アナイアレイション -全滅領域- 感想
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
辰年から巳年になったのでNETFLIXで見放題のある作品を視聴した。
アレックス・ガーランドが監督した「アナイアレイションー全滅領域ー」を視聴したので、そのレビューをこれから書いていく。
1.あらすじ
アメリカの海岸で不可思議な現象が起きる領域ーーエリアXーーに、生物学者にして元兵士の主人公レナの夫は調査隊として派遣された。
1年後、夫であるケインが突然現れたが意識不明の昏睡状態に陥る。
レナは真相を解明するために調査隊に志願する。エリアXでは異様な生物と自然とに満ち溢れていた。
2.癌
物語の冒頭部、レナは生物の講義をしている。1つの細胞が2つに増殖して、その2つの細胞が4つに増殖している。細胞が指数関数的に増殖していく様子をレナは学生達に説明している。講義を終えるとき、レナはこの細胞が癌細胞であることを説明する。
ケインはレナのもとに帰ってくるが意識を失ってしまう。レナは夫と共に警官たちに囚われた。目を覚ますとヴェントレス博士と名乗る心理学者が現れて、ケインが1年間どこへ派遣されたのかレナを案内する。
知らない天井だ……。
アメリカの海岸部に隕石が落ちて灯台は倒壊した。それ以来、灯台一面は光(シマ―)に包まれた。はじめは湿原だけだったがどんどん領域は広がっていくのだという。
異界であるエリアX(シマ―)の膜が蜃気楼のように揺らいでいる。その後、レナとケインとのピロートークが回想される。
レナは遺伝子の欠陥によって自分達は老化していくと言う。そしてそれさえ解決してしまえば人間は不老不死になれるのだとも言う。
通常の細胞が分裂する回数には限度がある。染色体の末端にはテロメアがあるのだが、細胞が分裂するたびにテロメアは減少していく。やがてテロメアが短くなっていき細胞はそれ以上分裂できなくなってしまう。
それではテロメアを長くするとどうなるのか。
実はテロメアが安定して維持される細胞がある。その細胞とは癌細胞のことである。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなる。癌細胞は短くなったテロメアをテロメラーゼという酵素を活用することによって伸長する。それによって無制限に増殖できるのだ。もはや不老不死の細胞だ。
レナは生物学の教授だから細胞分裂やテロメアと寿命、癌細胞との関係を知っているだろう。ピロートークに何故細胞分裂の話を持ち出したのか。ケインも負けじと国家、国旗をピロートークに持ち出したぞ。
ううむ、分からん……。
ピロートークに科学や国家の話を持ち出す文化なのか?愛や夜伽話を囁かずにそんな話をされたら百年の愛も醒めるだろうし、ロマンティクスに欠ける。
まぁ、レナは浮気しているんですけどね!!騎乗位で!!!
閑話休題。
一行は探索中に夜になったため、見張りをつけて休むことになった。
交代時間より早く起きたレナはヴェントレスのもとへ向かう。
そこでヴェントレスは生物には自己破壊衝動があり、薬物や過度な飲酒、結婚生活の破壊など登場人物達の抱える問題を具体的に挙げる。
アニャは何らかの依存症、ラベックはリストカット、レナは浮気をしている。
ヴェントレスは全身を癌に侵されており、シェパードは娘を白血病(血液の癌)により亡くしている。
この2人は癌に直接関係している。
主人公を含めた残りの3人は人生を蝕んでいる。浮気は健全な結婚生活を蝕む癌のようなものであるし、依存症やリストカットは人生を不健康にする癌細胞だ。
たとえ自分が生きる為に必要であっても、己の心身を蝕むものを求めてエリアXに向かうのだ。
3.不気味で美しい映像
エリアXの中に一行が突入したあと、SIMMERの文字がでかでかと画面に表示される。画面が暗くなると女の喘ぎ声が聞こえ始める。
女の真っ白な背中が上下に動き始める。肩甲骨の形が分かるほど肩を回しながら背中をくねらせる。背中をくねらせると背筋と背骨が青い月光に照らされて白と黒のコントラストが生じた。
その女の横顔が映し出されるーー見覚えのあるその顔は主人公のレナのそれだ。レナの横顔の下にはケインではなくダンの顔が映っていた。
肩甲骨を鳥の翼のように動かして背骨や背筋の形が分かるほど綺麗な背中を揺らす様子はそれだけで艶めかしく、月光によって肌は青白く見え間男とセックスをしている最中であることもあって不気味さも感じる。
鳥じゃなくて馬だろ!騎乗位だけに!!
