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JPモルガンの名物CEO:ジェイミー・ダイモン氏が語る経済と政治(10/08)
2024年10月9日から10日の2日間、ロンドンで開催されているJP Morgan Chaseのイベント「Tech Stars Conference」の会場で行われた同社CEO ジェイミー・ダイモン氏(Jamie Dimon)のBloombergインタビューを紹介します。
同氏は特に2008年の金融危機後、JP Morganの経営状態を安定化した経営者として広く称賛され、金融業界の枠組みを越えて広く称賛される一方で、率直で歯に衣を着せない経済や金融に関する大胆な発言によって、時折の世間をサプライズさせたることもあり、一部では賛否が分かれるようなこともあります。
今回のインタビュー内容からは、さほど大胆な発言もなく、一方で、その注目度の高さ故に、メディアが彼の発言を切り取って報道することによって、特定の文脈が過度に強調されたりして、ある程度、真意が歪められて伝わってしまっている可能性はあるかとは思いました。
以下は、インタビューでカバ―されているサブテーマです。
AIやテクノロジーの進展とその影響
イギリスのブレグジットの影響
米国IPOおよびM&Aの停滞要因
FTCの行政課題
米国の財政赤字リスク
地政学的リスクと世界秩序
政府における民間セクター人材の登用
国家安全保障とサプライチェーン
1. インタビュー
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
今日は、ロンドンで開催されているTech Stars Conferenceの会場で、ジェイミー・ダイモン氏にお話を伺います。いろいろなトピックについて伺いますが、その中でも一つ大きなテーマとして、現在、テクノロジー分野の急速な発展が進んでいる中で、一部の人々はその進展を一旦立ち止まって見直そうとしています。
ダイモンさん、これまでに見てきた中で、特に重要だと感じる技術の進展はどのようなものでしょうか。また、これから先に向けて、どのような点に一番期待されていますか?
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[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
まず、技術というものを大きな視点で捉えることが重要です。技術は何百年もかけて、社会を変え続けてきました。農業や印刷機、蒸気機関、電気、インターネットといったように。そして技術は次々と新しい技術を生み出します。インターネットがさまざまな技術やサービスを生み出し、半導体やゴリラガラスがiPhoneのような製品を可能にしたように、今も新たな波が続いています。
今回、私たちはこのテクノロジーをテーマとしたカンファレンスに集まっていますが、これは単にロンドンだけでなく、今や技術のディアスポラ(※)が広がっていることを象徴しています。10年前を振り返ると、技術の中心は米国、特にシリコンバレーやボストン、ニューヨークに集中していました。しかし、今ではそれが世界中に広がり、ベルリンやグラスゴー、エディンバラにも技術の拠点ができています。こうした広がりが、より多くの革新を生むのは素晴らしいことだと思います。特に、今注目されているのはAIです。AIは現実のものであり、これから多くの分野で大きな変化をもたらすでしょう。
もうひとつ触れておきたいのは、技術が進むたびに、必ず「仕事が奪われるのではないか」という懸念が出てくることです。しかし、ここでも大きな視点で見ることが大切です。確かに、一時的に影響を受けることはありますが、長い目で見れば、技術のおかげで人類は進歩し、寿命が延び、GDPが上がり、生産性が向上し、健康も改善してきました。労働時間も減っています。ですから、技術の恩恵は非常に大きいことを忘れないでいただきたいと思います。同時に、技術によって影響を受ける人々をどのように支えるかを、もっとよい方法で考える必要があるでしょう。
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(※訳注)「ディアスポラ」とは、ある特定の民族や集団が、元の居住地や母国を離れて、世界中のさまざまな場所に分散して住むことを指す。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
以前のインタビューで、テクノロジーの発展が一部の職を減らし、他の職を生み出すとお話されていました。この点について、具体的にどのような職がなくなり、どのような職が新たに生まれるとお考えですか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
