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速記者席あれこれ
自慢になるかどうかは分からないが、「ほかの人が経験したことがなさそうなこと」として私が挙げたいのは、「議場の速記者席に座った経験がそこそこ多い」ということである。
速記者席
2023年11月30日 12時00分発信の「東京新聞」記事より
ちょうどいい(使える)フリー素材がなかったので、記事からの引用。
写真では分かりにくいが、机はやや傾斜している。
多分国会・地方議会問わず「速記者席」として設営されているところは、そういう仕様だと思われる。
しかし、最近はそもそも速記者自体が議場に入らないため、もともとあった速記者席(演壇の前)も撤去されていることが多い。
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国会・衆議院議場速記者席
在学していた養成所が衆議院の附属機関だったので、1年の後期、国会見学に行った。
はとバスツアーではなく営団地下鉄(現東京メトロ)千代田線を使った。
多分はとバスツアーの国会見学では、ここまでは座らせてもらえないであろうことを考えると、役得というか、ちょっとした特権みたいな感じではあったと思う。
席には片耳用のイヤホンがあった。Bluetoothの開発すらされていなかった80年代後半のことなので、当然有線である。
同期の中でも仲のよかった子と2人で並び、特に意味もなく耳にあてているところを写真に撮ってもらったりした。
そういえば、符号帳や回転式シャープ(**)を持ってきて、その場で書く的な演出があってもおかしくなかったのだが、そういう発想はなかった。
**回転式シャープとは
具体的な形状を説明しにくいので、画像つきのページを漁っていたら、上記のようなものが出てきた。当時これが幾らだったのかは分からないが、学校の事務室で無料で支給された。
回転式だったのは、ノック式よりも時間が節約できる的な理由だったと記憶している。
個人的には書いている間も芯が軽く動く感覚が苦手で、自腹で0.7~0.9ミリのノック式ペンを買って使っていた。今でこそ芯も含めて100均で買えるけれど、当時はペンが最低500円程度、芯は文具店でもあまり置いていなかった記憶。
ちなみに芯を出すときは、いったん手を止めるしかなかったので、ノック式より時間の節約になっていたかどうかは疑問。
先輩で1人だけ、筆記しながら親指と人差し指の間でくるっと芯を繰り出す「神業」を持っていた人がいた。
今はなき〇〇市議会
2度目は東海地方某市の議会。私の退職後に合併で消滅した。
ここはまあ「職場」だったので、ある意味特記事項はないけれど、強いて言えば、庁舎内にテレビ配信するためのカメラブースにも時々入り、演壇や市長部局席にカメラを当てるという単純な操作をしていた。
明かり取りになっている天井のガラス部分(多分けっこうゴツイ)にひびが入っていたらしく、雨漏りがしていたときは、割とビビった。当時借りていた築ウン十年の古い貸家ですら雨漏りしていなかったというのに。
まんが『キャンディ・キャンディ』の中で、女優スザナ・マーロウが、落ちてくる照明器具からテリュースをかばい、足を切断するほどのけがを負うエピソードがあったが、なぜかあれを思い出した。
ただし、位置的には速記者席を直撃というほどではなかった。発想がいつもアホ過ぎる。
妊娠してからスニーカーで通勤するようになったのだが、そのまま議場に入ろうとしたら、「運動靴で議場に入るのはいかがなものか」と、5歳年上の先輩速記士(男性)に注意された。
映画『ワーキング・ガール』(1988)の中で、ヒロインのメラニー・グリフィスが、スニーカーで出勤し、オフィスで(電話を受けながら)パンプスに履き替えるシーンがあったが、私は履き替えずに仕事をし、特に注意されたことはなかった。委員会室や全員協議会室、議員控室なども、そのままの「足元」で行っていたけれど、口うるさそうなおじいさん議員にすら注意されなかったことを、なぜか本会議場に入るときだけ、ほぼ同世代の同業者に注意されたのはちょっと衝撃だった(ほんと、注意したのはこの人だけ!)
