介護職の専門性とは何だと説明できるか?
仕事は報酬がすべてではないが、報酬は人に感謝をされた量の対価といわれることもあり、他の人が簡単にはできないことなどの専門性や希少性のある仕事は、感謝(ありがたみ)する方も増え、往々にして報酬が高くなる傾向にあることも事実と思います。
介護という仕事は、確かに感謝をされることが多い仕事です。
ですが、働いている当人たちは、自分たちが行っている介護の専門性や希少性について明確に周囲の人に説明ができるでしょうか?
・社会なくてはならない仕事
・困っている方を助けられる仕事
・誰もが簡単にできる仕事ではない
利用者や周囲の方だけではなく、働いている介護職員からもこのような話を聞くことは多いです。しかし、上記のような言葉は、例えば・・・運送業の方であったり、皆が使っている携帯電話の製造に携わる方や販売の方々、こうした社会インフラを支える仕事をされている人々も同様に言われるわけで、気持ち的には世間にそう言われたいところですが・・・介護職だけが特別であるかのように、この言葉を並べることは正しいわけではないかなと思っています。
個人的には、私たちは何の専門職であるかを、しっかりと語れる介護職が増えてほしいと思っています。
専門職(せんもんしょく)とは・・・
「専門性を必要とする職のことである。現代の日本においては、国家資格を 必要とする職業を指すことが多いが、近年では高度な専門知識が必要となる仕事については、国家資格を不要とする仕事でも専門職と呼称することも多い。」(Wikipedia)
介護の資格は、「業務独占資格」と「名称独占資格」で分けて考えますと、介護の資格は、ほぼ名称独占資格です。※ケアプラン作成や訪問系の介護は無資格ではできなかったりしますし、喀痰吸引なども一部資格によって行えるものもあったりしますが、そもそも医療従事の有資格者が行えますし、ご家族やご本人は自ら実施できる等などといった面もあります。
では、資格の有無で考えるのではなく、介護職だけが知識を習得し実践できる専門性は何でしょうか?
例えば、医師や看護師などは、医療(術)駆使して人を元気にさせることができる専門職といえると思います。PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)などは、様々なリハビリテーションなどを通じて人々の心身を元気させることができる職種といえます。
介護職は、生活の側面から介入(アプローチ)、支援して、その人を元気にすることができる唯一の職種であると考えます。
身体の様々な後遺障害等、その他認知機能障害や記憶障害、進行性の難病等での立位困難、歩行困難・・・等によって、ADL(日常生活立度)を引き下げてしまう原因は多々あります。そして、そのことによって外へ出かけにくい、仕事や家事、趣味活動ができにくいなどと、人の生活範囲、行動範囲が狭まってしまうこともあるかと思います。また、心理的な面からも人に会いたくないなどといったお気持ちになる方もいて、生活範囲の縮小が起こることはあると思います。
※高齢者の場合、定年退職をむかえ仕事が毎日なくなることや、親兄弟、友人知人等も高齢となり、時に死別なども増えてゆくわけで、人と会ったり話したりできる関係性が減少して活動範囲が狭くなることもあります。
一方で、すべての障害を持たれた方が生活範囲を狭めているかといえばそうではありません。パラリンピックの選手に代表されるような方をはじめ、障害を抱えられていても、障害を持たれていない方以上に活動圏が広く、色々な人と交流を持って生活されている方もたくさんいます。
また、心身に障害がなくても、多くの人々も体調を崩せば外出しにくくなりますし、人に会うことを億劫に感じることもあります。例えば髪型に失敗しても、嫌な仕事があっても、誰かと喧嘩してしまっても、外へ出たり人に合ったりすることが嫌になり、一時であっても活動範囲を狭めることは起こります。
逆に、大好きな人に会う予定がある時、楽しみにしていたイベントがある時、大事な仕事を任されている時、美味しいものを食べる予定がある時・・・、そんな時は多少体調が悪くても、寝不足でも、人は体を起こし、出かける準備をしたいと気持ちが沸き起こります。
特に高齢者介護の観点でとなりますが、まとめると・・・
①心身に障害を負うと生活範囲、活動領域が狭くなりやすい
②高齢となると会う人、予定が減りそれによっても生活範囲、活動領域が狭くなりやすい
③しかし、必ずしも全員がそうなる訳ではなく、心身の障害が生活・活動の縮小の直接的な原因とはいえない
④障害があって、なくても活動的になれるときは、会いたい人がいるなど楽しみ、大切な役割などがあることでそれらを乗り越えられる
こうしたことが言えると思います。
その上で、「介護」という職業は、日々高齢者や障害を持たれた方のそばにどの職種よりも頻繁で長い時間そばにいることができます。業種によっては、利用者家族以上に濃い時間を過ごすこともあります。
その利用者が何に喜びを感じて、何に不安、不満を持っていて、過去にどんな経験をして、最近の体調は良くて、悪くて、どんな趣味嗜好があって、どんな笑い方をして、どんな苦労を超えてきて、誰が好きで、誰が嫌いか、24時間サービスしているといつ寝ていつ起きるのかさえ・・・いろいろなことをそばで知ることができる存在です。この情報は、お医者さんでも得られないかもしれません。また情報を持っているだけではなく、その利用者の会いたい人の一人にもなれます。直接、手を触れ目を見て毎日のように声をかけたりもできます。
こうした情報から気づくこと、そして、体を起こしてもらい日の時間や季節を感じたりすることは、運動リハビリを一生懸命やる以上に、時に心身機能の維持向上につながったりすることもあります。
足が動かないから車いすへ移乗し移動介助、食べられないから食事介助をするのだけが介護職の専門性ではないのです。
広域な領域になるため学ぶことが多かったり、多職種の理解や連携も非常に大切ですし、こうした内容を専門性とするには、その根拠であったり数値化したデータなどもあるとなおよいと思いますが、20年介護業界にいて最初のころにこのことを学びましたが、現在もこの点は介護の専門性領域であることは変わっていないと感じています。
※障がい・障害の表記に関しては、パラリンピックの一ノ瀬メイ選手の言葉に共感したため、「障害」の表記を選択しています。