そうですね、現時点では完全には分からない部分もありますが、現実から目を背けるべきではありません。AIが確実に影響を与えることはわかっています。多くの仕事がAIによって強化されるでしょう。例えば、あなたの仕事も、リサーチが効率化され、質問の数が増えるかもしれません。まるで目覚めた時に、優秀なアシスタントや参謀がすぐそばにいるような状況になるかもしれませんが、実際に人と対面で話すインタビューなどは、引き続き行われるでしょう。
他の仕事に関しても、AIはエラー率の低減や、株式取引のリスクヘッジ、詐欺防止、マーケティングなど、すでに多くの分野で効果を上げています。現段階では、AIが多くの仕事を奪うというよりも、生産性を高め、詐欺による損失を減らすといった形で効果を発揮しています。もしAIが今後、オペレーションやその他の分野で仕事の変化をもたらしたとしても、それに適応していくつもりです。私たちは年間20%の人員入れ替えがあり、そのたびに人々を再教育し、再配置していますので、その点は心配していません。
また、AIが顧客やクライアントとの業務に取り入れられれば、もっと多くのことができるようになるでしょう。成功している企業にとって、成長と拡大が進めば、実際には仕事が増えることがほとんどです。ですから、私にとって重要なのは、企業が成功することであり、AIによるネガティブな影響が出たとしても、それに対処していくつもりです。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
別の米国の大手銀行のトップと話をしていたのですが、その方は、ビジネスや資産は成長し続ける一方で、従業員数は現状維持を見込んでいるとおっしゃっていました。JPモルガンについても、同様にお考えでしょうか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
正直に言うと、まだどうなるかは分かりませんし、あまり事前に決めつけたくはありません。ただ、現状を見ていただければ分かるように、私たちは引き続き世界中の都市で支店を開設しています。また、AIの分野では新たに1,000人の人材を追加し、データサイエンティストやクラウド移行の専門家も採用しています。現在、私たちには44,000人のエンジニアがいます。
ですから、今後は一部の仕事が減少する一方で、新たな雇用も生まれるでしょう。全体として、私たちが成長を続ける企業である限り、雇用は少しずつ増加すると考えています。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
一般に、Tech Starsのようなカンファレンスでは、多くの創業者がIPOを目指し、株式公開を視野に入れる準備を進めることが多いのですが、最近はテック企業が以前ほど上場を急いではいないようです。これは、プライベートキャピタルが豊富であることが一因と言われていますが、この傾向は構造的な変化だとお考えですか?それとも金利などの要因により一時的なサイクルに過ぎないのでしょうか?
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[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
そのことは非常に複雑な話題ですね。確かに、プライベートキャピタル市場があり、企業がそこで資金を調達できることは良いことだと思います。ただ不思議なのは、現在の株式市場が非常に高い水準にある一方で、IPOがあまり活発化していないことです。理由としてはいくつか考えられますが、資本にアクセスできること、タイミングを待っていること、また自社のキャッシュバーンを減らして、多くの現金を必要としていないことなどが挙げられます。ですから、これらの企業が公開市場に出ない理由は一つではなく、いろいろな要素が絡んでいると考えています。
しかし、最終的には健全な公開市場が必要です。なぜなら、ベンチャーキャピタリストたちが資産を流動化したい、あるいはその必要が出てくるからです。つい先ほども、ベンチャーキャピタリストの方々と昼食をとったばかりですが、彼らは皆、いずれそのタイミングが来ると考えています。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
では、今後の見通しとして、上場の動きが再び活発になるとお考えですか?それとも、しばらくは低調なままだと思いますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
正直なところ、確実なことは分かりません。市場がいつまでも上昇し続けるわけではなく、下落することも考えられるので、状況はしばらく落ち着いたままかもしれませんし、他の資金調達手段を見つける企業も出てくるでしょう。多くのプライベートエクイティやプライベートキャピタル、ベンチャーキャピタリストに話を聞くと、彼らは非公開市場での資金調達手段が増えていると言います。