ちなみに「運動靴禁止」みたいな規約・規則があったかは不明。
「ほんかいぎじょーにうんどーぐつではいる」のが禁忌だと言いたいなら、スニーカーで傍聴に来た市民にも同じダメ出しをしなきゃいけないはずだが、よほどドロドロの靴でもない限りOKだろう。でないと、今の時代ならSNSで拡散されそうだし、当時でも「やりよう」で新聞やテレビネタにされたはず。
いろいろ考えると、あまり合理的な注意とは思えず、「るせえな」とは思ったものの、近所の「デパートっぽいスーパー」の中にあった靴屋さんに、一番安い黒パンプスを買いに走った。
この何年か後に、ジーンズで入場しようとした某県議会議員が悪い意味で話題になったことがあった。
賛否両論あったが、否の理由は当然、「神聖な議場にうんちゃらかんちゃら」的なことだったろう。
個人的には「別にジーンズでも議員としての仕事ちゃんとしてればいいだろうに」と思う反面、「うちの学校の制服は標準服であって制服ではない。だから私服登校もいいはずだ!」と言い張る中学生の痛々しさみたいなものも感じ、てきとーにスーツ着とけば納得する人がいるなら、安いもんじゃん……と、パンプスを買ったときの気持ちがよみがえった。
この社会にはTPOというものがある。面従腹背で「形だけ従っとこ」が大事な場面は多々あるものだ。
まだ若く多少は生意気だったので、スニーカーの件は正直愉快ではなかったけれど、そうやって納得するしかない。
(でも、注意したのが彼だけだったという事実には、いまだにモヤモヤを覚える。そこまで悪いことだったかなあ……速記者の出入り口は議員とは別な裏口だったし、そもそも足元見えないし)
ふるさと郡山市議会
〇〇市議会を退職後、在宅で会議録調製の仕事を始めたが、その仕事をあっせんしていた反訳会社は、速記者の派遣もしていた。
当時、そこから郡山市議会へも派遣されていたので、地元だしちょうどよかろうということで、議会中だけ速記士の仕事もすることになった。
定例会の会期中だけとはいえ、定期的に行っていたので、議会事務局内に臨時で席も設けてもらった。さすがに個人の楽屋ってわけにはいかないが、「まず顔を出す場所」が設けていただけるのは、割と気が楽である。
90年代半ばに新庁舎が建てられ、議場も議会事務局もそちらに移転したため、最初は旧議場にも入ったけれど、新議場の印象の方が強い。
もっとも時代の趨勢というか、速記士の派遣自体がなくなるのも存外早かった。
昼食など長い休憩の場合、議会事務局に設けてもらった席で休むこともあったが、10分程度の小休止のときは、トイレ以外ではほぼ速記者席にいた。
すると、手持無沙汰な感じの議員さんが声をかけてくださる。
年齢やらどこに住んでいるやら他愛ない質問のほか、「君よく眠くならないね。俺は席に座るとまぶたが落ちるよ(笑)」という軽い問題発言もあった(一応笑っておいた)。
悪い意味で印象に残っているのは、農家後継者の話題が一般質問で出た後、「どうせあんたみたいな若い子は、農家なんか嫁ぎたくないんだろう?まったく、これだから……」などと唐突に言われたことだった。
「はあ……私の夫の実家は兼業農家で……義姉夫婦が継ぎましたが……」と、答えにならない答えをしたら、バツの悪そうな顔をして退散してくださった。
散れ散れ!失礼にもほどがあんでしょ。
当時20代半ばだったけれど、顔と体格のせいで子供っぽく見られがちだったので、この手の絡みは割とあった。
今にして思うと、市議会議員サマが(素面で)一市民にこの絡みって、結構問題にしてもよかったような気がする。
縁あって 政令市の市議会
在宅での会議録調製が主な仕事になり、上記郡山市への派遣がなくなった後も、一応21世紀初頭までは速記士として派遣されることはあった。
何らかのシンポジウム、〇〇委員会会議、年イチの株主総会などなど。
その中で、市議会本会議への派遣もあった。
特に名前を伏せる意味もないが出す意味もないので、「某政令市」とだけ記しておく。
議場の古さに驚き、議員数の多さに圧倒された。
現在の定数は55人だが、21年前、2003年の記録では「60人」となっていた。だから同数か、さらに何人か多かった程度だと思う。
余談だが、その昔、「県議会議員は人口10万人当たり1人でいい。だから鳥取県は6人でいい」と軽率に言い、「余計なお世話」とやり返された人がいた。
それはともかくとして、議員定数は時代とともに、ちっくりちっくりと削られているのだ。
まあ、これっすわ ↓
ここは単発というか、せいぜい数回の派遣だったので、その都度「〇〇事務所から参りました」と議会の担当さんに取り次いでもらい、議場に入るとき以外は、手持無沙汰状態で庁舎内をうろうろしていた記憶がある。
議会の内容に関しては、「やっぱり大きな街の議員さんは、話し方や話題がソフィスティケートされてるなー」というのが素直なところだった。
ちなみにこの街は、『ジョジョの奇妙な冒険』第四部の舞台であるM県S市のモデルであり、ジョジョファンにとっての聖地がいくつもあるらしい。
議会以外の民間企業やお役所関係の会議でもしょっちゅう派遣されていたが、時期が20世紀末から21世紀にかけてだったので、まさに作中の杜王町で凄惨な出来事が起こりまくっていた頃だ。巻き込まれなくてよかったな……などと、あえて二次元と三次元をごっちゃにして身震いなどしてみる。
【了】