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米国大統領が経済に与える影響:政策への期待と制約、そして大統領令


 ここまでの米大統領選挙および議会選挙の結果は、大統領と上院・下院のいずれも共和党が過半数を獲得し、いわゆる「レッド・スウィープ」となりました。これにより、少なくとも次回の議会選挙までの2年間は、ねじれが解消され、共和党色の強い政策運営が行われる見通しが濃厚となりました。(すみません。早とちりしましたので修正いれました)大統領がドナルド・トランプ前大統領が勝利、上院議会は過半数が共和党となり、残る下院選挙の結果待ちという状況となりました。
 今回の大統領選挙において、多くの有権者は選挙結果が自分たちの生活に大きな経済的影響をもたらすと考えていました。それでは、今回の結果を受けて発足する共和党政権は、具体的にどのような経済的影響を直接的にもたらすことができるのでしょうか。

 この投稿は、経済を対象として大統領が行使できる権限やその範囲について、簡易に説明するCNBCのプログラムを参考訳にてお伝えするものです。
また、CNBCのコンテンツの中では、さほど触れられていない大統領の特権ともいえる「大統領」(Presidential Order)については、「4. 大統領について」で情報補足しています。ご参考下さい。

[主なサブテーマ]

  • 大統領と経済施策の関係

  • 政策立案者にとっての経済施策

  • 大統領の影響力とその限界

  • 大統領への期待と生活者心理

  • 大統領令の存在と在り方について



1. イントロダクション


アメリカ大統領が経済に与える影響


アメリカ人の50%が、2024年大統領選挙の結果が自分の個人財政に直接影響を及ぼすと考えています。また、有権者の約99%が、経済が次期大統領を選ぶ際の重要な要素であると答えています。
 

米国の登録有権者における投票決定に対する経済の重要性
(非常に重要: 52%、とても重要: 38%、やや重要: 9%、重要でない: 1%)


有権者は間違いなく、経済を大統領の評価基準にしています。日々の生活の中で、銀行口座の残高や食料品の支出など、身近に経済を実感する機会が多いからです。そして「一体、誰がこのことを左右しているのか?」と自然に考えるようになります。結果として、人々は大統領をまるでカーテンの裏でレバーを操作する経済の魔術師のように感じてしまうことがあるのです。しかし現実には、大統領はむしろルーレットの球のような存在で、自分の任期がうまくいくように必死に祈っているような存在なのです。

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


では、米国大統領は実際に経済にどれほどの影響力を持っているのでしょうか?



2. 影響の範囲


影響の範囲


私たちの社会には、政治家たちが先頭に立って大統領の権力を誇張する傾向があります。そして、それは選挙キャンペーンに参加する人々によって助長されています。「問題があるのであれば、私が解決します」という具合です。

マーク・ハムリック(バンクレート)


政策立案者が経済に影響を与えるための主な手段には、金融政策と財政政策の二つがあります。

金融政策、財政政策


金融政策は、政府が経済の過熱を防いだり、逆に冷え込みすぎるのを防いだりするための重要な手段です。理想的な、低失業率と低インフレ率のバランスを見つけることを目指しています。
この政策は、主に金利、つまりお金を借りるためのコストに関係しています。たとえば、金利が上がると、人々は貯蓄を増やし、購入や大きなローンの借り入れを控えるようになります。こうしてインフレが高いときには、経済の過熱を抑える効果が期待されるのです。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


ただし、金融政策の権限は意図的に連邦準備制度(FRB)に委ねられており、アメリカ大統領の権限には含まれていません。
 

金融政策は中央銀行の専管事項であり、米国には政治的に独立した連邦準備制度があります。中央銀行の運営に現職の政治家が関与しないほうが、その効果は高まることがデータと歴史に示されています。 

マーク・ハムリック(バンクレート)


大統領が高金利を望むことはほぼ考えられないですよね?金利が上がれば、クレジットカードの利率や連邦政府の債務にかかる支出、学生ローンの返済額、住宅購入のための住宅ローン金利にも影響を与えます。多くの人が金利は低いほうが良いと考えています。しかし、連邦準備制度にはこの金利を決定する権限があり、たとえ誰も高金利を望まなくても、金利を高めることが他の問題を防ぐ最良の政策である場合もあるのです。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