それでも、政策立案者がこの問題を理解することは非常に重要だと思います。米国でも、上場することが難しくなってきています。小規模企業の調査が減っており、上場にかかるコストや訴訟リスク、SECへの提出手続き費用も増えています。ですから、上場をもっと簡単で低コストにし、IPOが増えるような環境を作ることが我々に求められており、そのための方法を見つけ出すことが重要です。実は、昼食の際に10個ほどの重要ポイントを挙げたので、それをしっかり確認したいと思っています。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
今、ロンドンにいますが、ロンドン市場は特にニューヨークなどと比べて遅れを取っていると言われています。特にブレグジット以降、他の分野でも影響が出ているようです。これは一時的な現象だと思いますか?それとも、ロンドンが大きな金融センターとしての影響力を徐々に失っているのでしょうか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
まず、現在の労働党政府が成長や投資、資本市場について話しているのを聞くと、とても良いことだと思います。これらの取り組みは、経済を回復させるために必要です。もしこうした措置を取らなければ、経済の停滞はより長引いてしまうでしょう。実際、多くの企業が流動性の高い、取引のしやすい米国市場に目を向けています。米国には大きな市場があり、ビジネスのしやすさが企業にとって魅力的な環境となっています。そのため、イギリスの企業が上場するためには、NASDAQやニューヨーク証券取引所が現在の場所よりも魅力的な選択肢になっているわけです。この状況がどう展開していくか、今後の動向を見守る必要があります。
ただし、イギリスやヨーロッパがさらに発展できるよう、私たちも協力していきたいと考えています。私は、米国がヨーロッパを犠牲にして有利になることを望んでいるわけではありません。しかし、ヨーロッパが成長や生産性を回復させ、市場を活性化するために、マリオ・ドラギ氏の報告書に含まれる施策に焦点を当てるべきだと思います。例えば、何年も議論されている「資本市場同盟」は、欧州各国の成長を促進するために本当に必要な取り組みです。これを実現することが、今後の成長につながるでしょう。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
ロンドン市場を除いた全体的な話として、第4四半期に向けては何を見込んでいますか?例えば、選挙や地政学的なリスク、ボラティリティの影響で企業が積極的な行動を控える傾向があるとお考えですか?それとも、むしろ活発化すると見ていますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
私はいつもバックログの話をしていますが、チームには「バックログは増える傾向があるので注意しよう」と伝えています。IPOのバックログも確かに増えていますが、実際にそれが実現するかどうかは別の問題です。M&Aに関しても同様で、選挙や規制の影響で停滞している部分があると感じています。これは証明できるわけではなく、あくまで個人的な感覚ですが、確実に影響を受けているように思います。
取締役会のメンバーと話すと、リスク資本が十分か、リスクを取るべきかという点で非常に慎重な姿勢が見られます。米国では特に、取引の完了までに18か月から24か月も待つ必要があり、企業にとって大きなリスクを伴います。特に銀行業界では、取引を行うべきだと考えているものの、その時間を待つことができないために非常に消極的になります。米国の最近の銀行取引の一つは、完了までに3年もかかりました。確か規制上の要件では90日以内に完了すべきだったはずですが、明らかにそのルールは守られていません。このような状況を改善しない限り、活発で健全なM&A市場を取り戻すことは難しいでしょう。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
もし政策が変わった場合についてですが、、、
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
すべてのM&Aが競争に悪影響を与えるわけではありませんが、確かに一部のケースではそうだと思います。しかし、今の米国はまるで「アンチM&A国家」になってしまったようで、それは良くないことだと思います。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
仮に、FTC(連邦取引委員会)のトップが交代し、規制やルールが変わった場合、銀行業界の統合についてはどの程度進むと予想されていますか?
