FRBのメッセージが ある人には理解できて、ある人には理解できないのは不公平。でも今回は0.5%の利下げ。
9月16日にBloombergが行った元ニューヨーク連邦準備銀行総裁のビル・ダドリー氏へのインタビューのポッドキャスト・コンテンツの内容をお伝えします。今週のFOMCで発表される予定の利下げ幅についての見通しと見解が示されています。
尚、併せて同氏のオピニオン記事が同日のBloombergに掲載されていますので、こちら(↓)も是非ご参照ください。
(1)インタビュー
[トム・キーン](ブルームバーグ)
少しマニアックな話になりますが、これから非常に重要なエッセイに入る前置きとして、少しだけお話しさせてください。すぐに終わりますのでお付き合いください。私たちがリチャード・クラリダ、元FRB副議長と話をする時、彼の背後には「DSGE理論(動学的確率的一般均衡理論)」というアカデミックな背景があります。これはカリフォルニア大学バークレー校出身のカール・ウォルシュという方が提唱したもので、ビル・ダドリーも同じバークレーの流れを汲んでいます。ウォルシュ氏は、中央銀行が持つ契約や合意、信念についての研究を行い、ベン・バーナンキ氏も「中央銀行の考え方において最も重要な論文の一つ」と評価しています。
では、今日の話題である中央銀行の考え方について、ニューヨーク連邦準備銀行の元総裁、ウィリアム・ダドリー氏にお話を伺います。
ビル、私たちは前例踏襲主義を覆してしまいましたが、現時点でこの中央銀行はどれほど遅れをとっているのでしょうか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
正確に言うのは難しいですが、簡単に言えば、インフレと雇用という2つの使命は、今ほぼバランスが取れていると思います。それにもかかわらず、金融政策は依然としてかなり引き締められています。多くの人は、FF金利の中立水準を3%から4%の間だと考えていますが、今の水準はそれより約150ベーシスポイント高いところにあると言えます。
[トム・キーン](ブルームバーグ)
私たちが経済成長やデフレなど、どんなものでもイメージする時、それをピーター・オルザグが「グライドパス」(訳注:現在の経済や政策がどのような軌道を描いて進むべきか?)と呼んでいると思います。今、ビル・ダドリーにとって重要な「グライドパス」とは何でしょうか?そして、その「グライドパス」において、FRBが今すぐに動くべきだということを示していますか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
主な問題は、労働市場が悪化し始めると、その悪化が少しで済むか、大幅に進行するかのどちらかになりがちな点です。一度その境界を越えて、労働市場が自らの悪循環に陥ると、さらに悪化し続ける恐れがあります。だからこそ、今のうちに保険をかけるように、段階的にではなく、より迅速に対応することが重要なんです。
[ポール・スウィーニー](ブルームバーグ)
今日のあなたのブルームバーグのオピニオン記事(【コラム】FOMCに大幅利下げの時到来、50bpが妥当)で、FRBの2つの使命、物価安定と持続可能な最大雇用がよりバランスの取れた状態になってきたことを指摘していましたよね。これからの金融政策は中立的であるべきだと。ただ、現状はその「中立」にはまだ程遠いです。では、どうやって中立に到達すればいいのでしょうか?そして、そのプロセスはどれくらいのスピードで進むべきでしょうか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
今週、FRBが50ベーシスポイントの利下げを行う理由は、迅速に目標に達するためだと思います。良いニュースとしては、今後1年半の間にかなりの緩和がすでに市場に織り込まれていることです。市場では2025年末までに250ベーシスポイントの利下げが織り込まれています。ですので、今日50か25かは絶対的な決定要因ではありませんが、25にしてしまうと市場の期待を裏切る形になってしまいます。FRBが経済見通し(SEP)であと50ベーシスポイントしか示さなかった場合、「今年は72ベーシスポイントしかしない」ということになり、市場が見込んでいる120ベーシスポイントとのギャップが生じます。だから、50ベーシスポイントにすることで、FRBは市場とより一致した姿勢を示すことができ、今の状況にも合致していると思います。
[ポール・スウィーニー](ブルームバーグ)
FRBがもしかしたら必要以上にゆっくり進んでいるのではという懸念、つまりそのことで、インフレが再燃してしまうのではないか、あるいは景気後退が再び議題に上がってしまうのではないかという懸念はありますか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
