Kairosの小型モジュール原子炉とGoogleのクリーンエナジー・ポートフォリオ
2024年10月14日、グーグルは、小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)を開発する米Kairos Power社と長期に渡る次世代原子力発電の開発および電力購入契約を締結したことを発表しました。
グーグルは、同社のカーボンフリー・エナジーの確保のための取組みの一環として、溶融塩冷却技術を用いたKairos Power社のSMRより電力供給を受ける見込みで、その開始時期は2030年以降になる予定としています。
この投稿では、Kairos Power社のCEOを迎えてのCNBCのインタビューを通じ、SMRの開発プロジェクトや実現性、コスト優位性などについてのコメントを、また、グーグルのエネルギー部門のシニアディレクターを迎えたBloombergのインタビューを通じ、今回のKairos Power社との契約やグーグルのデータセンター拡張に際してのクリーン・エナジー構想についてをお伝えするものです。(インタビュー公開:2024/10/16)
1. Kairos:小型モジュール炉の実現性
[デビッド・フェイバー](CNBC)
Kairos Powerの共同創設者兼CEOであるマイク・ラフォードさんにお越しいただきました。
マイクさん、お招きできてうれしいですし、貴社にとって非常に重要な契約がまとまったこと、おめでとうございます。
SMR(小型モジュール炉)を進めている企業は数多くありますが、Kairosのような企業にとって競争は激しいのでしょうか、それとも需要は十分に存在しているのでしょうか?
[マイク・ラウファー](Kairos Power)
まず、ニーズと需要は十分にあります。我々は他社の開発進捗も追っていますし、彼らの成功も願っています。実際、カーボンフリー電力の需要は尽きることがありません。
我々はGoogleとの契約合意に非常に興奮していますし、500メガワットの新しい容量を展開するための将来の見通しには期待しています。この新たな容量は、さらなる拡張を可能にするためのキーファクターになります。Googleとのパートナーシップには大いに期待しており、これからの展開を楽しみにしています。
[デビッド・フェイバー](CNBC)
その点についてもう少し詳しく伺いたいです。よく話題になりますが、現在の電力需要は非常に急を要しています。これらの計画やプラントが稼働するのはまだ数年先のことですが、これらの2つの課題をどのように整合させているのか、つまり、なぜ今すぐに電力を提供できないのか?また、少なくとも5年待たずに、より前倒しで電力を供給するはできないのでしょうか?
[マイク・ラウファー](Kairos Power)
現実として、原子力技術は非常に複雑で、開発に時間がかかります。小型モジュール炉は多くの経済的な機会を提供し、さらに安全性向上も期待できるので、非常に魅力的なテクノロジーです。Googleは長い間、カーボンフリー技術を推進するビジョンにおいて先駆者的存在で、彼らのポートフォリオは短期、中期、長期の選択肢を組み合わせていると考えています。我々と長期的なパートナーシップを選んでくれたことに、非常に興奮しており、我々は、それほど遠くないところにいます。
Kairosは、テネシー州で小型の実証炉「Hermes」の展開を数年以内に開始する予定で、すでに建設許可は下りています。そして、このプロジェクトが、Googleとの商業炉への足がかりとなって、最初の商業炉を2030年までに稼働させる予定です。
[デビッド・フェイバー](CNBC)
デモンストレーション用の原子炉のことですね。そしてあなたは、初期の反復から得られた進歩を基に、さらに新しいプラントを建設することで、継続的な学習と最適化が可能になり、商業化の加速化を支援できるともおっしゃっていますが、これらの開発目標を達成できる自信はどこから来ているのでしょうか? つまり、Googleに約束している電力供給を実現できるという自信についてお聞かせください。
[マイク・ラウファー](Kairos Power)
良い質問ですね。原子力発電には大きく2つの課題があります。1つ目はコストの高さです。技術、開発、そして展開のプロセスによってコストを削減することが不可欠です。もう1つは、コストの予見性です。これらが組み合わさることで、新しいプロジェクトの開発が非常に難しくなります。つまり、技術だけでなく、実装展開のプロセスが非常に重要なのです。
Kairosでは、非常に斬新な反復的開発アプローチを採用しており、それにより大規模なハードウェアシステムの構築が可能になります。Hermes原子炉のフルスケールテストはすでに完了しており、現在、ニューメキシコ州アルバカーキでそれを解体しています。そして、今後数か月でさらにプロトタイプに近い非核の原子炉システムを構築します。このテストにより、プロジェクトを加速し、システムの本当のコストを理解することができます。また、ヘルメス原子炉は、建設リスクを理解し、商業規模よりも小規模かつはるかに低いコストで実施することも可能にします。
そのため、Google向けのプロジェクトやプラントに取り組むときには、全くの新規システムではなく、今まさに経験を積んでいる実際の建設と構築の経験をもとにしたものとなります。
2. 新たなエネルギー源を求めるGoogle
[エド・ラドロー](Bloomberg)
SMR(小型モジュール炉)については、それが、エネルギー需要の充足や気候目標の達成に向けて大きな変化をもたらすかどうかが重要なポイントです。
[マイケル・テレル](Google)
世界はもっと多くのカーボンフリーエネルギーを必要としており、今回Kairosとの契約を締結できたことは、Googleが15年かけて取り組んできたクリーンエネルギーへの移行において重要な一歩となります。今回が私たちにとって初めての原子力エネルギー契約であり、原子力は、オフィスやデータセンター、私たちが活動する地域において、常に稼働するカーボンフリーのエネルギー源として非常に重要な技術だと考えています。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
この技術にとても興味があります。ご存知の通りですが、同時に経済性や数字にも関心があります。2030年や2035年にこの技術が実用化されたときに、メガワット時あたりのコストがどれくらいになるか、推測でもいいので教えていただけますか?