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[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
FTCについて、はっきり申し上げたいのですが、「ハンマーを持つと、全てが釘に見える」という言葉があるように、彼らもそういう傾向があるかもしれません。ただ、それがすべて間違っているというわけではありません。その点は区別して考えるべきです。米国には約4,000の銀行があり、それぞれ異なる状況にあります。たとえば、非常に利益を上げているコミュニティバンクもあり、統合しなければならないという考えは必ずしも正しくないと思います。しかし、特定の業務やクライアント、そして規模によっては、規模の経済が必要になる場合もあります。それは個別に判断されるべきです。
中規模の銀行では統合を望むところが多く、妨げられるべきではありません。彼らは「統合できなければ、結局のところJP Morganのような大手に市場を譲ることになる」と言うでしょう。それは不公平です。これらの銀行も、株主の利益を考慮した上で、取締役会が統合の決定をすべきです。政府がすべての小さな銀行取引に介入するべきだという考え方は、間違っています。政府は、政府が社会的価値を持ち込むのではなく、安全性と健全性を基準に考えるべきです。取締役会が「統合が必要で、安全で健全な銀行に向かうためだ」と判断したなら、それは正しい方向に向けた判断だと思います。
確かに統合がうまくいかない例もありますが、それを理由にすべてを禁止すべきではありません。これらの統合がもっと迅速に進むよう、もう少し柔軟な姿勢で臨むべきだと思います。
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[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
規制の問題を除いても、全体的に市場がどの程度開かれていくかという課題があります。その多くは経済状況に左右されるかと思います。以前、市場のソフトランディングに対してやや悲観的だとおっしゃっており、4月には、その確率を35%とお話されていましたが、現在も同じようにお考えですか?それとも、最近の良好な経済データを受けて、その確率が上がったと思いますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
いや、ちょっと誤解があるかもしれませんが、私は2025年の予測をしているわけではありません。ただ、将来的にインフレを引き起こす要因がたくさんあると思っています。今最も重要なのは、海外で起きている戦争や地政学的な問題です。人道的な被害は非常に深刻ですし、さらに複数の国が西側の利益、イスラエル、ウクライナ、そして米国に対して共謀しているのも大変な問題です。私は、これらを含めた深刻な事態をリストアップしています。経済が「ソフトランディング」することを期待していますが、確実なことではないので、その希望に賭けるのは少し慎重であるべきだと考えているのです。
市場についても同様です。「オープン」と言うとき、それは株式も債券も価値が高い状態であり、低い状態にあるわけではありません。クレジットスプレッドも非常に低いので、市場は開かれています。しかし、「IPOが活発ではない」と言う人もいる一方で、実際には、先週も今年最大規模のIPOが行われました。つまり、「今買いたい企業」に市場は開かれているのです。市場がクローズであるということではありません。時には、企業が上場しない理由は、価格に納得できないからであることもあります。それは市場が閉じているという意味ではなく、価格の問題です。会社の価値を市場より自分たちが知っていると考える前に、一度よく考えるべきだと思います。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
市場の実態が閉じているというより、何を見ているかによって評価が変わるという点もあるかもしれません。また、今後インフレ要因が増えてくるとおっしゃっていましたが、FRBが50ベーシスポイントの利下げを行ったことについて、誤りだったと思いますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
実際には、今と将来をしっかり分けて考える必要があります。現在、インフレは確実に下がってきています。景気後退を避けたい一方で、失業率は上がってきており、金利も大幅に引き上げられました。確かに、金利の引き上げは遅かったものの、急速に5%まで上げたのは正しい判断だったと思いますし、その後のペースを落とすのも適切です。金利が50ベーシスポイントか25か、その違いは大きな問題ではないと思いますが、全体的に良い判断だったと思います。
ただ、将来的なインフレ要因を考えると、世界的な再軍備はインフレを引き起こす要因です。米国をはじめとする世界各国の財政赤字もインフレ要因になりますし、グリーン経済の移行もそうです。また、人口動態の変化もインフレを押し上げる要因です。さらに、エネルギー価格も、2~3年後にはインフレ圧力になる可能性があります。これらは今後影響が出てくる問題であり、そうなった時に対応すべきだと思いますが、今の段階で予測するのは難しいのです。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
