微生物研究につきものの「お金」の話【2024.6.2更新
「地獄の沙汰も金次第」という言葉があります。
どんなことでもお金さえあればなんとかなる、という気はないんですが。それでも最近の微生物研究は、ほんとうにお金がかかるようになりました。お金がないとなんともならない、という状況は確かに存在します。
半端ない値下げの遺伝子解析
すっかり世間に定着してしまった「PCR」をはじめとした「遺伝子解析」。遺伝子解析の世界を大きく変えた装置として「次世代シークエンサー(NGS)」があります。「次世代シークエンサー」は遺伝子解析を大量に、しかも高速に行うことができる装置です。
かつては高額だったNGS解析ですが、その価格は驚くほど低下しました。
illumina社の公表しているデータによると、ヒトゲノム(遺伝情報全てを)次世代シーケンサーで解析する費用は、約110億円(2001年) → 11万円(2015年)まで値下がりしているそうです。
私が学生の頃は、ヒトゲノムを解析するなんて国家予算レベルの話でしたが、今や個人で利用できるレベルまで値下がりしています。
学生当時の遺伝子解析は、平板のゲルを用いて電気泳動を行っていましたが、もう原始時代かと思うほど昔の話になってしまいましたね。
膨大な遺伝情報データが安価で得られるようになった今、「データ解析技術」が重要になっています。
「調べる」ことがそもそも大変だった時代から、「意味を理解する」時代へ移り変わっているのでしょう。
「パワー勝負」のデータ解析へ
かつての微生物研究といえば、人の手でせっせと微生物を培養したり、成分をひとつひとつ抽出して分析した、といったことをしていました。"ウェット"な研究、なんて言われたりしますね。
現在は、NGSで得られた大量のデータを、高性能コンピュータにより解析するトレンドになっています。コンピュータによるデータ解析は"ドライ"な研究、とも言われます。
ドライな研究では、こんなCPUをゴリゴリ使ってます。↓
高額な装置が勝負の決め手になってくるので、他の研究分野と同様に微生物研究も「助成金がとれる研究」に大きくシフトした印象が強いです。
お金と研究対象に対する熱量
「助成金がとれる研究」へのシフトによって、研究対象への熱量が若干冷めた研究が増えたように感じます。
「この微生物が好きだから研究やってます!」みたいな熱量ですね。
助成金の仕組み自体にも問題があって、「短期間で成果が出る」とか「産業利用できそう(できるとは言っていない)」と言った部分に過剰に重点が置かれているわけです。単純に「この微生物が好き!」というだけで、お金はもらえないのです。
精神論にはなってしまうんですが、「この微生物が好き!」という気持ちからスタートしていない研究って、どうもハートがこもっていないというか、「あ、金のためにやってるんで」感がどうしても拭えないんですよね。オタクが推しのことを熱く語るときのような、あの熱量が研究には大事なんじゃないのかなあと。
研究者が「好きな研究」に専念できる。オタクが推しのことを熱く語るときのような、あの熱量から、ビッグな成果は生まれてくる気がするんです。そしてビックな成果を社会全体が享受できる。それこそが「ゆたかさ」なのかなあ、と私は感じています。日銭を稼ぐような研究を続けざるを得ない現状は、「ゆたかさ」とは程遠くなってしまいましたね。