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「やおら」「やにわに」「おもむろに」
こんにちは、須恵村です。
趣味で小説を書きながら、音声書き起こし(反訳)の内職をしています。
よく考えると、今まで ↑ これを前提としながらも、特に何の注釈もないまま本題から書き始めていたので、今さら取ってつけたようで恐縮ですが、今回からは導入として、上記の2行を使いたいと思います。
音声の書き起こしは、人の話を正確に聞き取って間違いなく入力することが「肝」ではあるのですが、「言い間違っていてもそのまま」というご指定の場合と、「言葉の明らかな誤用などは改めて」という場合があります。
前者の場合、(少々イラつきつつ)オーダーにお答えするしかないのですが、後者の「明らかな誤用」というのも、それはそれで厄介です。
しかし明らかって、誰にとっての「明らか」なのか?
例えばですが、「やおら」「やにわに」「おもむろ」の使い分け、ご存じでしょうか?
全て副詞で、動作の前に付けて使うことがほとんどでしょう。
やおら
(1)静かに身を動かすさま、また、徐々に事を行なうさまを表わす語。そろそろと。おもむろに。やわら。現代では悠然としたさまをいうことが多い。
やにわに
(1)「やにわ(矢庭)(一)」から転じて) その場で、時間もかけないで一気に事を行なうさまを表わす語。
直ちに。たちどころに。
「おもむろに」は「やおら」と同義であることが書かれているので省略します。
このように、「やおら」と「やにわに」はほぼ逆の意味ですが、なぜか「急に、いきなり」の意味で「やおら」を使う方が驚くほど多いのです。 「ヤオラ」などと、『徐々の奇妙な冒険』の空条承太郎が宿ったかのような、この独特の語感のせいでしょうか。
人は言葉の解説をしながらしゃべってくれるわけではないので、それをどういう意味で使っているかの答えは、極端な話、使っている本人の中にしかありません。
自分の場合、前後の文脈から「明らかに」間違っているなあと思った場合は、その発言どおり起こしつつも、Wordのメモ機能で「発言ママ」と書いたり、正しい意味の書いてあるページのURLを注釈として書いたりです。
が、この発注者(発言者と同一の場合もアリ)が、「これのどこが間違っているのか?」と疑問を持たないとも限りません。そのためにURLをつけるのですが、正直見ていただけるかどうかも分からず――です。
たまたまどこかで見聞きして知っている場合、そんなふうに突っ込んで調べたり、確認したりもできますが、自分が間違っているとは思っていない場合、そもそも調べもしないのが普通です。
また、どんなに言葉にこだわりのある人でも、全てについて正しい意味を知っているとは限りません。そんなふうに、気付けば誤用の方が正しい意味になることもしばしばです。
こうして誤用は広がっていくのだなあとシミジミするのは簡単ですが、シミジミしている場合じゃないのが文字起こしの仕事の一面です。
おまけ
数ある小説投稿サイトのうち、記法の関係で傍点の打てないものはありますが、ルビが触れないサイトはあまりないのではないでしょうか。
ということは、熟字訓などの一般に認知された読み方ではなくても、個人の自由でルビを振れるということです。
本気と書いて「マジ」と読む的なあれですね。
破天荒、姑息、卑下のように、本来の意味とは違った場面で使われがちな言葉に、原義に近いルビを振ることで、「正しい方」をご存じの方にもそうでない方にも、「言わんとするところ」を伝えられそうです。