財政赤字について触れていただき嬉しいです。私も毎回、財務省の入札を見ていますが、今日もまた行われますね。毎回、懸念されている問題が実際に市場に影響を与え始めるのではないかと気になっています。また、私が話をする投資家はみんな同じことを言います。市場がこれほど高い構造的赤字を、より高い利回りや、少なくとも入札でのボラティリティとして織り込んでいないことに驚きはありませんか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
この点については多くのコメントがあります。コモディティ市場は、実際に何かが起こるまでそれを価格に反映しないことが多いので、今の段階ではまだ起きていないのです。インフレや構造的な問題があっても、財政赤字だけではなく、感情や在庫、資本財の需給も関係しています。そのため、正確に予測するのは難しいです。ただし、米国の巨額の財政赤字を考えると、長期金利は今の水準を維持し、少し上昇するかもしれないと考えています。下がるよりもむしろ上がる可能性が高いでしょう。
市場の反応についてですが、あなたが言った「ボラティリティ」という言葉のように、必ずしも悪いことばかりではありません。時に市場の変動に過剰反応しがちですが、再びそうした状況は起こるだろうと思います。現在、ディーラーの在庫は非常に少なく、大手銀行は市場での取引において非常に制約を受けています。たとえば、今のような状況では、JP Morganが1兆ドルの現金を持っていても、中央銀行の準備金として保持する必要があるため、市場やレポ市場に完全に介入することができません。
量的緩和(QE)がある程度進行すれば、こうした影響が見えてくると思います。ただ、私が間違っているかもしれませんし、仮にその影響が出たとしても、それが大災害になるとは思っていません。少なくとも、JP Morganにとっては大きな問題にはならないでしょう。ただし、政策担当者はそのような市場の動きを嫌う傾向がありますので、対応策を検討しているのではないでしょうか。実際に、今もその対応策に取り組んでいるようです。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
市場が何かの出来事が実際に起こるまで反応しないという点についてですが、
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
コモディティ市場のことでしょうか?
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
はい、コモディティ市場です。
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
株式市場を考えてみてください。市場は5年後や10年後の利益やキャッシュフローを予測し、それに応じて常に調整が行われ、買い手と売り手が存在します。株価はその予測に基づいて変動しますよね。しかし、コモディティの価格動向を見ると、時には将来を予測していることもありますが、実際には「今」の需給バランスに注目しています。ですから、最も重要なのは「今日」の供給と需要です。もちろん、そこには市場のセンチメントや在庫状況、供給と需要のバランスをどれだけ速く調整できるかという要素も加わります。コモディティによって状況は異なりますが、国債を少しコモディティのように捉えてみてもいいかもしれません。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
たしかに、国債を一種のコモディティとして捉えるのは非常に興味深い視点です。特に、選挙が国債にとっての触媒となり、財政赤字がどのような影響を与えるかがより明確になる可能性がありますね。
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
そうですね、多くの人が発言やその影響をチャートにまとめて、財政赤字に対してどうなるかを予測していますが、言ったこと、実際に行うこと、そして起こる結果は全く異なるものです。私はそこまで心配していません。心配すべきは、今の財政赤字がGDPの7%に達しているという事実です。ポール・ボルカー時代に非常に高いインフレがあった頃でさえ、赤字はGDPの3.5%で、1982年の時点で債務の対GDP比は35%でした。それが今では100%に達しています。
今の赤字は、平時としては史上最大級です。赤字は本質的にインフレを引き起こす要因であり、いつかこれに対処しなければなりません。ですから、私は政府に対して、かつてのシンプソン・ボウルズ委員会(※)のような、強力な委員会を設立することを提案したいと思います。この委員会には、議会で上か下かの一括投票ができる権限を与える必要があります。それが唯一の解決策だと思います。もう一つの方法は、市場で何らかの災害が起こり、その時になって初めて対処せざるを得ないという状況を待つことですが、それはタイミングとしては最悪のことです。
それがいつ起こるかは分かりません。来年起こるのか?おそらく違うでしょう。ただ、米国がGDP比120%の債務を抱えることが可能かもしれませんが、その「ホッケースティック型の増加」が始まるまで待つべきではないと思います。それは、リスク管理上、非常に悪い方法です。
(※訳注)シンプソン・ボウルズ委員会
