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父の生まれた家

父は、口下手な人だ。
口下手、というと、寡黙でどこか硬派なイメージを持つ人もあるかもしれないが、彼の場合にはそれは当てはまらない。
顔にはいつもにこにこ……というかにやにやに近い笑みが浮かんでいて、何かというと蘊蓄を傾けたがる。
けれど、言葉を選んだり、話を組み立てたりすることはあまり得意ではないので、必然「あー」「えー」といった間投詞の割合が多くなる。
上手く伝わらないとイジケて途中で投げ出してしまったり、こちらが察して助け舟を出すと満足気に顔をほころばせる様子を見ていると、なるほど、きっとこの人は幼い頃からこんなふうに、周りに助けられながら生きてきたのだな。と何ともいえない気分になる。

それは、わたしの母の目から見れば許し難い弱さであり、わたしは幼い頃から、「ああなってはいけない」という反面教師であると教えられてきた。
しかし、長じてみて改めて眺めれば、そうやって周囲から手を差し伸べてもらえる人間というのは、決して誰もがなろうと思ってなれるものでもないのだと気づいた。
はたしてこういった性質を、人徳と呼んで良いものなのか。
ともあれ、わたしより余程甘え上手で手のかかる父は、母をしてわたしの「大きい弟」と言わしめる地位を、わが家では確立していた。


父の生家は、医者の家系だった。
これ自体は特段、珍しいことでもない。
父の父、つまりわたしの祖父に当たる人は外科医で、妻との間に、三人の息子と二人の娘をもうけたらしい。
らしい、というのは、これまた母の実家同様、わたしが父の実家も直接訪れてみたことがないからで、情報源の大部分は、やはり母だった。

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