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次期政権の影響を強く受ける反トラスト法:規制緩和か規制強化か?


 次期政権の行方は、反トラスト法を巡る動きにも影響を与えるものとして注目されています。

 本投稿は、元米司法省の反トラスト部門の副検事であるビル・ベア氏を迎えて行われたCNBCのインタビューを通じ、政権交代の反トラスト施策への影響と今後の展開可能性につい紹介するものです。

 ビル・ベア氏は、政権の行方次第では、現在係争中の反トラスト法事案についても、司法長官や独占禁止法部門のトップの選任などによって、進行中の裁判に影響を与える可能性があるとしています。
 また、トランプ氏の当選では反トラスト法の執行は緩和方向に向かう他、FTCやDOJの人事も大きく動く可能性があるとし、また、ハリス氏当選の場合は、過去の彼女の司法長官時代の経験から規制強化の方向に向かうとの見通しを示しています。 以下、ご参考下さい。


[主なサブテーマ]

・進行中の事案(例:Google)の行方に対する影響
・DOJ反トラスト部門やFTCにおける規制緩和が進む可能性
・もしくは、逆に規制強化に向かう可能性
・FTCのリナ・カーンやその他の重要ポストの人事
・DOJとFTCの権限統合の議論について

ビル・ベアー氏のプロファイル
 ビル・ベアー(Bill Baer)氏は、米国の弁護士であり、特に反トラスト法の専門家として知られています。オバマ政権下で司法省の反トラスト部門の副検事を務め、反トラスト法の執行に関する政策を指導しました。彼は、反トラスト法の理論や実務についての著名な専門家であり、彼の意見や分析は、特にテクノロジー企業に対する規制や反トラスト法の執行において広く引用されています。





1. インタビュー 


[デビッド・フェイバー](CNBC)
 あの歴史的なマイクロソフトの反トラスト法裁判から25年が経ちました。そして今、再びテクノロジー規制が注目を集めています。Googleも、反トラスト法違反の疑いで司法省からの厳しい目を向けられているだけでなく、裁判によってそれが違法であるとの判決がでたところです。もっとも、実際の是正措置が決定するまではまだ時間が必要となりますが。
 ここで注目すべき点として、政権が交代すれば、反トラスト法の執行に大きな変化が生じるかもしれないとの見解を示しているのが、次のゲスト、元司法省の反トラスト部門の責任者、ビル・ベア氏です。

 トランプ氏が再び当選した場合、アルファベットに対する訴訟を含む現在進行中の裁判や全体的な反トラスト法の執行にどのような影響があるとお考えですか?


[ビル・ベアー](元米国司法省反トラスト部門副長官)
 歴史的な前例は多くありませんが、マイクロソフト事件の和解が成立したのはちょうど20〜23年前のことです。これはジョージ・W・ブッシュ政権が就任直後に交渉が行われました。
 当時、裁判所は司法省の理論を支持し、マイクロソフトが不正行為を行い、相応の救済措置を受けるべきだとの判決を行っていました。しかし多くの経済学者や専門家によれば、その事案はオペレーティングシステム市場の競争環境にはほとんど影響を与えることはなかったとされています。
 ですので、トランプ氏が就任すれば、新たな指導者を任命し、Googleの事案や司法省で進行中の他の裁判にも影響を与える可能性があるでしょう。人事が政策を決めると言われるように、司法長官や反トラスト法部門のトップの選任は非常に重要な意味を持つことになります。

・大統領には司法省の新しい司法長官を任命する権限がある
・大統領は司法省に対し訴訟の取り下げや調査の停止を指示できる
・連邦取引委員会の独立性により、大統領の権限は制限されている


[デビッド・フェイバー](CNBC)
 一般的に言われていることですが、もしトランプ氏が大統領に就任すれば、企業合併に対する姿勢が柔軟になると見られています。具体的に反対に直面しそうな案件もあるかもしれませんが、全体的に見てどうお考えでしょうか?リナ・カーン氏や司法省の執行部長も退任することになるでしょうし、企業の統合に対しては、より寛容な見方がされるとの見方もあります。
 

[ビル・ベアー](元米国司法省反トラスト部門副長官)
 まず、リナ・カーン氏についてですが、必ずしも退任するとは限りません。彼女の任期は終了しましたが、FTC(連邦取引委員会)に留まる権利はあります。必ずしも委員長としてではないにせよ、後任が上院で承認されるまでは在任できるのです。これにどの程度の時間がかかるかは分かりませんが、共和党の現職委員が次期委員長に指名される可能性は十分にあります。また、トランプ氏が具体的にどうするかは不明ですが、トランプ氏の「Project 2025」によると、政府機関の大幅な人員削減、FTCや司法省の反トラスト法部門も含む人事刷新が計画されています。そのため、合併審査に対してより寛容で開かれた政策への変化が起こる可能性は大いにあります。
 

[サラ・アイゼン](CNBC)
 イーロン・マスク氏がトランプ政権に加わり、“ドージコイン“と共に効率化を図るという話も出ています。そこで、効率化の観点から、なぜ司法省の反トラスト法部門とFTCが両方存在するのかという点も考え直す余地があるのではないかと思うのですが、官僚的な手続きを簡略化できる余地はあるでしょうか?


[ビル・ベアー](元米国司法省反トラスト部門副長官)
 この状況は歴史的な特殊事情によるもので、反トラスト法の管轄を複数の機関で共同運用している国は米国以外にはほとんどありません。これまでの専門家の意見では、統合に向けたプロセスはあまりにも時間と効率を要するため現実的ではないとされています。現在の体制では、FTCと司法省の反トラスト法部門は役割を分担しており、互いの業務を重複させてはいません。例えば、合併審査はFTCか司法省の反トラスト法部門のいずれかが担当し、必要に応じて異議を申し立てます。活動の重複がないため、統合の動きが起こる可能性は低いと思いますが、トランプ氏が選ばれた場合、予測を超えたことも起こり得るでしょう。
 

[デビッド・フェイバー](CNBC)
 もしハリス副大統領が当選した場合、基本的には今の路線が続くと考えられています。ただ、ウォール街の一部からは、彼女がリナ・カーン氏や司法省の指導者を段階的に交代させる可能性もあると聞いています。その点について、何か耳にしていることはありますか?
 

[ビル・ベアー](元米国司法省反トラスト部門副長官)
 確かに、大口の寄付者やウォール街の友人たちから、そのような期待を表明する声を聞くことはありますが、特に短期的な指導者の交代はあまり現実的ではないと思います。ハリス氏の主張の一部には、競争の重要性や価格のつり上げへの懸念、そして企業の統合が問題だという考えが含まれています。彼女がカリフォルニア州の司法長官で、私が司法省の反トラスト法部門の次官補を務めていたときには、彼女は特に病院や医療分野での統合に対して厳格な姿勢を示し、いくつかの訴訟を起しました。また、2008~2009年の金融危機の際にも、ウォール街に対し、特にモーゲージ担保証券の問題に果敢に取り組んだリーダーでした。
 ですので、経済政策に関してはバイデン政権と同様のアプローチが、ハリス氏の影響のもとで続く可能性が高いと考えています。
 

[デビッド・フェイバー](CNBC)
 ビル、ご協力ありがとうございました。
 
 



2. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

CNBCより
(Original Published date : 2024/11/06 EST)

[出演]
  ビル・ベアー(Bill Baer)
  元米国司法省反トラスト部門副検事

  CNBC
    デビッド・フェイバー(David Faber)
    サラ・アイゼン(Sara Eisen)




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だうじょん


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