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トランプ政権下のCHIPS法と半導体産業:関税とインセンティブの両睨み
2024年11月26日、タフツ大学 フレッチャー・スクールの教授、クリストファー・ミラー氏を迎え、バイデン政権による直近のインテルへの対応、そして次期トランプ政権での国家および経済の安全保障に関連する半導体産業への政策をテーマとして行われたインタビューを紹介します。
同氏は、金融インセンティブを活用して国内での半導体製造を推進する基本的な枠組みは、もともと初代トランプ政権が打ち出したアイデアであるとして、トランプ政権下では、バイデン政権下からのいくつかの修正は加えられる可能性はあるものの、関税とインセンティブを併用して半導体産業の育成を促進する基本路線に大きな変更はないであろうと述べています。以下ご参考下さい。
尚、今回インタビューを受けているクリストファー・ミラー氏は、ベストセラーとしてリスティングされた「CHIP WAR」の著作者です。この「CHIP WAR」は国内においては、邦題「半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防」として翻訳出版され、国内でもベストセラーとなっています。
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1. インタビュー
[ジュリー・ヘイマン](Yahoo finance)
バイデン政権は、インテルに対するCHIPS法案の助成金を85億ドルから80億ドルに減額しています。この変更は、インテルが暫定的に獲得した30億ドル規模の契約で、米軍向けのチップ製造を行うことを考慮したものです。このバイデン政権による調整は、トランプの政権になる前のCHIPS法による資金分配の過程で行われています。トランプ氏はCHIPS法案に対して批判的な姿勢を取ってきました。
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ここで、「CHIPS WAR:世界で最も重要な技術をめぐる戦い」の著者であり、フレッチャー・スクールの教授であるクリストファー・ミラー氏をお迎えします。
まずはインテルについてお話ししましょう。インテルはある程度苦戦しているように見えますが、このインテルの脆弱性は、米国の半導体産業を国内回帰させようとする試み全体が不安定な状態の上にあることを示しているのでしょうか?
[クリストファー・ミラー](タフツ大学フレッチャー・スクール)
インテルは、世界的にいくつかの製造プロジェクトを遅らせていることを明確にしています。例えば、ドイツではプロジェクト計画が大幅に延期されています。その一方で、半導体業界の他の部分では、新しい生産能力を迅速に確保しようとする動きが見られます。例えば、アリゾナ州では、TSMCがアリゾナの製造プロセスが台湾の主要施設と同等のレベルに達したと発表しています。このように業界全体を見渡すと、状況は一様ではありませんが、米国国内で新たな半導体製造能力を構築するための投資が活発に進められていることは確かです。
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[ジョシュ・リプトン](Yahoo finance)
次期トランプ政権が発足した場合、CHIPS法案に何か重要な変更が加えられると予想されますか?
[クリストファー・ミラー](タフツ大学フレッチャー・スクール)
初代トランプ政権時代に、企業に対して米国国内での生産を促進するためのインセンティブを与えるという構想が生まれたことを忘れてはならないと思います。CHIPS法案が議会で初めて議論されたのも、トランプ政権下でした。台湾企業であるTSMCがアリゾナ州への最初の投資を発表したのも、初代トランプ政権の時期です。今後、特定の補助金が見直されるなどの細かな変更があるかもしれませんが、国内でより多くの半導体を生産するために財政的インセンティブを活用するという基本的な枠組みは、初代トランプ政権が考案したものといえます。
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[ジュリー・ヘイマン](Yahoo finance)
新政権は関税の活用についてより多く語っている一方で、インセンティブのような手法についての言及はかなり少なくなっています。あなたの取材や見聞きした情報から見て、関税かインセンティブのどちらか一方のアプローチの方が効果的だといえるでしょうか。それとも、両方を組み合わせることで相乗効果を得ることができるのでしょうか?この先どう展開していくと思われますか?
[クリストファー・ミラー](タフツ大学フレッチャー・スクール)
これまでの2つの政権、つまりバイデン政権と初代トランプ政権を通じて見られたことは、米国政府が業界のセグメントによって関税とインセンティブという2つの手法を使い分けている点だと思います。トランプ政権では、中国から輸入される半導体に対して関税が引き上げられました。さらに、バイデン政権はその関税率を25%から50%に引き上げています。次期トランプ政権が1月に発足した際、関税政策に関して更なる動きがあることも十分考えられるでしょう。
ただし、業界には関税だけでは解決が難しいセグメントも多く存在します。米国が中国から輸入する半導体の種類は限られており、これらが新たに対象となる可能性はあります。一方で、米国が台湾から輸入している半導体の量ははるかに多く、台湾は経済的に非常に近しいパートナーです。特に多くの主要な米国テクノロジー企業が台湾から半導体を輸入しており、それらの輸入品に関税をかけるのは難しいと考えられます。これら成功を収めている企業は影響力も大きいため、そうした動きは現実的ではないでしょう。
[ジョシュ・リプトン](Yahoo finance)
輸出規制についてもお聞きしたいのですが、次期トランプ政権ではどのような行動が予想されますか。その目的は中国が世界的なAI強国になるのを阻むことですが、実際のところ、どの程度効果があるとお考えですか?
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[クリストファー・ミラー](タフツ大学フレッチャー・スクール)
この政策手法も、初代トランプ政権が主導して取り入れ、その後バイデン政権が継続してきたものの一つです。実際、バイデン政権が終了する前に輸出規制をさらに強化する最終的なパッケージを発表するのではないかという議論がメディアで多く取り上げられています。特に共和党の議員たちは、バイデン政権に対し、規制をより積極的に適用し、抜け穴をふさぐよう求めてきました。そのため、次期トランプ政権が発足した際、規制をさらに厳格化する方向で取り組む可能性は十分にあるでしょう。
中国のように規模が大きく先進的な国のAI進展を完全に遅らせるのは非常に難しいことです。しかし、中国のコンピュータ専門家が半導体をスーツケースに隠して持ち込もうとしたというニュースが報じられると、これらの規制が中国の技術セクターに課題をもたらしていることは確かだと、米国政府内の多くの人が感じています。
すべての進展を止めることはできないにしても、進展を遅らせ、米国企業に優位性を与えているかどうかについては、ワシントンの多くの人々がそうであると考えています。党派を問わず、議会のどの院に属しているかに関係なく、この規制が効果を上げているという認識が広がっているようです。実際、中国の半導体製造やAI分野に与えた影響を見れば、その認識は正当化されているといえるでしょう。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Yahoo Financeより
lished date : 2024/11/26 EST)
[出演]
Fletcher School、Tufts University
クリストファー・ミラー(Christopher Miller)
Professor of International History
Yahoo finance
ジュリー・ヘイマン(Julie Hyman)
ジョシュ・リプトン(Josh Lipton)
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だうじょん
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