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〔ショートショート〕        シャボン液のような

 その日、4才のボクはシャボン玉をはじめて見たんだ。
 ストローで変な匂いのする水を膨らませると、風に飛ばされていった。
 まん丸に見えるシャボン玉の中身はボクが吹き込んだ空気で、シャボン玉の外側にはみんなが吸ってる空気がいっぱいある。だけど、同じ空気なのに変な匂いのする水は、ボクの空気だけを丸くしてどこかに連れて行こうとするんだ。母さんは、どこにも連れて行ってくれないのに。
 
 それから一週間、毎日シャボン玉で夢中に遊んだ。
 良く晴れた1週間で、家の前でストローを咥えると「今日も準備ができてるぞ」といった具合に、風がボクのつくるシャボン玉を高く飛ばす。瞬く間に駆け上がるシャボン玉を目で追いかけるとキラキラした太陽に消えた。眩しいから目を瞑ると、明るい虹色の光が目の中に残って嫌だった。
 そして、母さんが何処かへいなくなった。

 どこに行ったのか、誰もわからない。
 そのせいで、ボクは5才の誕生日がいつ来るのか分からなくなった。だって今までは、母さんが教えてくれていたから。もうボクは、ずっと4才のままなのかもしれないな、そう思い、とても心配になった。
 だけど、多分、父さんはあまりしゃべらないから、きっと教えてくれないだろう。父さんは、おしゃべりがキライなんだ。もしかしたら、ボクが5才になる日を知らないかもしれない。母さんが何処に行ったか知らないのと同じように。きっと、そうだ。

「ごめんな」
 と、父さんはボクに言う。
 なぜか分からないけど、母さんがいなくなってから、そんなことを何度かボクに言った。そして、ボクとしゃべる回数が少し増えた。
 それがどうしてなのか僕には全く分からないけど、ボクは父さんと似てるなと思った。ボクもしゃべるのがキライだ。そして、わからないことが沢山あるから。

 ……スー、スー。
 もうストローに変な匂いの水が付いていないからシャボン玉にはならずに、ボクの空気だけが空に吸われる。
 父さんと、二人並んで座る。
 何も壊れることのない空気が、咥えたストローを抜けていった。

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雨音ムッツ
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