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エドガー・アラン・ポー 「モルグ街の殺人」(ネタバレ感想)

※この文章には「モルグ街の殺人」のネタバレが含まれます


ミステリー小説を勉強するにあたって最初に読む作品は、やはりエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」だろう。
理由はもちろん世界初のミステリー小説と呼ばれているからである。
(※このNOTEではチャールズ・ディケンズの『バーナビーラッジ』の方が世界初のミステリー小説だという説は無視するものとする)
(※ディケンズの世界初のミステリー長編の連載中にポーが本作を発表したという理解で合っているだろうか?)

というわけで最初は新潮文庫のポーのミステリーを集めたと言われる短編集を買ってみて読もうとしたのだが、すぐ挫折した。

そうなのだ。そもそも翻訳ミステリーを普段から読まない人間はまず翻訳文に躓くのだ。
何を言っているのか分からないし読んでて情景が浮かんでこないのだ。
(それと、いくら4編では一冊の本としてボリューム不足だからといって「群衆の人」をミステリーと言い張って無理やり短編集にねじ込むのは感心しないぞ)

仕方がない、読めないのならこの企画はこれでおしまい───というわけにはいかない。
ポーの後に読もうとしてる本を50冊近く、この辺境の地に持ち込んでしまっているのだから。

気持ちを切りかえて新たに角川から出てる
『ポー傑作選2 怪奇ミステリー編』を購入した。
新潮文庫の方に較べ、するすると内容が入ってくるのでこちらをベースに感想を述べたい。

「モルグ街の殺人」

アイディア 評価不能
ストーリー ★★★
キャラクター ★★★★
納得度 ★★★★
カタストロフィ★

アイディアは5点満点中100億です。

※採点基準はこちら

ポーの作品をこれまで全く読んだことがないかと聞かれたらそんなことは無く、
以前、平石貴樹の『だれもがポオを愛していた』を読む際にインスパイア元として
「黒猫」「アッシャー家の崩壊」「ベレニス」だけは読んでいた。
前者2つは集英社文庫の『ポケットマスターピース』
残りは創元推理文庫の『ポオ小説全集1』からである。

その時に本作を読まなかったのは何故かと問われたら理由は簡単である。

「今更モルグ街読んでもなぁ〜どうせネタバレ知ってるし。はいはい、オランウータンオランウータン。」

というわけである。

「世界初のミステリー小説の犯人はオランウータン。」
そんな言葉だけが独り歩きして、世界一有名なネタバレとなってしまっているモルグ街の殺人。
ミステリー好きとして目覚めて10年余、ようやく今回読むことになったわけだが──


ポー先生、正直侮ってました本当にすみませんでした❗❗❗❗❗❗❗❗❗


謗りを恐れず言えば、読む前はあまり期待はしてなかったんですよ。
犯人がオランウータンなだけの小説だと見くびってました。

まず物語の構成を見てほしい。

①主人公の『僕』がデュパンと出会う

②デュパンが類まれなる推理力を備えていることを示すエピソードが挟まれる

③密室殺人事件が起きる

④デュパン、知り合いの警視総監のG氏に話をつけて調査に乗り出す

⑤デュパン、『僕』に推理を聞かせる

⑥デュパン、犯人と対峙する

⑦真相が明かされる

お分かりいただけるだろうか。
現代でも通じる『名探偵が出てくる小説の基本的な構成』がこの時点で完成されているのだ。

これまでなんとなくミステリーの一般的なスタイルというのは、ポーが生み出してから長い年月をかけて数多の作家による作品を経由して育まれていったものだと考えていたが最初から完成されていたのだ。ほんとごめん。

まさか “ ワトソン役 ” と呼ばれる役回りがワトソンが生まれる前から存在するとは思わないじゃないですか。

何より驚いたのは本格ミステリとしての完成度も高いのだ


「犯人はオランウータンだったのです!ババーン!!」
ではないのだ。

目撃者の証言、現場の状況、ありとあらゆる描写が伏線として犯人を人間では無い別の生き物だと指し示しているのだ。

【目撃証言の犯人の使う言語が誰も聞き取れていないこと】
【煙突に詰め込まれた遺体を引きずり出すのに大人4、5人がかりでなければ出来なかったこと】
【被害者の髪の毛が房で引きちぎられていること】
等々……。

中でも本格ミステリ読みとして「コイツやってんな??」と感じたのは、
P.22の新聞記事で現場に四千フランの金貨が入った袋が現場で見つかると記載し、
P.26の銀行員の証言で四千フランを引き出したと記載することで、
被害者の所持金が減っていない=金銭目的の強盗では無い。という情報が読者にも推理できるように書いてあることである。

(これは流石に偶然であると思うが、
四千フラン引き出した→金貨の入った袋が見つかるという順番ではなく、金貨の入った袋が見つかる→四千フラン引き出したという順番になっている手掛かりの配置が美しい。)

この企画では各小説の採点基準として「モルグ街の殺人」を真ん中に置こうと何となく考えていたのだがとんでもない。発想も本格ミステリとしての完成度もデュパンと『僕』というキャラクターどれをとっても1級品である。

1841年当時の評価がどうだったかは分からないが、何の予備知識もない状態で本作を読んだ人間の衝撃が凄まじく多くの者に影響を与えたことは想像に難くない。
200年近く経った現代でも語り継がれる、ミステリー小説文化の象徴として相応しい作品であることは間違いないだろう。


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