『ジャングル・クルーズ』の主人公に感情移入できない理由
ディズニーランドのアトラクションを映画化した作品『ジャングル・クルーズ』(2021年)。
前半は、冒険映画らしい興奮を感じさせてくれたものの、後半は、興ざめしてしまった。
その理由は、主人公のキャラクター設定にある。
『ジャングル・クルーズ』で興ざめしたシーン
舞台はアマゾンのジャングル。
ドウェイン・ジョンソン演じるクルーズ船船長と、エミリー・ブラント演じる植物学者リリーが、ジャングルに奥地にあるとされる「不老不死の花」目指して繰り広げる冒険活劇である。
ハラハラさせるシーンの連続に、ドウェイン・ジョンソンとエミリー・ブラントの掛け合いによるユーモアをミックスさせ、冒険活劇らしい醍醐味を見せてくれた。
しかし、それは、前半だけだった。あるシーンを境に、急に興ざめに陥る。
それは、フランクが実は、森の呪いにより”死なない男”ということが判明するシーンだ。つまり、銃で撃たれようと、ナイフで刺されようと、崖から落ちても死なないのである。それがわかってしまったことで、一気に興ざめとなった。
弱点の重要性
そもそもフランクを演じるのはドウェイン・ジョンソンであり、筋肉隆々、”強い男”である。それは、最初の登場シーンから観客に伝わる。そこに、”死なない”という要素が加わると、完全なる無敵な男である。しかもフランクは、生に執着がなく、厭世的な発言までする。こうなるともはや、感情移入はできない。
フランクが”死なない男”ということが判明して以降も、冒険は進む。ピンチらしい状況も訪れる。しかし、ハラハラもワクワクも感じない。一切、興奮できない。
なぜなら、フランクは死なないからである。冒険活劇において、死なないという事はつまり、ピンチがピンチでなくなる。
”死なない男”というキャラクター設定だとしても、何か弱点を設けるべきではなかったか。心臓でもいい、目の玉でもいい。唯一、そこを撃たれたり刺されたら死んでしまう、そういう弱点が欲しかった。そして、敵はその弱点を知り、その弱点めがけて攻撃してくる。
ギリシア神話における無敵の男アキレスにしても、アキレス腱が弱点だった。豪傑の弁慶だって、足の向こう脛、つまり弁慶の泣き所があった。
どんなに強く、どんなに最強であっても、一つも弱点がないというのは、感情移入を阻害し、興奮を取り消す。
弱点があるからこそ、観ている側は、「危ない!」とか「逃げて!」といったように感情移入が起こる。しかし、決して死なないのだから、「危ない!」も「逃げて!」も感じない。敵に銃をつきけられようと、危険でも何でもないのだから、さっさとやっつければいいのに…と感じてしまう。
どんなに最強の主人公であっても弱点は必要である。そして、敵はその弱点を知り、その弱点を狙うようでなれば、物語としての面白みが半減する。
弱点の重要性。
『ジャングル・クルーズ』は、そのことを考えさせられた映画だった。