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2024年の振り返りと2025年の展望:ジェレミー・シーゲル教授


 ウォートン・スクールのジェレミー・シーゲル名誉教授のインタビュー・プログラムを紹介します。ジェレミー・シーゲル教授といえば、FRBの金融政策が後手に回っているとしてFRBに対する厳しい意見をいつも発信しているイメージがありますが、このインタビューでは、「2024年の株式市場は素晴らしい年だった」と評しており、彼にとっても大変満足のいく市場であったことが推測されます。

 ここでは、2024年の経済状況を振り返り、2025年の市場と経済の見通しについて語っており、来年はより穏やかな市場成長を予測しています。サブテーマとしては、以下を対象として見解を示されています。ご参考下さい。

  • 2024年の市場振り返り

  • 2025年の市場見通し

  • 経済政策と金利の影響

  • 地政学的リスク

  • サイバーセキュリティと電力問題


※ このオリジナルコンテンツがYoutubeに公開されたのは、12/29(EST)ですが、その内容からすると、このインタビューの収録日は、12/18のFOMCの開催よりも前のタイミングで収録されたものと思われます。






1. インタビュー


[ダン・ローニー](ウォートン・スクール)
 
2024年も終わりに近づく中で、市場はかなり好調だったようです。その理由のひとつには、次期大統領のドナルド・トランプ氏による規制緩和姿勢への期待にあるかもしれません。また、それだけではなく、労働市場やインフレ動向、FRBの金利引き下げ政策など、注視すべき要因がたくさんありました。
 ウォートン・スクールの名誉教授でファイナンスの専門家であるジェレミー・シーゲル氏に、今年1年を振り返って語っていただきます。 ジェレミー、お元気ですか?


[ジェレミー・シーゲル](ウォートン・スクール名誉教授)
 ええ元気ですよ。ダン。


[ダン・ローニー]
 いつも年末にお話しできるのは本当に嬉しいです。一年を振り返り、来年について考えるのは楽しいものです。2024年の市場や金融全般について、どのように見られていますか?
 

[ジェレミー・シーゲル]
 今年は本当に素晴らしい株式市場の1年でしたね。私自身の期待を超える結果となり、2023年に続いて、さらに20%以上の上昇を記録しました。ただ、来年はもう少し穏やかな動きになるのではないかと思っています。私の見立てでは、株式市場の上昇はゼロから10%程度の範囲に収まる可能性が高いです。特に、これまで非常に好調だったテクノロジー分野は少し落ち着く(cool-off)かもしれません。素晴らしいパフォーマンスを見せてきましたが、その勢いが来年も続くかどうかは確信が持てません。
 もちろん、この見方に全てを賭けるつもりはありません。というのも、トレンドは非常に強力で、ストーリーとしても依然として力を持っています。テクノロジーセクターは依然として他の分野を上回っており、AIも引き続き注目されています。ただし、競争が激化する可能性や成長のペースがやや鈍化するリスクも来年には出てくるのではないかと考えています。
 

[ダン・ローニー]
 来年のリターンが少し低くなるかもしれないとおっしゃいましたが、どのような要因が関係していると思われますか?
 

[ジェレミー・シーゲル]
 いくつか注目すべきポイントがあると思います。まず、AIが本当に人々の期待どおり、急速に採用されているのか、という点です。一部の企業では、結果に対してやや期待外れだったとの報道もあります。それから、NVIDIAのBlackwellチップに対する競争相手の話もありますよね。また、中国からの反発も見られます。
 さらに、これらすべての背景には、次期大統領のトランプ氏による関税や移民政策の大きな不確実性が絡んでいます。このように、多くの要因が来年の市場に影響を与える可能性があります。
 

[ダン・ローニー]
 規制緩和についてお伺いしたいのですが、これは多くの企業が注目している分野ですね。今後、規制が大幅に緩和され、企業が必要とする動きをしやすくなるのではないか、という期待感があるように感じます。
 

[ジェレミー・シーゲル]
 そうですね。最近、全米独立企業連盟(NFIB:National Federation of Independent Business)の景況感指数が発表されました。この指数について過去を振り返ると、8年前、トランプ氏が当選した直後に歴史的な大幅上昇が2回記録されており、それは、この指数における過去最大級の上昇でした。この指数が示すのは、小規模事業者や独立系、中規模の事業者が規制の負担を懸念している一方で、当時は非常に楽観的な見方をしていたということです。特にトランプ氏の最初の任期中には、多くの規制緩和が行われました。
 バイデン政権下でどの程度その規制が再び厳しくなったのかについて、はっきりとしたことは言えませんが、小規模な事業者たちの間では、「トランプ政権1期目のときは状況がかなり良かった」と感じている人が多いようです。そのため、2025年や2026年にも同じような状況を期待しているという声が聞かれます。


[ダン・ローニー]
 関税について言及されましたが、これは重要なポイントですね。トランプ大統領は、カナダ、メキシコ、中国に対する関税の可能性についてすでに発言しています。これが交渉の手段として使われるのか、それとも本当に実行するつもりなのか、誰もが気になっているところだと思いますが、あなたもその点を注視しているのではないでしょうか?
 

