめて、三国志演義の概略や人物、合戦、用語が収録されている無双シリーズを私はおすすめする。

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