トランプ相場の高揚:先行き不透明な現段階で株式市場が強気になることに懐疑的(元NY連銀総裁 ビル・ダドリー氏)
2024年11月12日、元ニューヨーク連邦準備銀行総裁のビル・ダドリー氏を迎えたBloombergのインタビューを紹介します。
ビル・ダドリー氏は、トランプ次期大統領の経済政策が市場やFRBに与える影響について語り、関税引き上げや移民強制送還といった極端な公約を実行すれば、FRBとの間に緊張関係が生じる可能性があると指摘。これラ政策によりインフレは加速し、サプライチェーンの混乱が経済成長を鈍化させるリスクが生まれ、金融政策の見直しが必要になる可能性があるとの見解を示しています。
また、株式市場は現在、規制緩和や減税の可能性に過剰な期待を寄せている一方、債券市場はより慎重な姿勢を見せており、タームプレミアムは増加傾向。FF金利も期待ほど下がらず、債券利回りが高止まりすることで株式市場に圧力がかかる可能性があるとしています。また12月のFOMCは、25ベーシスポイントの利下げが見込まれるものの、経済が予想以上に堅調に推移した場合、これが当面の最後の利下げとなる可能性があるとしています。
[主なサブテーマ]
トランプ次期大統領の政策が市場とFRBに与える影響
次期政権への株式市場の反応と投資リスク
FF金利、タームプレミアム、債権利回りの見通し
FRBの独立性と今後の金融政策運営
1. オリジナル・コンテンツ
[アンマリー・ホーダーン](Bloomberg)
FRBについてですが、元ニューヨーク連銀総裁のビル・ダドリー氏は最新のブルームバーグのオピニオン記事で、FRBとその議長であるジェローム・パウエル氏は、ドナルド・トランプ氏が大統領として何をするかについて、推測に基づいた行動はしない、という賢明な選択をしていると述べています。但し、トランプ氏が過激な選挙公約を実行に移すとなると、その経済的影響を抑えるのには苦労することになり、株式投資家がこのリスクを無視するのは危険であろうと指摘しています。
[アンマリー・ホーダーン](Bloomberg)
今ここに、ビルが来てくれました。
ビル、あなたは現場にいた経験がありますが、次期大統領であるトランプ氏とFRB議長の間に生じるかもしれない緊張感について教えていただけますか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
短期的にはあまり緊張は生じないでしょう。というのも、しばらくFRBは金利を少し引き下げると考えているからです。しかし、長期的にはトランプ次期大統領の提案である、関税引き上げや移民の強制送還、財政刺激策がインフレを押し上げ、経済成長に悪影響を与える可能性があります。関税の引き上げによって、サプライチェーンの見直しが求められ、経済環境がさらに厳しくなることが見込まれます。こうした状況に際して、結果的にFRBも対応が必要になると思います。ただ、先週の記者会見でパウエル議長が述べたように、「私たちは推測も予想もしない」という方針ですので、実際にトランプ氏の政策が具体化するまでは行動を起こさないでしょう。したがって、短期的にFRBが反応することは考えにくいですが、もしトランプ氏が公約通りの政策を実行するならば、長期的には経済的に厳しい局面が訪れると考えています。
[ダニ・バーガー](Bloomberg)
只、あなたが指摘したように、もしトランプ氏が大きく、あるいは突然の急激な動きを見せるような場合、中央銀行の対応は経済への影響を十分に緩和するには遅すぎることになるかもしれません。事態がどこまで広がるか分からない段階で早急に対応しない一方で、遅すぎて手の打ちようがなくなることを避けるためには、どのようなバランスを取るべきなのでしょうか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
確かに、トランプ氏がかなり積極的な政策を取る場合、FRBは対応が遅れるリスクがあると思います。FRBは状況の成り行きを見守るでしょうが、実際にそれが起こった時には予想以上に大きな影響を経済成長やインフレに与えるかもしれません。その場合、FRBは少し後手に回ってしまい、対応を急がなければならないでしょう。しかし、それは差し迫った問題ではなく、おそらく2025年後半から2026年前半頃の話です。ちょうどその頃は、パウエル議長が任期を終えるタイミングになります。
[マナス・クラニー](Bloomberg)
ビル、今朝のあなたのオピニオン記事で、債券市場と株式市場が異なる反応を示していることについて触れていました。今日は特に債券市場に焦点を当てたいと思います。
債券市場は激しい動きを見せていて、今朝もまたその影響が感じられます。しかし、私たちはまだ関税も税制も具体的な財政政策についての詳細も分かっていません。大枠のパラメーターはありますが、正確には不明です。債券市場のタームプレミアムについて考えるとき、特に大規模な財政赤字が予想される中で、今後さらにタームプレミアムを積み増す必要があるかどうかが議論の焦点になります。いくつか提示されている数字は少々わかりにくいのですが、現時点で米国債を保有するためにさらに多くのタームプレミアムが必要とされる局面に近づいていると思われますか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
そうですね、経済の見通しや米国の持続不可能な財政路線に対する不確実性を反映するため、もう少しタームプレミアムが必要だと思います。この点については、パウエル議長も先週発言していて、アメリカの財政路線は持続不可能であると述べています。もしトランプ次期大統領が法人税の引き下げや2017年の減税延長などを実施すれば、財政状況は改善するどころか、さらに悪化するでしょう。したがって、債券利回りが上昇する方向が最も可能性が高いと考えています。
