世界で3番目に大きな島、ボルネオ島の最北端へ
東南アジア・マレー諸島に位置する世界で3番目に大きな島「ボルネオ島」。その北部にはマレーシア領のサバ州があります。南シナ海とスールー海に面した最北端の地域は「クダット(Kudat)」と呼ばれ、先住民ルングス人が多く暮らしています。今回は、新型コロナウイルス感染拡大前に訪れたクダットを巡る旅をお届けさせていただきます。
サバ州の州都コタキナバルにある国際空港から最北端の地域「クダット」までは約195km。南シナ海に面した西海岸沿いを北上していきます。車で約3時間半ちょっとの道のりです。途中には、地元で採れた野菜やトロピカルフルーツ、猪肉が売られた露店があるので休憩しながらローカルマーケットでお買い物も楽しむことができます。
北上するにつれて交通量は減っていくので、みなさん結構スピードを出しています。車を走らせていると、前方にタンクローリーがゆっくりと走っているのをよく目にします。タンクローリーのテールランプがチカチカしたら、それは前方から車が来ていないので「追い越していいよ!」の合図です。スピードを出して対向車線からタンクローリーを追い越します。ちょっとひやひや…
クダットへの道は、右も左もアブラヤシ農園が広がっています。アブラヤシといえば、多くの食品や洗剤に使われるパーム油の採れる植物。クダットにあるアブラヤシ農園とその搾油工場の見学をさせていただきました。
マレーシアのパーム油の生産量はインドネシアに次いで世界第2位です。WWFのレポート*¹によると、パーム油は他の植物油よりも生産効率や収量が高く、安価なのが特徴です。一方で、アブラヤシ農園の拡大による森林伐採や生物多様性の生息地を脅かす問題は頻繁に取り上げられています。アブラヤシ農園を荒らした絶滅危惧種であるボルネオゾウが射殺される事件も起きています*²。
現在では、パーム油不使用またはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証マークのついた製品、アブラヤシの廃材を利用した取り組みもありますが、以前サバ州の東海岸に行った際にプロペラ機で上空から見たアブラヤシ農園の広がる景色は衝撃で今でも忘れることができません。
今ではアブラヤシで有名なマレーシアですが、かつては天然ゴムの生産地として有名でした。ゴムの幹を削ると、白い樹液(ラテックス)が出てくるので、樹木に結び付けているカップに溜めます。ゴム採取の仕事は早朝。樹液のたくさん出る時間帯にゴム農園に出かけるそうです。
採取されたラテックスは、平たい型枠に入れ固められます。ゴムで思い出しましたが、乾燥したゴムの木の実の殻はとても硬く、サンダルで歩いていたら落ちていた殻で足の指を深く切ったことがあります。痛かった…
クダットのマトゥンゴン地域では、一村一品が盛んに行われています。ゴンビゾウ村(Kg. Gombizau)では、養蜂に取り組んでいます。私が訪れた当時は、熱帯雨林の奥地と村に近いところに養蜂箱を設置し、また針なしミツバチの養蜂もしていました。針なしミツバチはとても小さくて、腕によくとまってくるとてもかわいいハチです。村で採れた濃厚なハチミツは村の売店で購入できました。
スマンカップ村(Kg. Sumangkap)では、伝統楽器であるゴング(銅鑼)を製造しています。大きさの違うゴングが美しい音色を奏でます。民族や地域によって使用するゴングの大きさや奏で方が異なるのも興味深いです。
私がサバ州の大学院で研究していた先住民タガハス・ドゥスン人の村では、6種類のゴングを奏で、それに合わせて伝統舞踊(スマヤウ)を踊ります。ゴングは先祖代々受け継がれる貴重な遺産であり、また婚姻の際は花婿から花嫁の家族へ贈る品の一つでもありました。
ルングス人は昔から「リナゴ」と呼ばれるかごを作り、貨幣のない時代から地元のマーケットで物々交換されていました。シダ植物の茎の表皮をラタンを軸に編んだ網目が細かく丈夫なかごです。かご編みの技術は先祖代々受け継がれ、今では伝統的なデザインから新しいものまでたくさん生み出されています。
大学院留学時代にこのリナゴに出会い惹かれたことがきっかけで、卒業後に民芸品のお店を開かせていただきました。天然素材で作られるリナゴは時の経過とともにあめ色へと変化していき、愛着をもたらしてくれるかごです。
ビーズ製品といえば、ティナンゴール村(Kg. Tinangol)です。私が訪れた当時はビーズ工房があり、ルングス人のお母さんたちがそれぞれブースでビーズアクセサリー作りを実演しながら販売していました。
ルングス人の伝統衣装に使われる装飾品とモチーフをファッション用にアレンジしたアクセサリーは色彩豊かでファッションを明るくしてくれます。ティナンゴール村出身のビーズ職人さんのマニックアクセサリーも当店で扱っております。
アブラヤシ農園やゴム採取を見学し、ルングス人の手工芸品に触れながら、ようやくボルネオ島の最北端に到達しました。ここは「Tip of Borneo」と呼ばれ、スールー海と南シナ海が合流する地点を眺めることができます。
サバ州を訪れた際は、潮風を感じながら、先住民ルングス人の暮らしや伝統文化を体験しにクダットまで足を延ばしてみてはいかがでしょうか♪
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