米国家財政責任改革委員会(National Commission on Fiscal Responsibility and Reform)の通称。2010年に設立され、財政赤字と国債の削減に取り組むための提案をまとめた。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
政府について言及されましたが、ピムコのリビー・カントリルさんは公共政策を担当していて、彼女が出演するたびに、海外のクライアントから「ジェイミー・ダイモンはまだ大統領選に出馬していないんですよね?」とよく聞かれるそうです。こうした質問を頻繁に受けることについて、煩わしく感じますか?それとも、むしろ光栄に思いますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
大統領に立候補できないというのは、正直なところ少しもどかしいですね。そもそも、そのチャンスすらなかったわけですから。でも、少しは光栄に感じますし、私はただ政府が正しいことをする手助けをしたいんです。米国をもっと良くするためにやるべきことはたくさんあります。
そして何度も言っていますが、党派に関係なく、これまで良かれと思ってやったことが、実際には最も困っている人たち、つまり下位20%の人々に悪影響を与えてきたしまったと考えています。彼らは寿命が短くなり、収入は20年間上がらず、犯罪が多い地域に住み、学校も機能していません。この現実を市民として認識し、何か行動を起こすべきです。
先ほども言いましたが、多くの政策が予期せぬ結果を生み、それが彼らを苦しめているんです。たとえば、経済成長に関して言えば、最も恩恵を受けるのは低所得層の人々です。私たちは、米国全体を底上げするために、どのように目標を達成するかを冷静に考えなければならないと思います。
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[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
これまで、大統領の候補者の支持を表明していない理由は何でしょうか?大企業のリーダーとして、誰とでも協力しなければならないという考えがあるからですか?それとも、今回はまだ決めかねているということなのでしょうか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
私は自分で決めますし、投票もします。自分の判断で何でもする権利があるんです。市民として、投票する権利も、発言する権利もあります。これまで候補者を公に支持することはしてきませんでしたが、今は何を言うか、何をするか、じっくり考えているところです。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
最近のワシントン・ポストの社説で、次期大統領には民間セクター出身の人物を閣僚レベルで起用し、しっかりと助言することが重要だと述べていましたね。
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
半分ですよね。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
そうです、半分です。どのポジションに民間企業のリーダーを任命すべきだとお考えですか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
私は、政府に対して、米国国民には有能で効果的な政府が必要であり、それを受けるにふさわしいと思っています。でも、今のところ、多くの人はそう感じていないんです。政府にやってほしいことはたくさんありますが、実際にそれがうまく機能しているかと言えば、そうではないことが多いです。もちろん、政府が得意なこともありますし、政府しかできないこともたくさんあります。
ただ、冷静で現実的に、何がうまくいっていて何がうまくいっていないのかを見極める必要があります。時間の経過とともに、政府には「実社会での経験」を持つ人が減ってきています。このことは、経済学者や教師、長年政治家をやっている人々を責めているわけではありませんが、それとは違う経験が必要なのです。現実世界には学ぶべき教訓があります。
例えば、フランクリン・D・ルーズベルトは、第二次世界大戦が迫り、戦車や橋を作る必要が出てきたとき、長年非難してきたGMやGE、デュポンのトップたちを呼び戻し、「生産委員会を立ち上げて、経済を成長させてほしい」と依頼しました。ここで重要なのは、経済を成長させることです。単にビジネスマンをそこに置くことではありません。
また、私たちは市民としてお互いを尊重し、理解し合おうと努力すべきです。次の大統領が本当に統一を目指すなら、違う政党の人をキャビネットに入れるのも良い考えだと思います。ちなみに、それはアイゼンハワーがやったことでもあります。彼は正しい人材を集め、問題をしっかり研究し、正しい政策を実行しました。彼は人を責めたり、侮辱したりせず、常に礼儀正しかったんです。国や特定の階層を卑下するようなことは一切しませんでした。
これは、より良いリーダーシップのあり方だと思います。お互いに怒鳴り合うより、もっと統一感のある方法です。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
仮にビジネスリーダーが任命されたとしたら、あなたならその任命された人に閣僚になるべきだと勧めますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
