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不正競争防止法の条文とは?ソフトバンク社員が5Gの営業秘密を持ち出し、楽天モバイルに転職


ソフトバンク社員が5Gの営業秘密を持ち出し、楽天モバイルに転職

2021年1月12日、ソフトバンク株式会社を退職した社員(従業員)が、不正競争防止法違反で逮捕されたと報道された。

被疑事実は、同社員がソフトバンク株式会社在職中に、5G(第5世代通信規格)に関する営業秘密を持ち出す行為があったという。

また、同社員は退職した翌日付で楽天モバイル株式会社に入社していたとも報道されている。

この事件にかかわる「不正競争防止法」の条文を整理しておく。

1.まずは報道されている事実を時系列に並べる

2004年7月 被疑者がソフトバンクのグループ会社に入社。通信ネットワーク設備の工事や維持を担う「線路主任技術者」の国家資格を取得、5Gを含めた携帯電話の基地局設置などに携わる。

2019年11月下旬 被疑者が楽天モバイルへの転職を申出る。

2019年12月31日 被疑者が自宅から自分の私用パソコンを使ってソフトバンクが管理するサーバーに接続し、ソフトバンクの技術情報が入ったファイルをメールに添付して自らに送り不正に持ち出した疑い。同ファイルには5Gを含めた基地局の効率的な配置に関する営業秘密が含まれていたという。

2019年12月31日 被疑者がソフトバンクを退社。

2020年1月1日  被疑者が楽天モバイルに入社。

退職後に被疑者がソフトバンクに返却したソフトバンク社有のパソコンから技術情報を自分のメールアドレスに送った痕跡が見つかったという。

2020年3月 ソフトバンクが警視庁生活経済課に相談。

2020年8月 警視庁生活経済課が被疑者宅及び楽天モバイルを家宅捜索。

押収した被疑者のパソコンに、転職直前に複数回にわたって5Gに関する情報を持ち出した痕跡があり、他方、転職後に被疑者が使っていた業務用パソコンからはソフトバンクから持ち出したとみられる情報が見つかったという。

2021年1月12日 警視庁生活経済課が被疑者を逮捕。被疑事実は不正競争防止法違反(営業秘密領得)容疑。

参考ニュースサイト
・毎日新聞2021年1月12日 11時33分(最終更新 1月12日 11時33分)
https://mainichi.jp/articles/20210112/k00/00m/040/048000c
・産経新聞2021.1.12 09:13
https://www.sankei.com/affairs/news/210112/afr2101120002-n1.html

2.では、条文をあげてゆく。まず「不正競争防止法」とは何か?

同法の目的を定めた条文はこれ。

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第1条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
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で、「不正競争」とは何か?条文はこれ。

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第2条柱書 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

第1項4号 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下略)。
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自宅で、自分のパソコンから、ソフトバンクのサーバーにアクセスして、ファイルを自分宛にメールした行為は、「その他の不正の手段」によって営業秘密を取得する行為であり「不正競争」に該当する。また、その営業秘密を特定の者に示す行為も同じく「不正競争」に該当するわけである。

被疑者のこれら行為が「不正競争」に該当するという点は、後述の被疑者に対する損害賠償請求の場面で意味を持つので、覚えておこう。


次に、「営業秘密」とは何か?条文はこれ。

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第2条6項 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
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ファイルに入っていた、5Gを含めた基地局の効率的な配置に関する情報が、これにあたるということのようである。

3.被疑者の刑事責任

さて、刑事責任から見てゆこう。逮捕の被疑事実である不正競争防止法違反(営業秘密の領得)とは何か?

条文はこれ。

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第21条第1項柱書 次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の懲役若しくは2千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第1項3号 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
イ(中略)
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
ハ(以下略)
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ファイルを自分宛にメール送信したというのであるから、ファイルの複製を作成した領得行為だというのであろう。

4.検討されている楽天モバイルへの民事責任追及

次は民事責任の問題。

報道では、ソフトバンクは、楽天モバイルに対して営業秘密の「利用停止」と「廃棄」などを求める民事訴訟を提起する方針という。

条文はこれ。
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第3条
第1項 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
第2項 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む(中略)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
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不正取得されたファイル内の情報を「利用してはならない」、情報を「廃棄せよ」と裁判所に命じてもらうわけです。

5.被疑者の民事責任

最後に、被疑者個人に対する民事賠償請求。

条文はこれ。

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第4条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。(以下略)
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では、いったい幾ら請求できるのか?厳密な算定は無理であろうから、おそらくは裁判官が適当に決める金額。

条文はこれ。

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第9条 不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
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報道の真偽は不明だが、ソフトバンクと楽天モバイルをめぐるこの事案は、これから色々な条文が関わってくる可能性がある。できるだけフォローしたいところ。

取り急ぎ、条文をざっと見た段階での整理でした。


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