財政悪化を織り込み始めた債券市場:注視すべきは雇用率(9/23:ローゼンバーグ)
ロゼンバーグ・リサーチのデビッド・ロゼンバーグ氏を招き、米国経済に対する金利引き下げの影響と今後の見通しをテーマとした現地9月23日に収録されたBloombergのインタビュー・コンテンツを紹介します。
利下げ決定直後の債券利回り上昇の要因や今後見込まれる財政刺激策による財政赤字、金利引き下げ効果の時間的ラグや労働市場における本来的なリスクなどについて協議されています。以下はトピックスです。
債券利回り:今後の財政赤字拡大や追加刺激策の影響を市場が織り込み始めている可能性
財政刺激策:過剰な財政刺激策は、短期景気に寄与するものの、金利政策を複雑化させ、長期的にインフレ圧力を再燃させる可能性
労働市場リスク:注視すべきは、低い失業率や退職率よりもここ6~12か月間で急激に低下している雇用率
金利政策のラグ効果:金利引き下げの効果にはラグがあり、今回の利下げの効果が経済浸透するのは2026年以降
ご参考下さい。
(1)インタビュー
[デビッド・ロゼンバーグ](ロゼンバーグ・リサーチ)
最近の債券市場は、ある種のシグナルを出し始めているかもしれません。たとえば、FRBが大幅な利下げを実施したにもかかわらず、FOMC後に10年物米国債の利回りが少なくとも10ベーシスポイント上昇しています。これは珍しい動きです。本来であれば、固定利付債券が買われて利回りが下がるはずなのに、逆に売られてしまいました。さらに、トランプ氏とハリス氏の両者が、特にハリス氏が、さらに経済政策を打ち出そうとしているのも注目すべき点です。この経済政策は、言わば有権者に向けた「更なるキャンディの贈り物」のようなもので、票を獲得するための施策です。
債券市場は、こうした経済刺激策が財政赤字にどのような影響を与えるのかを計算し始める可能性があります。また、インフレの抑制に向けた取り組みが進んでいる中で、両候補が打ち出す財政刺激策が、FRBによる利下げの動きにどのような影響を与えるかも懸念されるところです。刺激策がインフレ抑制を難しくする可能性があるため、これがFRBの政策にどう絡むことになるのかが注目されます。
[ケイティ・グライフールド](Bloomberg)
アメリカ人は、経済状況に基づいて投票する傾向がますます強くなっていますので、経済について、特に労働市場について話したいと思います。今朝、すでにFRB関係者からの発言があり、カシュカリ氏は、今年中にさらに0.5ポイントの利下げを支持していると述べています。彼の主張は、リスクのバランスがインフレから労働市場へとシフトしているというものです。また、ラファエル・ボスティック氏も、先週行われた大幅な利下げが労働市場を今後も支えるだろうと述べています。
明らかに、FRBのメンバーは労働市場の弱さを懸念していますが、これに対してどのようなリスク・バランスを見ていますか?
[デビッド・ロゼンバーグ](ロゼンバーグ・リサーチ)
労働市場がインフレよりも大きなリスクとなっているという点には、私も完全に同意します。インフレは完全に消えたわけではありませんが、今は落ち着いている状況です。そして、労働市場に関しては、すべての先行指標が悪化していることを示しています。マクロ経済に強気な人たちは、初回の失業保険申請件数が依然として低水準であることだけに注目しています。確かに、解雇や退職は依然として非常に低い水準です。しかし、FRBが注目しているのは、労働市場の真の先行指標である「雇用率」と「採用活動」だと思います。
雇用率は急激に低下しており、もし経済がさらに悪化すれば、非農業部門雇用者数がマイナスになる可能性が出てきます。現時点では解雇率が低いため、そのような状況にはなっていませんが、企業は依然として労働力を抱え込んでいます。しかし、この6~12か月間で急激に雇用率が低下している点が、FRBの注目を集めているのだと思います。
[ソナリ・バサク](Bloomberg)
これらの「出口戦略」がどれほど不安定になるかについてどうお考えですか?FRBのサイクルや金利を引き下げる能力を考えると、実際に金利を下げた後、実体経済に影響が出るまでにはタイムラグがあることも認識しておく必要があります。この点を踏まえて、来年の雇用や成長に関してどれほど不安定な状況が予想されますか?