[ジェレミー・シーゲル]
 まず、これは交渉の道具として始まる可能性が高いと思います。ただし、貿易関税や移民政策に関して言えることは、結局のところ誰にも確かなことは分からないということです。実際、先週ジェローム・パウエル氏へのFOMCに関するインタビューがありました。その中で同様の質問がされたのですが、彼も「現時点では事前に行動を起こすことはない」と答えており、実際の関税や移民政策がどうなるかについては未知数だと述べています。現状では、完全に様子を見る段階だと言えます。
 ただし、トランプ氏の1期目の経験を振り返ると、彼は関税を脅しの手段として用い、実際に一部の関税を導入しました。その多くはご存じの通り、バイデン政権下でも維持されました。このことからも分かるように、関税は主に交渉の道具として機能していたと考えられます。彼は、非常に強い立場で交渉を始め、そこから妥協を進めていく手法を好むと言えます。
 また、彼はインフレへの影響や事業への影響を十分に認識しているはずです。特に、彼は歴代の大統領の中でも最も株式市場を重視する姿勢を見せてきた人物であり、自身の政権の成功を株価のパフォーマンスの一つの指標として測っています。そのため、金融市場の反応は非常に重要になります。仮に市場が彼の政策に否定的な反応を示せば、その影響は無視できないでしょう。
 もちろん、一部の政策が特定の企業に不利益を与え、他の企業に利益をもたらすことはあるでしょう。ただし、経済全体に大きな悪影響を与えるような政策を推し進める可能性は低いと思われます。それは、その影響が即座に株式市場に反映されるためです。
 

[ダン・ローニー]
 今年、ダウ平均株価が4万ドルを突破し、今月はNASDAQが2万ドルを超えました。このような環境の中で、落ち着く(cool-off)という表現を使われましたが、これは調整というより、ここ2年間の勢いが少し落ち着く程度のことを指しているのでしょうか?
 

[ジェレミー・シーゲル]
 そうですね、それが私の中央値の予測です。ただし、皆さんもご存じの通り、株式市場の年間リターンには、標準誤差があり、その幅は20%とされています。つまり、20%上昇する可能性もあれば、20%下落する可能性もあり、あるいはゼロ、10%上昇、10%下落といった具合で、それ以上極端な動きになることも考えられます。1年単位で予測するのは非常に難しいです。ただ、市場全体のバリュエーションがやや高めであることを考慮すると、過剰だとは思いませんが、慎重になる必要があると感じます。特に、テクノロジー企業、いわゆる、マグニフィセントセブンは、25~30%という高い収益成長を実現しており、非常に優れた成果を上げています。ただし、これら企業は市場全体の約3分の1を占めているに過ぎません。
 2025年には、株価が全体的に落ち着いて横ばいになる可能性があると考えています。そうなると、残りの493銘柄に活躍の場が広がるかもしれません。これらの銘柄は、現在のPERが18から20倍と、より合理的な水準で取引されています。中小型株に至っては、それ以下の水準となっています。一方で、S&P全体としては、現在22倍の収益率で取引されています。2000年にはさらに高かったことを考えると、PERの均衡点は20倍程度だと考えられます。そのため、現在の水準は均衡点の範囲内に収まっているといえます。しかし、全体的な評価が、それらすべてのハイテク株を含む市場全体を加速させるとは言えないのは明らかなことです。
 

[ダン・ローニー] 
 少し話題を変えて、年末に向けて数回利下げを行ったFRBについてお伺いします。2025年の見通しについては、どのようにお考えですか?
 