また、短期金利についてのFRBの方針に対する市場の期待も変わってきています。数か月前には、FF金利の底は3%以下になると予想されていましたが、現在はおよそ3.75%で底を打つと見込まれています。FF金利が高ければ、それに伴い債券利回りも高くなるのが自然な流れです。
[マナス・クラニー](Bloomberg)
つまり、今後の方向性としては利回りが上昇するということですね。パウエル議長の記者会見での反応について、いろいろな方に話を伺ってきましたが、今後FRBからは、もっと積極的で、強い姿勢を示すような言葉が増えると思われますか? 2025年のFRBの発言には、どのような表現が求められるでしょうか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
FRBは、発言の内容をかなり控えめにすると思います。成長とインフレ見通しを踏まえて、適切だと考える金融政策を決めていくでしょう。そして、それが実際に経済に現れるまでには時間がかかります。トランプ次期大統領が具体的に何をするかが、まだ正確にはわからないため、FRBの発言は対立的なものにはならないと考えます。先週、記者がパウエル議長にトランプの政策方針にどう対応するかを尋ねた際、彼は「コメントしない」とだけ答えていました。このことからも、短期的には、FRBは状況を注視しつつ、現時点での経済状況をもとに政策を進めていく姿勢でいると考えられます。
[ダニ・バーガー](Bloomberg)
さて、一歩引いて市場の反応について見てみます。あなたのコラムにも書かれているように、株式市場の反応は困惑している様です。株式市場の強気派は減税や規制緩和の可能性に非常に期待していますが、彼らは何か見落としているのでしょうか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
そうですね、株式市場は「規制緩和が進み、法人税も引き下げられて企業の利益率が向上する」という見方をしているようです。確かにそれも一理あるとは思いますが、市場が見落としている点は、トランプ政権の他の政策がもたらす影響だと思います。たとえば関税の引き上げはインフレの加速を招き、生産性の低下や混乱を引き起こす可能性があります。また、強制送還は労働供給に影響を与えますし、財政が持続不可能な状態になれば金利の上昇を招きます。
債券市場と株式市場を比べると、債券利回りが上昇していることで株式市場に対して圧力がかかっているように感じます。現在の株価はすでに非常に高い水準にありますので、債券利回りが上がると株式市場には重荷となるでしょう。今の段階で株式市場に強気になるのは、私には難しいものに見えます。
[アンマリー・ホーダーン](Bloomberg)
そのような状況を踏まえると、12月のFOMCはFRBにはどれほど難しいものになるのでしょうか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
それほど難しい判断にはならないと思います。先週、パウエル議長がかなり明確に説明していたように、経済の状況、インフレリスク、労働市場はおおむねバランスが取れていると見ています。FRBは現時点で金融政策が依然として引き締め的だと考えているため、中立に向けてゆっくりと戻しているところです。ですので、12月には25ベーシスポイントの利下げが最も可能性が高いと考えます。ただ、もし経済が予想以上に強いままで、インフレも想定より粘り強い状況が続く場合には、12月の利下げがしばらく最後の利下げになる可能性もあります。しかし、それはあくまで経済指標次第です。現在のFRBはデータに依存した方針を取っており、金利の方向性は緩やかに下向きではありますが、経済成長が引き続き堅調であるため、慎重に進めています。
[アンマリー・ホーダーン](Bloomberg)
先週、パウエル議長は、ドナルド・トランプ次期大統領が彼を解任しようとした場合どうするかについて、記者から何度も質問を受けていました。また、今朝のウォール・ストリート・ジャーナルでは、2018年にパウエル氏が当時のムニューシン財務長官に、「解任の試みに対しては戦う」と伝えたと報じられています。このFRBの独立性について、ご懸念はありますか?
[ビル・ダドリー](前NY連銀総裁)
次期大統領がFRBの独立性に敵対的な姿勢を見せている場合、FRBの独立性について懸念を抱くのは当然だと思います。中央銀行が独立しているべき理由は、歴史的に見て、独立した中央銀行の方が経済成長やインフレに関する目標を達成するための金融政策の運営がうまくいっているからです。つまり、独立性が結果を良い方向に導いているという事実に基づいているのです。もし人々が、大統領の圧力によってFRBが方針を変更すると考えれば、不確実性やリスクが増し、政策方針も短絡的なものになってしまいます。そのため、私はFRBが独立性を維持しようと努めると考えています。
先週、パウエル氏もその点についてはっきりと述べていました。任期を早期に辞めるつもりかとの質問に対しては「NO」と回答し、トランプ氏に自分を解任する法的権利があるのかという点についても「NO」と断言しました。パウエル氏は「自分の任期は全うするつもり」と明言しており、その任期は2026年5月まで続きます。この問題についての議論については、打ち切りたい意図が見て取れました。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/11/12 EST)
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だうじょん
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