エリアXに侵入した先で見た動植物や風景はレナの浮気セックスのように不気味でいて美しい。
それをこれから述べていこう。
エリアXの中には巨大な沼があり、そこを探索している一行を巨大なワニが襲い掛かる。ワニは真っ白な姿であり石灰岩のように無機的な白さを有していながら、爬虫類の特徴である鱗もはっきりと表れている。
そんなワニを銃火器で仕留めたあと口を開けてみたら、歯がサメのもののように何列も生えていた。さらに歯はエリアXの花のように輪状に生えていた。
エリアXの中の花は一つの株から生えているのにも関わらず複数の種類の花が生えているような様相だった。
石灰岩で出来た彫刻のような白さを持つのにも関わらず、鱗があり歯がサメのように何列も生えているワニは、いろいろな生物の特徴がごちゃ混ぜになりながらも無機的な白さが美しく不気味だ。
探検する一行の最初の犠牲者はシェパードである。
巨大なクマのような生物(以下便宜的にクマと呼ぶ)にシェパードは襲われ連れ去られてしまう。クマはとても力強く網のフェンスをちぎるほどであった。
朝になりメンバー内でヴェントレスの件で言い合いをした後、レナはシェパードの行方を追う。シェパードを探している内に真っ白な1匹のシカと出会う。
そのシカには角が生えているため恐らく雄であろう。そんなシカの角にはなんと花弁が咲いていたのである。
受粉しとる
そんなシカを眺めているとなんと2頭に分裂していたのである。
レナが自身の血液を顕微鏡で覗いてみると、血中の細胞が虹のように境目なく連続で発光していた。細胞は増殖して2つに増える。分裂したあとの細胞も当然スペクトラム(連続体)だ。
1つの細胞が2つに増殖して指数関数的に増大することは我々の身体で起こっていることであるし、それによって我々は生かされている。
ミクロならば気にならないがマクロもしくは人間大のサイズでは異常なものに見えてしまうのだ。我々の皮膚には常在菌やダニが棲んでいるが気にならないだろう。
話を戻そう。
シカの角は樹のような見た目や色をしているし硬さを有している。
しかし角の主成分はカルシウムやコラーゲンなど骨と同じ成分で出来ている。それに対して樹木の主成分はセルロース等があり細胞壁を形成して植物の固さを保っている。
シカの角から樹木の花が咲き誇るさまは美しいが、2頭に分裂したり角とは全く成分が異なるのに樹木と花が動物から生えていることは不気味かつ美しい。
エリアXは健全な現実世界がシマー(光)によって侵されることで出来た世界である。シマーは現実世界の環境や生物たちを異形のものへと変えていく。
レナは健全な結婚生活を浮気によって自ら侵して、夫も自身も人ではないものに変えた。
どちらも健全な世界を蝕み侵した結果、生まれた者は異形ではあるものの美しい。
浮気と痴情のもつれ、滅びゆく世界とそこに住まう異形かつ美しい生物たち、これらが物語の中で絡むことはJGバラードの結晶世界を想起させる。
結晶世界は主人公が人妻と浮気しており、世界が結晶化して滅びつつある中で、痴情のもつれと美しい滅亡が絡みあう話であった。
4.最後に
画面がひたすら美しく不気味であった。
浮気をするレナの背中は無駄な脂肪が無く、背筋と背骨の凸凹を青い月光が照らし出す様はとても不気味さと美しさとを感じる。
たった一株から複数種の花弁が咲いている植物も虹色に光る血中細胞も不気味で美しい。
シカが1頭かと思ったら2頭に分裂して角に花が生えている様相はしかのこのこのここしたんたんを関係ないのに思い出してしまった。
角が受粉したり分裂したり……。
しかのこ難民はこの映画を観たらいかがであろうか。
映画の感想だけど浮気の話を多くしてしまったぞ。