[ジェレミー・シーゲル]
 12月18日のFOMCで利下げを行うと考えています。ただし、それは「タカ派的な利下げ」になるでしょう。つまり、利下げを行った後で、一旦停止し、新しいトランプ政権の不確実性の解消やインフレの方向性を見極めると述べる可能性が高いです。1月に再度の利下げがあるとは予測していません。むしろ、次の利下げがある場合でも、金利は約4.25%前後に下がると考えています。来年は、ほんの数ベーシスポイントの利下げにとどまると見込んでおり、FF金利はおそらく3.5%から3.75%の間に収まると予測しています。この水準は、FRBが長期的に想定している見通しを大きく上回り、9月のFOMC会合で示された推定値よりも高いものとなります。
 

[ダン・ローニー]
 確かに、予測では目標金利が3%から3.25%、あるいはそれより少し低い水準になるとされていましたね。
 

[ジェレミー・シーゲル]
 9月時点で、FRBが示した長期的な金利の見通しは2.9%でしたが、12月18日の会合ではこれを3%か3.1%に引き上げると予測しています。ただし、FRBは時折、対応がやや遅れることがあり、私個人の見解では、2%のインフレを前提としたRスター(自然利子率)は、経済への刺激策や財政赤字、不確実性を考慮すると、実際には3.5%から4%の間にあると考えています。これは、FRBが9月に示した見通しよりも60から100ベーシスポイント高い水準になります。
 また長期金利について考えると、金利構造の正常化に向かう場合、FRBのパウエル議長が再調整(recalibration)と呼ぶプロセスを念頭に置くべきです。通常の状況下では、長期金利は短期金利を上回ります。景気後退期でない限り、この差は通常100から150ベーシスポイント程度です。したがって、FF金利が3.5%にしか下がらないとすると、10年債の金利は4.5%から5%、あるいはそれ以上で推移する可能性があります。これは現在の水準よりも明らかに高い値です。


[ダン・ローニー]
 地政学的な要素についても触れられましたが、これも重要な要因だと思います。ウクライナでの出来事だけでなく、中東での状況や中国に関する懸念もあります。これらすべてが、今後12~18か月を見据える上で考慮されるべき点だと思いますか。
 

[ジェレミー・シーゲル]
 その通りです。関税政策や移民政策に加えて、協定を結ぶ潜在的な可能性もあります。トランプ大統領は、ウクライナとガザについて直ちに交渉に入ると発言しています。また、特に中東でシリアに関連して起こった出来事を踏まえると、両地域での問題についての合意にふさわしいタイミングを作り出すかもしれません。これが実現すれば、多くの不確実性が解消されるでしょうが、これらは確定事項ではなく、ましてや状況が好転するどころか、むしろ悪化する可能性もあります。
 市場が引き続き強気で推移しているのは、これらの問題が解決に向かうことを期待しているからだと思います。ただし、中国と台湾を巡る継続的な緊張の脅威も無視できません。これは、中東やウクライナでのような戦闘状態には至っていませんが、依然として大きな懸念材料です。中国の習主席とトランプ大統領がこの問題について話し合い、互いの地位を明らかにしようとする可能性もありますが、これも非常に不透明なことです。幸いなことに、アジアではまだ戦闘状態には至っていませんが、そのリスクを完全に排除することはできません。
 

[ダン・ローニー]
 15分間で多くの話題をカバーしましたが、2025年を迎えるにあたり、特に注視しているポイントは他にありますか?
 

[ジェレミー・シーゲル]
 私は常に注意深く見ています。特にサイバーセキュリティには注目しています。国家が関与している場合も、それ以外の場合も含め、多くの悪意ある勢力が存在します。「シーゲル教授、夜眠れなくなるほど心配なことは何ですか?」とよく聞かれるのですが、実際には比較的よく眠れています。ただ、朝起きて銀行や証券口座にアクセスしようとして、全国規模で全てがロックアウトされているような事態が起これば、世界が大混乱に陥る可能性があります。それは決して想像上の話ではありません。
 サイバーセキュリティは軍事的な備えと同じくらい重要であり、それを確保するために多くのリソースを投入する必要があります。また、電力網に対する負荷の問題も無視できません。AIの電力需要は非常に大きく、この問題に取り組んでいる人々がたくさんいます。電力供給を増やすための努力が進められている中で、ここ1年から1年半の間に公益事業セクターが比較的好調であったのはその一因だと考えられます。
 これらは、AIがもたらす潜在的な利益を実現するために、確実にリソースを投じるべき2つの重要な分野だと思います。
 


[ダン・ローニー]
 ジェレミー、いつもお話しできるのは光栄です。2025年が進む中で、またお話しできるのを楽しみにしています。ありがとうございました。
 

[ジェレミー・シーゲル]
 こちらこそ。またお話ししましょう。
 

[ダン・ローニー]
 ジェレミー・シーゲルさん、ウォートン校名誉教授でした。
 





2. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Knowledge at Whartonより
(Original Published date : 2024/12/29 EST)



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だうじょん


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