街路灯は夕暮れより早く
街路灯のあの光は橙色だってなぜかずっと思い込んでいたのだけど、
うす紫に染まる夕方の空に、少しだけ早く光りだす白色のランプは美しくて、ひとつの詩のようで。
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街路灯に目を向けるのは、いつも決まって夜中だった。
等間隔に並んだ、古めかしいかたちのそれをわたしは結構好きで。
街のあかりと混ぜこぜになって、カーブミラーに逆さに映るその様が
水中の光みたいに幻想的だとか思ってときどき立ち止まっては
その日初めての呼吸らしい呼吸ができたりしていた。
けどどうしてだろう。わたしはずっと、
それを橙色だと思い込んでいたのだった。
たぶん、いつもカーブミラー越しに眺めるだけだったからだと思う。
営業を終えた店たちの軒先にある、あたたかそうなオレンジの光とそれは一緒になっていたものだから、
外国の街にいたときに見ていた、美しいナトリウム灯のイメージと混ざってしまってわたしはずっと
あの街灯は橙色だと誤信をしていたのだった。
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日が長くなった。
夜の直前みたいな時間でも、まだ夕方の光がそこらじゅうに満ちているようになった。
梅雨の晴れ間の夕暮れどき、
空の下の方がうすいオレンジからピンク色に染まって
紗をかけたような柔らかい白と薄紫が広がっていく時間にはじめて、
わたしはあの街路灯が白く光っているのに気づいたのだった。
空のむこうの淡い色に溶け込むように、その白色は光っていて
ほんとうはこの空の色の光源なんじゃないかと思うくらいに、いちばん綺麗に輝いていた。
ふたつ揃いになったランプの、濃茶色した枠組みがくっきりと浮かびあがり
それはなんとなく童話の挿し絵を思い起こさせた。
わたしはちょっと立ち止まって、その光景を詩の一節みたいだと思って、
ろくに知りもしないそれをひとつかふたつ、思い出そうとしながら夕暮れの街路灯を眺めていたのだった。
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ほんとうのことを言えば、白い電灯を綺麗だと思ったことがあまりなかった。さすがに明るすぎるような気がしていたのだ。
けど夏の隙間の夕暮れに、少し早く光りだすその白い街路灯は昼間が去っていくのを惜しんでいるかのようで
まだ遊んでいたいような、帰りたくないような
どこかに忘れてきたような、少しノスタルジックな
そんないつか感じてた気持ちを、思い出させてくれたのだった。