それは本人たちの判断に委ねるべきです。行くかどうかを推奨するつもりはありませんし、それは彼らの人生であり、どう貢献したいかは彼ら自身の考え次第です。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
最近の投資家向けの手紙やインタビューで、地政学的なリスクにかなり焦点を当てていらっしゃいます。状況が非常に厳しい中で、クライアントにはどのように対応すべきだとアドバイスしていますか?特に各地の緊張がエスカレートする可能性に備えて、どんな準備をしているのでしょうか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
残念ながら、よくこう言われるんです。「ポジティブなニュースを教えてください」とか、「いい話を聞かせてほしい」と。でも、私はそういうことはしません。事実は事実であり、今の現実はかなり厳しいものです。現在、ウクライナでは戦争が続き、犠牲者はほぼ100万人に達しています。ウクライナ側は、2万人の子どもたちがロシアに連れ去られたと報告しています。また、ロシア、イラン、北朝鮮が結託しているのは明らかです。中国は直接関与していないものの、ロシアを支援しています。
中国とロシアは、第二次世界大戦後に米国と連合国が築いた世界秩序を解体しようとしていると公言しています。この秩序は平和を維持するのに成功してきましたが、彼らは別のやり方を望んでいるわけです。それは彼らの権利かもしれませんが、西側諸国にとって良いアイデアだとは思いません。そして、イスラエルでもテロ行為が続いており、3方向、4方向から攻撃されています。これは非常に厳しい状況です。毎日のように米国の軍艦が紅海で攻撃を受けていますし、FBI長官も、米国国内外でのテロの脅威が過去最高だと述べています。
ウクライナ侵攻から学ぶべき教訓は、世界が安全な場所ではないということです。安全だと思い込んで、平和がすぐそこにあると考えるのをやめる必要があります。強力な軍事力が不可欠であり、それにはもっと多くの資金が必要です。私が目にしたあらゆる分析がそう指摘しています。さらに、強固な経済力が必要ですし、国家安全保障のために私たちの活動の一部を優先しなければなりません。また、貿易や金融、開発金融の面で同盟国との連携をもっと強化しなければ、世界を支えることは難しいでしょう。
ですから、これが今最も重要なことだと思います。今後12ヶ月の経済の軟着陸や穏やかな着地と比べれば、遥かに重要です。ビジネスパーソンなら多くの人がそうした経済の問題に直面してきましたが、それほど大きな問題ではないんです。
[リサ・アブラモビッチ](Bloomberg)
それでは、クライアントに対して国家安全保障についてどのように説明しますか?それは車でしょうか?それともAIですか?つまり、私たちが生きる変化する世界にどう備えるべきか、どのようにアドバイスされていますか?
[ジェイミー・ダイモン](JP Morgan Chase)
これは非常に重要な質問です。まず、リスク管理の観点から言えば、どのビジネスもさまざまな結果を想定し、それに備えるべきです。それが実際に起こるかどうかに関わらず、準備をしておく必要があります。戦争が世界経済に影響を与えるか?もちろん、ありえます。インフレや経済成長の停滞を引き起こす可能性もありますし、全く影響がない場合もありますが、そういった事態に備えておくべきです。
戦略に関しては、私たちは実際にポール・ヘンリーという元米国陸軍の国家情報担当者を雇い、研究チームや社内の他のチームと協力して、まさにこういった問題に取り組んでいます。国家安全保障とは何か?という問いに答えるためです。ジェイク・サリバン(米国国家安全保障顧問)が言う「小さな庭と高い柵」という考え方もそうです。何がその庭の中にあり、何が庭に関連しているのか、どうやってその安全を守るのか、ということを考える必要があります。
多くの企業が自社のサプライチェーンを見直し始めています。「メキシコやベトナムから部品を調達している」と言うかもしれませんが、その部品の中に中国からの重要な部品が含まれていることもあります。この調整には時間がかかるでしょうが、どの国も「国家安全保障を守るためにこれをやる」という権利を持っています。
まだやるべきことが多いです。そして、これに関連する問題、つまり「市場の行動」と私が呼ぶものもあります。EV(電気自動車)やリチウム、ソーラー分野において、中国に対する不満が高まっています。不公平な競争があるなら、それは別の問題であり、対処が必要です。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Podcastsより
(Original Published date : 2024/10/08 EST)
[出演]
JP Morgan Chase
ジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)
CEO
Bloomberg
リサ・アブラモビッチ(Lisa Abramowicz)
御礼
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。
だうじょん
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