そのリスクは確かにあると思います。過去にアメリカで、12カ月間の移動平均で失業率が0.5%以上上昇した場合、必ず景気後退が起こっています。実際、今その基準に達している状況です。ただし、この基準が必ずしも絶対的なルールというわけではありませんが、労働市場の悪化がある程度進むと、それが自己強化的な悪循環に陥りやすいということを示しています。0.5%の増加の次に来るのは1.9%の上昇、つまり本格的な不況です。これが、FRBが待つことで抱えてしまうリスクだと思います。
[ポール・スウィーニー](ブルームバーグ)
もしFRBが今回25ベーシスポイントしか利下げしなかった場合、反対票が出ると思いますか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
そうですね、現時点ではそう考えています。先週、ウォール・ストリート・ジャーナルとフィナンシャル・タイムズに掲載された2つの記事によって、FRBが市場の期待を変えたのだと思います。これらの記事は少し疑わしいもので、50ベーシスポイントの利下げの可能性を再び浮上させましたが、それまでその可能性は閉じられつつありました。
この記事のあと、FRBが目に見える形で何か介入したわけではないので、少なくともFRBは25ベーシスポイントではなく、50ベーシスポイントへ市場の期待がシフトしたことに対しては満足しているようです。今後も50ベーシスポイントを織り込む動きが進むのではないかと思います。
[トム・キーン](ブルームバーグ)
ここ数回のFOMCでは、反対票のないFRBが続いていますよね。まるで「愛と平和、みんな仲良し」状態です。今、私たちは、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者を通じて、FRBの政策や議論が進めていますが、これ、どう思いますか?フィナンシャル・タイムズの記者は誰だっけ?そうだ、コルビー・スミスですね。このことはどうなんでしょうか?この状態に至った原因はアラン・グリーンスパンだと考えていますか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
正直なところ、なぜこういう展開になったのか、はっきりとは分かりません。確かに、少し妙な状況ですよね。こういった記事を通じて、あいまいにコミュニケーションを取るのはあまり良い方法ではないと思います。誰かが理解し、誰かが理解できないというのは、公平ではありません。FRBからの明確なシグナルを受け取れるべきです。
おそらく、25ベーシスポイントと50ベーシスポイントの議論が、ブラックアウト期間に近づくにつれて事実上終わりかけていましたが、パウエル議長としては、50ベーシスポイントの利下げを強く考えていたため、その選択肢を閉ざしたくなかったのだと思います。それで、このような形でその可能性を残しておいたのでしょう。結果的には、人々が考え直し、50ベーシスポイントの利下げに対する理論的な説得力を得るようになったのだと思います。それが、今週のFOMCでFRBが50ベーシスポイントを選択する理由だと考えています。
[トム・キーン](ブルームバーグ)
ここで少し区別をつけたいと思います。これはアラン・メルツァーの「50」ではありません。つまり、世界が崩壊しているからといって、私たちがディスカウント窓口に駆け込んでいるわけではないんです。今回の50ベーシスポイントの利下げは、パンデミックの謎や未知の要素によるものなのでしょうか?それとも、情報過多が原因になっているのでしょうか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
そうですね、FRBが少し遅れて対応を始めたからだと思います。1カ月ほど前に、私は7月に利下げをすべきだったと述べました。もし7月に25ベーシスポイント、9月にさらに25ベーシスポイントの利下げをしていたら、今と同じ状況にいたはずです。ここで重要なのは、労働市場がFRBの予想よりも速く弱まっていることだと思います。例えば、雇用者数の大幅な下方修正があり、過去3カ月の雇用増加数は2020年以来最も低い水準になっています。つまり、労働市場はかなり急速に冷え込んでいるわけです。
FRBは、主に労働力人口の増加が失業率を押し上げているという見方に比較的安心しているようですが、労働市場が以前よりも少し軟化しているという兆候がいくつかあります。その速さがFRBにとっては予想外だったのだと思います。
[ポール・スウィーニー](ブルームバーグ)
その労働市場に関する話題に戻りますが、失業率の具体的な数値、例えば見出しになるような数値で、FRBが強く関心を持つレベルというものはありますか?それとも、先ほどおっしゃったような失業率の上昇傾向こそが、FRBを次の一手に動かす要因になるのでしょうか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
