[エッセイ]ロスト・チャリンコ
人は物忘れをすることがある。
私も人並みに物忘れはするのだが、
妻曰く、人並外れたボケをかますことがあるという。
そんなわけはないと常々言ってきたのだが、
昨年の夏についにやらかしたことがある。
そんな何にもならない話は墓場まで持っていくべきなのだが、
あまりにくだらないのでここに記すことで昇華したいのでどうかお付き合いいただきたい。
去る2023年の夏
私たちは市民プールにハマっていた。
仕事終わりに近くの駅で待ち合わせし、
夜までやっている大きめの市民プールに行き
1時間ほど水泳をしてから帰るという日々を過ごしていた。
これがなかなか気持ちが良い。
ゴーグルや水泳帽もわざわざ購入し、海パンも量販店で購入した。
毎週火曜日の水泳教室にも関わらず、嫌いすぎて月に1~2度した出席しなかった小学生時代では考えられない。
出席率50%以下である。
水泳教室に行くと先生に「お、宮沢君久しぶりに来たね!」と言われる始末であった。いや、通いなさいよ。どんだけサボってるのよ。
そんなサボり魔は当然上達することもなく、「クロール→背泳ぎ→平泳ぎ」で終了した。
本当はこの先に憧れのバタフライがあるのだが、バタフライのバの字も学ばずに小学校卒業を迎えた。
バタフライが泳げたところで水泳の授業中に自慢する以外の用途がないので特に後悔はしていない。
そんな水泳サボり魔の私が社会人になって、再びプールに通い始めたのだ。
数百円で全身運動ができ、気持ちが良いというのだから最高である。
半年ほどで通わなくなった24時間ジムと違い、月額料金もないので行けるときだけ行くというのもプレッシャーにならなくて良い。
ある日、休日にも行こうということになって
私は自前の自転車に乗り、妻はシェアサイクルを使用して市民プールに向かった。
私の自転車は大阪に住んでいた頃に15,000円ほどでコーナン(量販店)で購入したネイビーのお気に入りのギア付き自転車である。
この自転車で大阪府内を縦横無尽に駆け回った。
コロナ禍で電車に乗ることも憚られたときも
この自転車ひとつでどこまででも行くことができた愛車だ。
1時間ほど泳いで満足気にシャワーを浴び、近くのファミレスで食事をした。
ダイエットにはならないのは知っている。
それでもこれが楽しいのだから仕方ない。
夏の夜風を浴びながら気分よく帰路に就く途中でコンビニに寄り、
コーヒーと翌日の朝食用のパンを買った。
自転車を降りるときにママチャリでもパクられることはあるというので念のためにダイヤル式の鍵を装着する。
コーヒーを片手に家の近くの信号で「夜はさすがに涼しいね」なんて言いながら立ち話をしながら家に着いた。
2か月後、ゴルフの練習に行こうと駐輪場に向かったときにあることに気が付いた。
駐輪場に自転車がない。
やばい。盗まれた!!!!!
鍵もつけていたのに。
わざわざダイヤル式の!!!
あんな普通のママチャリを盗むなんて。。。。
ん?鍵をつけた?
あ。
突然、夏の思い出が走馬灯のように蘇る。
市民プールに行き
ファミレスでたらふく食べ
肥えた腹でコンビニに立ち寄り
そのまま自転車を放置して徒歩で家に帰ったのだ。
急いでそのときのコンビニに行ったが
2か月も前のことだ。
当然ながらそこには何もなかった。
近くの自転車を停めていそうなところ片っ端から見て回ったが
もちろんあるはずもなく、私は貴重な愛車を失った。
その後、やはり都内は自転車があった方が良いということでネットや店頭で自転車を調べていたが、
今では15,000円ではギア無し自転車ですら購入することができない。
物価高騰とは恐ろしいものだ。
何の変哲もないギア無し自転車が19,800円もする。
これは恐ろしい。。。
懐事情が厳しい現状では自転車に2万円は出せないということで見送っていたが、
先日、何気なく通ったリサイクルショップで割と綺麗な自転車が9,000円で売っていた。
聞くと防犯登録もできるとのこと。
状態も確認したところ傷や一部サビがある程度で、普通に乗る分には全く気にならない。
ブレーキも問題なく利く。
「新品が良いよ」
「どうせ汚れるし、中古でも問題ないよ」
私の中の賛成派と反対派が議論している。
背に腹は代えられない。
これからの私の自転車は誰かのお古ということになるが、
これも何かの縁だ。
今回ばかりはコンビニに置いていかないと心に誓い、
レジでPaypayのバーコードを差し出した。