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もらった熱は、冷めない


時も場所も違って、出会った人たちが残していった”好き”が、

いまやっとわたしの中で繋がって、レコードに針を落とそうとしてる。


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少し前にイベントでお見かけした、あるDJさんのブログ読み続けていたら、

なんだかわたしもレコードというものへの

憧れがつのってきてしまった。


わたしはアナログレコードというものを扱ったことがないからよく分からないけれど、その方の文章を読んでいるとどうも、

同じアルバムでもCDとは曲順が違ったりとか、そんなちょっとした細工がほどこされていたりもするらしい。

そんなこと、全然知らなかった。

他にも、針を変えると音が変わるとか。まあ、原理はよく分からないのだけれど。


毎日仕事が終わって、その日にぴったりな1枚を選んで、

針やなにかを調整しながらレコードを聴き、そして憑かれたようにレコードを集めるその人の熱に浮かされたのか、

わたしもちょっとだけ、その世界を覗いてみたくなった。




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わたしの手元には7枚のレコードがある。


マニアックな友人がこつこつ集めて増えすぎたものを、すこし整理するためにわたしにくれたもの。

それは、わたしの好きなバンドのレコード。


7枚セットで、1枚ずつ、そのバンドにゆかりのある漫画家さんたちが書いた物語がついている、ボックス入りのレコード。

割と貴重なものなんじゃないかと思うのだけど、彼女はそれをぽんと、わたしに託してくれたのだった。


CDと違って大きくて、存分に楽しめるアートワークとか、それぞれのジャケットの色をイメージしたであろう、カラフルで透き通った盤面の色(グリーン・ヴァイナルとか、ブルー・ヴァイナルとかいうらしい。)を、ときどき取り出しては綺麗だなってつくづく見て、またしまって。


彼女の熱がすこし千切れて、そういえばわたしのところにやってきたんだったな、このレコード。

それを手に取るたびに、随分な蒐集家だった彼女のことを思い出していた。



それでも、わたしはこれを一度も聴いたことがない。


プレーヤーを持っていないから、持ち込みできるバーにでも行ってかけてもらおうなんて、ときどき言ってはいたけれど、

でも実際に行ったことはなくて。



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そんなことを話していたらついに、今度はプレーヤーについての情報が入ってくるようになった。まわりにいる、オーディオマニアの方々からだ。


彼ら、かけている金額がとんでもないし、色々と住み分けがあるようだし、初心者には難解な用語が多いから、話を聞くにも難しいのだけど、

わたしは彼らの話を聞きかじりながら少しずつ、オーディオメーカーの名前や、どんな使用目的に向けられたものなのかとかを覚えていった。

LINNとか、TANNOYとか、Vestaxとか、知らない横文字が頭の中に蓄積される。それを語る誰かの、止まらない話と一緒に。



結局わたしが目をつけたのは、彼らの使っているものの足元にも及ばないような値段のプレーヤーだったのだけど、

それさえ買おうか迷うわたしに、いろんなメリットとデメリットを説明してくれるのもまた、彼らなのだった。

安くて、デザイン性もあって、アンプが内臓されていて、初心者で君の使用目的になら丁度良いじゃないか、って。



彼らの熱もまた、とどまることを知らないのだった。



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レコードマニアと、蒐集家と、オーディオ狂い。

蒐集家がわたしにレコードをあずけて、レコードマニアがその面白さを教え、オーディオ狂いが最適なプレーヤーを選んで。

どれもこれも、狂ってるほどの”好き”でできている。


誰かが熱に浮かされた。そのかけらをわたしが受け取った。

それで、いまレコードに針を落とそうとしている。


まるでインクの点が滲むようだ。

ぽつりぽつりと落とされた点が、どこかでつながって、大きな跡になる。



彼らは互いに知らない人々。

違う場所で生きて、違う年月にわたしと出会い、それでわたしの中に熱を置いていった。


ここまで随分、時間がかかった。

もし、いま彼らの中の熱が冷めて、色は褪せ、目が醒めてしまっていても、

わたしに伝えられたその想いはずっと残って、そして不思議と繋がっていこうとしている。



彼らの熱を集めてわたしは、新しい世界を目にしてる。


もらった熱は、冷めない。







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