そうですね。労働市場が重要なポイントになります。もし失業率が上昇し続けると、FRBはより迅速に対応する必要が出てくるでしょう。その時点では、リスクが均衡しているわけではなく、労働市場に対するリスクが下振れすることになるからです。今はリスクが均衡していると考えられます。つまり、中立的な政策を目指している状況です。しかし、もし労働市場が悪化し続け、失業率が上がり続けると、FRBは「政策を中立にするのではなく、緩和的にすべきではないか」と考え始めるかもしれません。
[トム・キーン](ブルームバーグ)
あなたの文章の中で、副議長のクラリダ氏が言及した内容に触れた重要な部分がありますね。水曜日にFRBが決定を下しますが、前回の6週間前のFOMCよりも良い結果になるとは思えませんが、ディスインフレーションに関する議論の中で、2%のインフレ目標に戻れるのでしょうか?それとも、私が言うところの「ジョン・テイラー2.0」的な、新しい目標点を単純に無視することになるのでしょうか?そのことは我々の考えを混乱させるものなのでしょうか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
FRBは、インフレ率を2%に近づけることができると考えていると思います。例えば、現在の労働市場を見ると、求人件数は2019年と同じくらいの水準にあり、当時はインフレ率が実際に2%を下回っていました。さらに彼らが自信を持てる要因として、賃金インフレの動向があります。賃金上昇率は4%を下回っています。ですので、FRBが「2.5%のインフレで十分だ」と諦めているわけではないと思います。今後数カ月でさらにデフレ圧力が強まると考えているはずです。
[ポール・スウィーニー](ブルームバーグ)
さて、2年債の利回りに注目してみます。ほんの少し前までは5%だと言っていたのに、今では3.55%まで下がっています。市場はもう、かなりの部分を先取りしていると言えるのではないでしょうか?
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
おっしゃる通りです。金融政策がまだ利下げを行っていないにもかかわらず、金融状況は大きく緩和しています。これにより、過去に比べて金融政策がより速く効いているのは明らかです。ただ、それでも短期金利の現行水準は依然として重要です。特に、低所得層や中間所得層は、クレジットカードや自動車ローンなどの負債において、短期金利の影響を大きく受けます。そのため、現在の短期金利水準が無視できない要因となっています。
[トム・キーン](ブルームバーグ)
私のキャリアでも特に印象的な瞬間の一つですが、ビル・ダドリー博士はおそらく覚えていないでしょう。私たちはどこかのイベントにいました。たしか、コーヒーがすごく高かったんです。ビル・ダドリーはその時、しっかり食べていたのを覚えています。そして、アメリカの高齢化社会について話していました。その時、ビルがゴールドマン・サックス的な鋭い視点で「トム、一部の人々は体が壊れているから60歳で引退しなければならない」と言ったんです。ビル、それはあなたの仕事、つまりサイクル理論の一部を示していましたよね。アメリカには二つの顔がある。私たちの金融政策は、富裕層やエリート、金融システムの恩恵を受ける人々のためのもので、貧困に苦しむもう一つのアメリカは無視されているのではないかという議論があるんです。
[ビル・ダドリー](元ニューヨーク連邦準備銀行総裁)
実際、金利引き下げの主な動機は、低所得層や中所得層の労働者の状況悪化だと思います。最近の消費支出に関する報告を見ても、特に低所得層にストレスがかかっていることがわかりますし、これがFRBをより迅速に金利を引き下げる方向に動かしているのではないかと考えています。FRBはその点を確実に考慮していると思います。
[トム・キーン](ブルームバーグ)
ダドリー博士、ありがとうございました。ビル・ダドリーの今日のエッセイは、間違いなく世界中のマーケットで注目されるでしょう。ブルームバーグ・オピニオンをぜひご覧ください。カリフォルニア大学バークレー校、ゴールドマン・サックス、そしてニューヨーク連邦準備銀行の元総裁であるビル・ダドリーによるブルームバーグ・オピニオンの寄稿でした。
(2)オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Podcastsより
(Original Published date : 2024/09/16 EST)
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以上です。
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だうじょん
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