[マイケル・テレル](Google)
契約の詳細についてはお話しできませんが、興味深いのは、単に1つの原子炉の契約ではないという点です。実際には、複数の原子炉、いわゆる「オーダーブック」と呼ばれる一連の契約を結んでおり、この繰り返しがコスト削減につながり、技術をより早くスケールアップさせる助けになります。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
あなたの目標は2030年までに二酸化炭素排出をゼロにすることですよね。この技術で達成できるのでしょうか、マイケルさん?
[マイケル・テレル](Google)
おっしゃる通りです。私たちは、すべての拠点で24時間365日カーボンフリーを達成することを目指していますが、これは大きな挑戦です。実際、私たちはこの分野で15年間、風力や太陽光を中心とした大規模な契約に取り組んできました。Googleは、風力と太陽光の世界最大級の購買企業の一つであり、これまでに100件以上の契約を結んできました。しかし、24時間365日カーボンフリーを実現するためには、風力や太陽光だけでなく、より多くの技術が必要だと認識しています。風は常に吹いているわけではなく、太陽も常に照っているわけではありません。そこで、先進的な原子力技術のように、常に利用できるリソースが大きな役割を果たします。これは、24時間365日カーボンフリーエネルギーを実現するための非常に重要なステップです。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
ただ、時間がかかることも事実かと思います。そして今まさに、AIや生成AIのトレーニングについての需要が進行中です。現在のエネルギーインフラは、それらの需要を満たすのに十分なのでしょうか?
[マイケル・テレル](Google)
我々は実際に取り組んでおり、それらに基づいて原子力に大きな投資をしているのです。ただ、風力や太陽光、蓄電技術にも引き続き大きな投資をしています。昨年だけで過去最高の数値となる4ギガワット以上の契約を結び、さらに、24時間365日カーボンフリーなエネルギー需要を満たすため、電力会社と新たな技術開発の契約も進めています。投資は、短期投資と長期投資に渡っています。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
メガワット/時あたりの具体的なコストを教えてもらえないと思いますが、SMRが太陽光や風力などの技術と比較して競争力があり、価値があると期待しているのでしょうか?
[マイケル・テレル](Google)
もちろんです。このことがビジネスにとって意味がなければ、そもそも取り組んでいません。私たちが考える重要なことの一つは、「原子力技術は常に稼働している」という特性にあります。これは非常に大きな価値であり、また場所を選ばずに設置できる点もビジネスにとって大きな利点となります。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
あなたは、エネルギー需要に責任を持っており、その役割は非常に興味深いものですが、メガワット/時あたりのコストを計算していないとしても、向こう5年間や10年間のエネルギー需要の見通しを持つことはできているのでしょうか?
[マイケル・テレル](Google)
我々は既に15年間にわたってこの取り組みを続けてきました。需要の成長をしっかりと予測できていますし、必要な資源ポートフォリオも把握しています。ビジネスにとって理にかなった、成長に見合った決定をしているので、順調に進んでいると感じています。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
核エネルギーについては、今本当に注目が集まっています。例えばAmazonの取引では、Kairos PowerやX-energyといった、これまであまり知られていなかった企業も出てきました。今、パートナーシップを結ぶのに十分な数のスタートアップ企業や開発企業は存在しているのでしょうか?
[マイケル・テレル](Google)
現在の状況は、初期の頃の風力や太陽光を思い出します。私たちは、これらテクノロジーによる企業向け電力購入契約(Power Purchase Agreements)の草分け的存在でしたが、当時はプレイヤーもそれほど多くありませんでした。しかし、24時間365日のカーボンフリーエネルギーを実現するためには、原子力だけでなく、地熱や長期蓄電も必要です。他の企業がこの分野に参入しているのを見るのは素晴らしいことですし、もっと多くの企業が原子力の契約に参加することを期待しています。今週だけでも、原子力取引を行う企業が100社増えることを期待しています。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
地熱エネルギーについても検討していますよね。核、地熱、太陽光がどの程度の割合を占めると見込んでいますか?
[マイケル・テレル](Google)
実は、地熱エネルギーは私たちが最初に手がけた先進エネルギー技術の一つです。2021年にネバダ州でプロジェクトを行う契約を結びましたが、現在ではその規模が元のプロジェクトの25倍にまで拡大しています。新しい技術に関しても豊富な経験があり、特に原子力の可能性に非常に期待しています。
3. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
1. Kairos:小型モジュール炉の実現性について
CNBCより
(Original Published date : 2024/10/16 EST)
2. 新たなエネルギー源を求めるGoogle
Bloomberg Technologyより
(Original Published date : 2024/10/16 EST)
4. 関連コンテンツ
<御礼>
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。
だうじょん
<免責事項>
本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。