しかし、大統領には連邦準備制度や連邦取引委員会などの機関のトップを指名する機会があります。この任命には上院の承認が必要ですが、指名されたリーダーたちは経済に大きな影響を与える重要な決定を行います。
 

確かに、大統領の存在の影響が伺えることもあります。理論的には、任命された人々は大統領と似たイデオロギーを持っているはずですから、そもそも大統領が彼らを選んだ理由もそこにあります。そのため、大統領のイデオロギーが影響を及ぼしていると考えられるのです。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


大統領は、財政政策、つまり政府の収支に関してはより大きな影響力を持つ可能性があります。しかし、最終的には議会の承認がなければ、大統領だけでは多くを実現することはできません。
 

大統領がいくら自身の計画について語っても、実際に連邦支出を実行するには、議会が許可を与える必要があります。大統領には、連邦支出を伴うプログラムを提案し、それを実行する権限はありません。憲法上、支出は議会の承認が必須であり、そのうえで大統領が最終的に承認する流れになっています。 

マーク・ハムリック(バンクレート)


大統領と議会が対立している場合、大統領の役割はさらに限定的になります。
 

大統領が就任した後や任期の途中で、例えば2年後に議会の過半数を占める政党が交代したとしましょう。その場合、大統領が何を望んでも、議会を通らなければ実現しません。議会が大統領の政策に反対すれば、何も可決されないのです。

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)

 

政策以外にもさまざまな要因があり、大統領が思い通りに経済を動かすのは難しいのです。
 

アメリカ経済は巨大なタンカーのようなもので、その規模と速度による大きな慣性があるため、大統領は簡単に操縦することはできません。 

マーク・ハムリック(バンクレート)


鉱物や石油の供給網、石油価格、戦争やパンデミックなど、世界経済で起こっている出来事は、アメリカ経済にも大きな影響を与える可能性があります。しかし、これらは大統領の直接的な管理の及ばないものです。
それに加えて、アメリカ国内の各州も、それぞれの税政策や失業保険などに関して独自の影響力を持っています。大統領は各州で行われていることの多くをコントロールできませんが、各州の動向が全体の国民経済に大きな影響を及ぼすこともあります。

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)



3. 大統領の権限


大統領の権限


大統領の経済への影響力はゼロではありませんが、それは状況に大きく左右され、さらに即効性があるとは限りません。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


危機の時には、大統領の役割がより重要になることがあります。
 

大統領の権限が最も重要になるのは、国が明確な危機に直面しているときだと思います。 

マーク・ハムリック(バンクレート)


たとえば、2008年にはブッシュ大統領が「不良資産買い取りプログラム」(TARP:Troubled Asset Relief Program)を法制化しました。 
その翌年、まだリーマンショックの影響が続く中で、オバマ大統領が就任し、2009年の景気刺激策である「アメリカ再生・再投資法」(ARRA:American Recovery and Reinvestment Act of 2009)を議会の承認を得て署名しました。 
これらは、経済が急落するのを防ぐための大型支出法案でした。このような特別な局面では、大統領が影響力を持つことができます。仮にブッシュ大統領やオバマ大統領がこれらの法案に署名しなかったとしたら、非常に恐ろしい結果を招いた可能性があると、多くの経済学者が指摘するでしょう。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


大統領は、議会の関与なしに特別な政策や施策を打ち出せる範囲、いわばガードレールを見極めることができます。優れた顧問がいれば、どこで大統領令を活用できるか、あるいは議会の承認を得ずに動ける範囲を把握するでしょう。しかし、それはあくまで特別な状況に限られます。 

マーク・ハムリック(バンクレート)


大統領は、貿易協定の交渉や経済制裁、関税の導入にも大きな役割を果たしており、これらは経済により直接的な影響を与えることができます。
 

理論的には、大統領が極端な措置を取れば大きな影響を及ぼす可能性があります。例えば、特定の国からの輸入品に対して100%の関税を課すようなことをすれば、消費者が購入する製品や、米国内の企業が必要とする原材料に直接影響を与えるでしょう。ただ、実際には大統領がそのような極端な措置を取ることはほとんどありません。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


