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春の嵐

春の嵐、ってなんて美しい言葉だ。


夜明け前に目が覚めた。

ねむる前はしとしと降っていた雨が、ごおごおという音に変わり、暗闇の中が生暖かい。小枝や葉がざわざわいうのも、春の不穏な心象風景みたいな。

目を開けたままじっとして、時の過ぎるのをただ待っていた。何分もたっただろうかと時計を見やれば5分もたっていなかったり、眠ってしまったのか、起きたのかもよく分からずにまた時刻を確認すれば1時間もたっていたりする。

時間、記憶、感覚。なにもかも、なんかぜんぶが曖昧になる。


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夜明け前の暗さは、夜中の黒さとはどうして違うとわかるのだろう。

カーテンの隙間から見える夜の色と、底冷えみたいな妙にしいんとした空気で、朝がそのうちくるのだろうとなんとなく気づく。それがどれほど遠いのかは、まだ分からないけど。


軽くて永遠のような厚みの毛布にくるまって、顔だけだして朦朧としてる。

夜更けからこの時間帯にかけて、はっきりしない意識でいるのが好きだ。嵐なんかきていたら、特に。

音だけじゃない、色だけじゃない、気配も含めて、すべて。全部を完璧にひっかき回して、それでいて新しいものがやってくる予感。

春の嵐は、春そのものみたいだ。


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またうとうとして、目が覚めたらすっきりと青空だった。

花の芽はまあるく膨らんで、ぽこんぽこんと咲きかけている。空気はどこか桃色がかっている。粉みたいに花の香りが、どこからか漂っている。


春の嵐はどこへ行ったのだろう。


どこか薄ぼんやりとして春先を撫でながら、それでもわたしは、

すべてを混ぜ返し、連れ去ってくれそうな、

春の嵐を恋しがってる。





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