[デビッド・ロゼンバーグ](ロゼンバーグ・リサーチ)
そうですね、あなたは、FRBがインフレ対策に忙殺されていたになっていた引き起こしたすべてのダメージのラグ(遅延影響)が今後、少なくとも6か月間、おそらく12か月の間に経済に影響を与えることになる、とかなり正確に指摘していました。
FRBが金利引き下げに踏み切ったことで、誰もが興奮していますが、それが経済に本当に良い影響を与えるのは2026年になるかもしれません。そして2025年は、ボルカー時代のように利上げが経済に浸透するまでの遅れが続く年となるでしょう。
その最たる例が、バーナンキとグリーンスパンの下でのFRBです。彼らは、パウエルが率いるFRBが今サイクルで行ったのと同じように金利を引き上げました。そして突然、すべてを停止しました。2006年の夏から2007年にかけて、何も崩壊する兆候は見られませんでした。2008年までソフトランディングの物語が続きました。しかし、FRBは先手を打っているつもりだったことを覚えておいてください。つまり、FRBは2007年の夏と秋に初めて金利引き下げに着手したのです。
そうなんです、あれはベア・スターンズやリーマンの崩壊よりもずっと前の話でした。みんな、2007年の夏から秋にかけてFRBが金利を引き下げたので、2008年にはほっと一息つけるだろうと思っていましたよね。実際、リーマンが倒産する直前まで「ソフトランディング」の期待が広がっていて、今聞こえているのと同じような話がありました。しかし2008年に起きたのは、2005年や2006年にFRBが行った政策の遅れた影響が、経済や市場にさまざまな形で現れたことでした。誰もそんなことが起こるとは予想していませんでした。
その後、FRBは急激に金利を引き下げ、量的緩和に乗り出しましたが、経済が本格的に回復し始めたのは2009年後半から2010年にかけてでした。
これがサイクルの流れです。金利は先行指標ですが、長い遅れを伴って作用します。今回は、財政刺激策が影響を与えたことで、その遅れが非常に長くなりましたが、それはもう過去の話です。遅れは、上昇時にも下降時にも作用すると思います。そして、これから多くの人が「FRBは後手に回っていない」と言うでしょうが、実際のところ、長期金利曲線は長い間、FRBが経済の動きに遅れていることを示していました。皆が注目している一致指数にはまだ表れていませんが、先行指標は確実に、来年が経済にとって非常に厳しい年になることを示しています。
[マット・ミラー](Bloomberg)
2025年のことを考えると、もし今の時点で雇用が減少し始めているなら、ちょうどアメリカが国境管理や移民規制を強化している時期に重なりますよね。その状況下で労働市場が引き締まっていく一方で、FRBが金利を引き下げているとすれば、インフレが再び勢いを増す可能性はあるのではないでしょうか?特に、もしトランプ大統領がホワイトハウスに戻り、関税を導入したり、移民や労働者を追い出したり、さらに減税を続けるような政策を取るとしたら、そのリスクはさらに高まるかもしれませんね。
[デビッド・ロゼンバーグ](ロゼンバーグ・リサーチ)
そうですね。2016年にトランプ氏が初めて当選したときも、同じような話をよく耳にしました。関税については、今回は以前よりもさらに強化されたプランが打ち出されています。移民については、最初の4年間で移民に対する壁が構築され、人々の関心を集めました。結果として、コロナ以前の失業率は約3.5%にまで下がり、大きな賃金のスパイラルやインフレのスパイラルは起きませんでした。このことから分かるのは、賃金やインフレへの影響を予測する際に、移民が重要ではないと言っているわけではないですが、そうした予測モデルには他にも多くの要素が関わっているということです。
そして、移民規制を強化すれば労働供給が縮小するのは間違いありません。しかし、今アメリカの労働市場により大きな影響を与えているのは、企業が急速に採用を減らしていることです。現在の採用率は3.5%で、これはCOVID以前よりも低いだけでなく、過去30年の景気後退時期と比べても低い水準です。この点は、今話している移民や労働市場の制約とは無関係です。確かに労働供給は縮小するでしょうが、その供給縮小以上に重要なのは、労働需要がさらに早いペースで減少しているということです。これがすでに起きているため、賃金の伸びも鈍化し始めているのです。
(2)オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/09/23 EST)
以上です。
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だうじょん
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