専門家は、選挙の結果が消費者心理にも影響を与える可能性があると指摘しています。
 

現代のように分極化が進む時代では、次期大統領によっては、消費者が将来支出や投資の行動を変えるのではないか、という疑問が浮上します。たとえば、ある人が「共和党の大統領の方がビジネスに有利」と信じていれば、その大統領が就任するまで投資を控え、経済に安心感を得られるまで待つかもしれません。このようにして、消費者が政権に応じて行動を変え、それが経済に影響を及ぼす可能性について関心が寄せられ、研究対象にもなっています。 
有権者が大統領に対して現実的な期待を持つことはとても重要です。もし、大統領が魔法の杖を振れば経済が素晴らしくなり、数か月で全てが好転するといった考えを抱いているとすれば、それは一種の幻想といえます。 

ジョン・ケイン(ニューヨーク大学)


大統領職の重要性は計り知れませんが、大統領が行使できる権限について過大評価してしまうことがあります。それが問題なのです。

マーク・ハムリック(バンクレート)



4. 大統領令について


 「大統領令」(Presidential Orders)とは、米国の大統領が行政機関に直接指示を出すために発行する命令です。大統領令には法的拘束力があり、特定の政策実施を迅速に進めるために使うことができ、議会の承認を得る必要がありません。そのため、議会を通さずに政策を進められる点で、大統領にとっての強力なツールとなっています。
 尚、大統領令を発令するにあたっての明確な基準は、アメリカ合衆国憲法や法律の中に厳密に定められておらず、いくつかの一般的な枠組みや制約、そして司法審査の枠組みが存在しているとされています。
 

(1)大統領令発令にあたっての基準や制約

  1. 憲法の範囲内であること:大統領令は、米国憲法が大統領に与える権限の範囲内でのみ発行が可能。大統領の権限が制限されている分野(例えば、予算権や立法権など)に関しては、議会の承認が必要となる。

  2. 既存の法律に基づくこと:多くの大統領令は、すでに存在する法律の執行に関して具体的な指示を出す形で発行される。たとえば、労働法や移民法に基づき、それをどのように運用するかを指示する際に用いられる。

  3. 行政の管理・指示に関するもの:大統領令は行政機関への指示として発行されるものであり、通常は行政管理や政策の実施方法についての指示に限定される。例えば、連邦機関の運営方針の変更や予算の割り当てに関する指示など。

  4. 国家の安全や緊急事態に対応するもの:国家安全保障や緊急事態において、迅速に対応する必要がある場合に発行。戦争や災害、テロの脅威に対する対応として、議会の承認を待たずに迅速に発令すべきケースなど。


(2)大統領令の司法審査

 大統領令が憲法や法律に違反すると見なされる場合、連邦裁判所がその合憲性を判断することができる。
 過去には、裁判所が一部の大統領令を無効とした例もあり、例として、トランプ大統領の入国禁止令(Executive Order 13769)の一部は、憲法違反の疑いで裁判所により一時的に停止された。
 

(3)過去の大統領発令(例)

 大統領令は内政や外交の重要な局面で発行されており、以下はその代表的な例です。これらの発令は、次の政権が撤回したり改正したりすることが可能です。 

  1. Emancipation Proclamation(奴隷解放宣言): 1863年にエイブラハム・リンカーン大統領が発行。南北戦争中に南部諸州での奴隷制度を廃止し、奴隷解放の道を切り開いたもの。

  2.  Executive Order 9066: 1942年、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が発行。第二次世界大戦中、日本人を含む特定の民族グループのアメリカ人に対して強制収容所への移送を命じたもの。

  3.  Executive Order 13769("Muslim Ban"): 2017年、ドナルド・トランプ大統領が発行。特定のイスラム教徒多数の国からの入国を制限する命令




2. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

CNBCより
(Original Published date : 2024/11/06 EST)

[出演]
  ニューヨーク大学
    ジョン・ケイン(John Kane)
    政治学 臨床准教授

  バンクレート
    マーク・ハムリック(Mark Hamrick)
    上級経済アナリスト



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だうじょん


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