Trip|フィンランドの風景と音 〈04.ポルヴォーのクリスマスマーケット〉
刻々と移り変わるフィンランドの季節と自然、街並み。このコラムでは、ヘルシンキ在住の音楽家・サウンドアーティストのSeiji Kokeguchiさんが、独自の感性で切り取った「風景と音」を通して、フィンランドの今をお届けします。
短い秋が終わり、本格的な冬を迎えたフィンランド。街ではイルミネーションが始まり、クリスマスへの期待感で胸が膨らみます。11月の終わり、ポルヴォーという街でクリスマスマーケットが開かれていると聞き、今年初めてのクリスマスマーケットに心を躍らせながら向かうことにしました。今回はその様子をお届けします。
ポルヴォー川から眺める街並み
ポルヴォーはヘルシンキから東に約50キロの位置にあり、バスを使って1時間ほどで訪れることができます。14世紀に設立されたポルヴォーは、フィンランドの中で2番目に古い街として知られていて、中世の街並みが残る旧市街が有名です。
ポルヴォー川を渡る橋の上からは、旧市街を見渡すことができます。河岸に見える赤い倉庫群は18世紀頃に建てられたものです。ポルヴォーには貿易で栄えていた歴史があり、当時、輸入品を貯蔵するために使われていたとか。真っ赤に統一された外観は、当時フィンランドを統治していたスウェーデン国王グスタフ3世への敬意を表すためだったそうです。フィンランドではよく赤い外壁の建物を見かけるのですが、こうして並んでいる様子はあまり見たことがなかったので、圧倒されてしまいました。また、個人的に横浜出身ということもあり、日本の赤レンガ倉庫を彷彿とさせました。
こちらは、同じ橋から見た反対側の眺めです。右奥には、スキー場が見えますね。ちなみにポルヴォーでは、訪れる数日前に雪が降ったようで少しだけ雪が積もっていました。あいにくこの日の空も、写真のようなブルーイッシュグレーでした。
中世の雰囲気が残る、旧市街へ
川からの眺めを楽しんだ後は、いよいよ旧市街へ。一歩足を踏み入れると、早速パステルカラーの可愛らしい建物が迎えてくれます。
この辺りの建物も18世紀頃に造られたものが多く、全体的に統一感があるためか、まるで映画の中の風景に迷い込んだような感覚になります。
この時期は、至るところにクリスマスのデコレーションが施されていて、ワクワクします。
並んでいるお店は、アンティークショップやハンドクラフトショップなどさまざまですが、ほとんどのお店でクリスマスアイテムを置いていて、あれもこれもと目移りしてしまいました。
石畳の小道を進んでいくと、旧市庁舎、現ポルヴォー美術館前の広場に着きました。てっきり、クリスマスマーケットはここで開催されていると思っていたのですが、全くその気配がありません。後で調べ直すことにして、そのまま、丘の上に佇むポルヴォー大聖堂へと向かいます。
15世紀に建てられるも、幾度となく火災に見舞われ、その度に修復をしてきたというこの大聖堂。特に、2006年の火災の時は屋根がほぼ全焼してしまったが、しっかりとした漆喰の内壁によってインテリアなどは被害に遭わずに済んだとか。今回は残念ながら中を見ることは出来ませんでしたが、可愛らしい外観とは裏腹に、ゴシック様式の荘厳な内装となっているようです。
大聖堂を後にして、旧市街へと戻ります。この日の気温はマイナス8度。体がすっかり冷え切ってしまったので、カフェで暖を取ることにします。
Cafe Fannyで楽しむクリスマススイーツ
ポルヴォー市庁舎の目の前にある、カフェ・ファニーへ。フィンランドのクリスマスに欠かせないスイーツが、星形のパイの中央にプルーンのジャムが乗った「ヨウルトルットゥ(クリスマスのタルト)」です。これを見ると、クリスマスが近づいてきたなぁという気持ちになります。また、ポルヴォーで有名なスイーツと言えば「ルーネベリタルト」。ポルヴォー出身の国民的詩人、ヨハン・ルドヴィグ・ルーネベリが愛したとされるタルトで、2月5日のルーネベリの誕生日が近づくと毎年ヘルシンキでも多く見掛けますが、ここポルヴォーでは一年中提供しているカフェも多いそうです。
今回は、贅沢にどちらも戴くことにしました。さすがは本場のルーネベリタルト、今まで食べてきたものとは味の深みが違い、街の雰囲気も相まって、とても感動しました。
さて、カフェから出ると、旧市庁舎の広場の前が何やらとても盛り上がっています。良く見るとサンタクロースがいました。大人になっても、実際にサンタクロースと出会えるとワクワクするものですね。
夕暮れのクリスマスマーケット巡り
日も暮れてきたので、今回の一番の目的であるクリスマスマーケットへ向かいます。あらためて調べたところ、旧市街ではなく駅前広場で開催しているとのこと。
歩いて約10分、ようやく目的地に着きました。温かな光のイルミネーションに包まれた賑わいの中で、大人も子供もクリスマスの雰囲気を楽しんでいます。
コロナの影響なのか、ハンドメイド雑貨などの小さなお店が10店ほどあるのみで、想像していたクリスマスマーケットとは少し違ってこじんまりとしていましたが、マーケットの人達は心温かく、グルーギ(ホットワイン)を飲みつつお店の人と会話をしながら、楽しく和やかな時間を過ごしました。
お店の横には大きな空中ブランコがあり、寒くて凍えそうだというのに子供たちは大きな列を作っていて、その純粋無垢な様子にさらに温かな気持ちになりました。
ヘルシンキからバスでたったの1時間と言うことも忘れてしまうほど、レトロな雰囲気が漂うポルヴォーの街並み。これから雪が積もってきたら、さらにパステルカラーが映えて街全体が絵になるのでしょう。ヨウルトルットゥを食べ、サンタクロースに会い、マーケットを巡る。フィンランドのクリスマスを満喫する小旅行ができました。
さて、夏から始めさせていただいた「フィンランドの風景と音」ですが、今回で一度休載となります。今後もフィンランドの音に耳を傾けて、またいつかこのコラムで、その魅力をお伝え出来ればと思います。LAPUAN KANKURITさんと読者のみなさま、4ヶ月の間、本当にありがとうございました!
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