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ブランドの底力

生き残っていくものには、それだけの理由があるものだ。

ということを、見せつけられた。


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すこし前、世界中から集めた鞄を展示している博物館へ足を運んだ。

国別に並べられた鞄は、各国のものづくりに対する哲学を垣間見せて、

とても興味深くて、閉館ぎりぎりまで眺めていた。


やはり革を扱わせるならイタリアがいちばんだなあとか、

フランスも素敵ね、とか、

日本は革には慣れてなさそうだけど、絹のハンドバッグは素晴らしいなとか、

そういうのを思いながら、見てまわる。


誰もが知っているような、有名なブランドもそこには並べられていて、

でもわたしがいちばん驚いたのは、歴史と伝統の代名詞みたいに見える”ブランド”の革新性なのだった。



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HERMES。あの高級馬具商。

バーキンとか、たしかにとても有名だけど、

よく考えればそもそもどうして、馬具商が鞄をつくっているの?


その答えが、きちんとその博物館には記されている。

わたしのメモによれば、


「エルメス 自動車の普及による馬車の衰退を予見し、鞄などの皮革製品に軸を移し、成功」



そう、たしかにもとは馬具商である。

けれど、人間の移動手段に”車”というものが現れたとき、彼らはいち早く気づいた。


-これからの時代、人々は馬車を必要としなくなる-


だとしたら、何を作ればいい?

人々は車や列車で旅に出るようになる。そうすれば、必要になるのはそう、鞄だ。


いち早く時代を見透かして、彼らは鞄というものに着手した。

現代までの繁栄をみれば、その選択が正しかったことは言うまでもない。



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さらに、メモにはこう書かれている。

「1923年 エルメス 世界初、革の鞄とファスナーを組み合わせる」


すなわち、1923年以前はがま口タイプの鞄しか存在しなかったということ。

今では当たり前のような、ファスナー式の開閉は、このときから始まったのだということ。


これも、本当に驚いた。

知っている人はもちろん知っている話なのだろうけど、

歴史と伝統を抱えて立っているように見える”ブランド”という存在が、こんなに革新的なことをやってのけていたなんて。



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わたしにとって、ブランドというのはその技術力とセンス、そして伝統に敬意を払うべきものだった。


良いものをつくり、信頼と信用を積み重ねて続けてきたからこそ

最も良い素材を手に入れることができ、

最も良い技術がそこに留まり、

そしてそこに吸い寄せられるように、きちんした届け手と受け手が集まって。


そんな風に一流のひとやものが集い、だからこそより価値がある。

そういうものが、ブランドだと思っていた。



けれど彼らとて、保守と伝統だけで生き残ってきたわけではなかったのだ。

時代の先を見越しながら、自分の哲学を残していく。

この先見の明。そして伝統を維持するための、革新性。


なんだか、人としての生き方にも通じるところがあるなあなんて、

ちょっと自分のことも振り返ってしまうような。

そんな、ブランドの底力を見た瞬間だった。



エルメスの鞄はひとつも持っていないけれど。

自身のアイデンティティを守るため、

時代の波を華麗にのりこなすその姿勢を見せつけられて、

歴史と伝統あるものへの敬意はまた、いっそう増していくのだった。













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