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Books & Films|ลำพู -Lamphu-

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印象的だった書籍、映画、ドラマなど、タイに関わるものに限らず気まぐれに格納中。
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記事一覧

เข็มซ่อนปลาย -Broach-。東南アジア文学賞受賞作家の小説を元にしたチャンネル7のタイドラマ。1人の男をめぐって2人の女性の確執が深まり、政治や実業界までも巻き込んでいく。人間の欲望と怨嗟を生々しく演出している。怨嗟(แค้น)はタイドラマを読み解くキーワード。

【Essay】タイ語のテキストたちの〈言葉〉※タイ語学習用テキストの紹介つき

溢れきった本棚を整理していると、懐かしいものが出てきた。タイ語のテキストが5冊、待っていたかのように並んでいる。タイ語を学び始めて1、2年のときに使っていたテキストだ。カバーはしっかりしているものの、中身は書き込みでいっぱい。モノとしても、気持ちとしても、売りには出せない。 とりわけ思い入れがあるのは、斉藤スワニーさん・三上直光さんの『中級タイ語総合読本:タイの社会と文化を読む』(白水社)だ。タイの社会、歴史、言語、信仰、文化などのテーマに沿った文章と語彙・文法解説、ダイア

【Essay】他人を知る、自分を知る:Borgen -Power & Glory- を見て

大体、自分の興味の中に自分の影はない。そう思うことがある。 自分にとって大切だと感じた人や、心動かされる何かをその中に感じた人がいるとき、僕はその人のことをより深く知りたいと思う。その人が見てきたものを、自分も見てみたい。その人が感じてきたことを、自分も感じたい。いつしかそのような関心が、当の本人を知るという枠を超えて、自分の中で一人歩きする。初めて自分の興味になる。タイにしろ、何にしろ、自分の関心や自分の世界はそうやって築かれて来たように感じるのだ。 そして、今はコペン

The Murderer เมอร์เด้อเหรอ ฆาตกรรมอิหยังวะ (2023)。タイ東北部が舞台のホラー&コメディー。何も知らなくても面白いけど、タイの社会についてある程度知識があると、社会風刺が垣間見れてより楽しめる。方言難しい。(画像はNetflixより)

【Essay】タイ語の美しいもの

大学のタイ語の授業で、タイ語の金言(วรรคทอง)について学ぶ機会があった。タイ語の金言は、多くの場合は韻文による古典文学から引用されている。母音による押韻に加え、細かい声調の決まりがある、厳格な韻文だ。朗読の際に考慮しなければならない音節の区切り方も存在する。押韻、声調、音節の区切りによって織り成される独特なリズムが、タイ人の耳には美しいものとされる。 これを読んでいる人に、タイ語ができる人が何人いるかはわからない。今回、授業で取り上げられていた「プラ・アパイマニー」と

石井米雄『タイ仏教入門』。タイにおける仏教を、人々の営みや社会との結びつきの観点から紹介しているマスターピース。

黒田一雄・横関裕見子『国際教育開発論:理論と実践』 国際協力の道に憧れていたときに読んでいた本。教育開発から教育社会学に興味が移った今、読み返してみる。どちらかというと実践に重きを置く分野が、理論化重視の比較教育や教育社会学による裏付けを大切にしていることが伝わってくる。良書。

見たことのない海に思いを馳せて〜【私のタイ文学】ラッタウット・ラープチャルーンサップ『ガイジン(Farangs)』〜

考えてみれば不思議なものだ。海が好きな自分は、タイに留学していたときでさえもほとんど海に足を運ばなかった。チェンマイという北の古都<みやこ>に住んでいたことが大きいけれども、プーケットもクラビも、サムイ島もサメット島も、僕は行ったことがない。 ただ、それでも僕はタイの海をありありとイメージできる。永遠に伸びているかのような白い砂浜を、永遠に繰り返すかのように波打つ水際を、永遠に続いているかのような水平線を、そしてその海を永遠かのように見つめている人々を。 *** タイの