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3冊の小説本を書く推論コストは既に1ドル以下。ボタン一つで上場できるが急ぐ必要はない。[Databricks]
2025年1月に1億ドル以上の資金調達を実施し、現在の評価額620億ドルに達するDatabricksのアリ・ゴドシCEOを迎えてのBloomberg Technologyのインタビューコンテンツを紹介します。
気になるIPOについては、必ず上場すると明言しつつも、適切なタイミングを見極めることが重要で、2025年内の可能性もあるが現実的ではない。むしろ、企業の競争力を高めることに重点を置いているとの同CEOのコメント。インタビューの主なサブテーマは以下の通りです。
2月13日発表されたDatabricksはSAPとの戦略的パートナーシップについて
マイクロソフトとの既存パートナーシップについて
AIの推論コストの低下とアプリケーションの拡がりについて
IPOに向けたロードマップについて
1. インタビュー
[ジャッキー・ダバロス](Bloomberg)
あなたはSAPとのプロジェクトに2億5000万ドルを投資する予定ですね。そして、10億ドルの売上を見込んでいるとのことですが、このSAPとのパートナーシップが既存の市場とどのように差別化されるのか、お聞かせください。
※ 上記質問の背景については上掲のDatabricks社プレスリリースを参照。
(PR要約)Databricksは、SAPとの戦略的パートナーシップのもと、新製品「SAP Databricks」を発表。これは、SAP Business Data CloudにDatabricksのプラットフォームを統合するもので、SAPが管理する重要なビジネスデータとDatabricksのレイクハウス、データエンジニアリング、AI機能を組み合わせ、Unity Catalogによるガバナンスの下でデータ活用が可能な環境を提供するサービス。Databricksは最近資金調達した150億ドルの一部の2億5000万ドルを当該プロジェクトに充てる計画
[アリ・ゴドシ](Databricks)
そうですね、これほど大きなパートナーシップは過去に一度しかなく、それが10年前のマイクロソフトとの提携でした。ですから、今回の取り組みは業界にとって画期的なものになると考えています。お客様と話すとき、「素晴らしいプラットフォームがあります」と説明しても、必ず「SAPのデータはどうなるの?」と聞かれます。SAPのデータは、世界で最も重要なデータの一つで、Fortune 500企業の90%以上の台帳や財務システムを支えています。しかし、これまではこのデータが閉ざされていて、自由にアクセスすることができませんでした。
今回のパートナーシップによって、SAPのデータブックを購入した企業は、そのデータに直接アクセスできるようになります。そして、そこからエージェントシステムやAIの開発をすぐに始めることができます。だからこそ、私たちはこの取り組みに非常に期待しており、今回の10億ドルの資金調達のうち、2億5000万ドルをこのプロジェクトに充てることを決めました。
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[ジャッキー・ダバロス](Bloomberg)
もう一つ重要なパートナーであるマイクロソフトですが、競争相手としての側面も強まっています。特に、マイクロソフトのMicrosoft Fabricは急速に成長していると言われています。Databricksを選ぶべき理由は何でしょうか?
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[アリ・ゴドシ](Databricks)
そうですね、マイクロソフトは今も変わらず重要なパートナーですし、実際にDatabricksの投資家でもあります。ちなみに、AWSやGoogleからも同様に投資をうけています。ただ、ご指摘のとおり競争もありますし、各社が自社の製品を展開しています。
SAP Databricksの大きな強みは、SAPのすべてのデータを活用できる点です。他のプラットフォームでは、このようなビジネスデータを一括で扱うことはできません。しかも、このデータは単なる財務台帳の情報だけでなく、SAPの提供するさまざまなシステムのデータが統合され、意味づけされた形で利用できます。例えば、出張管理のConcur、HR管理のSuccessFactors、調達管理のAribaなど、SAPのさまざまなプロダクトのデータが一元化されています。これらのデータが統合され、強化された形で利用できるのがSAP Databricksの最大の違いです。他のデータプラットフォームでは実現できない価値を提供できるのです。
[ティム・ステノヴェック](Bloomberg)
最近、推論コストについての議論が活発ですが、実際に推論コストは下がっているのでしょうか? また、それはDatabricksにとってどのような意味を持ちますか?
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[アリ・ゴドシ](Databricks)
そうですね、推論コストはここ数年ずっと下がり続けています。私たちは、ソフトウェアの最適化に特化した研究チームを持っており、そこに力を入れています。ハードウェアについては自社で開発していませんが、ソフトウェアによる最適化の影響は非常に大きいです。実際、ソフトウェアの改良だけで2.5倍から3倍のパフォーマンス向上を実現しています。
このコスト削減が何を意味するかというと、AIを活用したアプリケーションの開発が格段に安価になったということです。少し視点を広げて考えてみると、今ではAIを使って100万語のテキストを生成するのに1ドル未満しかかかりません。これは、小説3冊分に相当します。AIで小説を3冊書くのに1ドル以下というのは、驚くべきことですよね。
この推論コストの低下によって、さまざまなAIアプリケーションが生まれる可能性が広がります。ただし、こうしたアプリケーションを実現するためには、特別なデータが必要です。そして、それこそが企業にとって最も重要な要素になります。企業は独自の貴重なデータを持っており、そのデータをAIとどのように組み合わせ、推論プロセスと統合していくかが鍵になります。これこそが、今後のAIアプリケーション開発の本質的な課題だと考えています。
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[ティム・ステノヴェック](Bloomberg)
最近、115億ドルの資金調達を完了し、評価額は620億ドルにも達しました。これで資金調達は終了でしょうか?
[アリ・ゴドシ](Databricks)
そうですね、絶対にないとは言いませんが、今回の資金調達は非常に大きなものになりました。今は、この資金をどれだけ賢く活用できるかが重要だと考えています。AIの優秀な人材への投資、AIシステムの開発、そして市場開拓に注力していきます。
また、グローバルな展開も強化しており、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカなど、すでに大きなビジネスを展開している地域でさらに拡大していきます。現在、社員数は約8,000人ですが、急速に成長を続けていきたいと考えており、引き続き採用も積極的に行っています。ですので、今は成長に集中していますが、今後の資金調達については、絶対にないとは言い切れませんね。
[ジャッキー・ダバロス](Bloomberg)
我々のベンチャーキャピタルチームの報道によると、レイトステージのスタートアップは昨今のIPOの減少に伴い、追加資金の調達が難しくなっているようです。Databricksの今後について、IPOの予定はあるのでしょうか?
[アリ・ゴドシ](Databricks)
これまでも何度もお話ししていますが、私たちは必ず上場する会社になります。それは間違いありません。ですので、するかしないか、ではなく、いつするかの問題です。
ただし、私たちは市場のタイミングを狙うのではなく、市場で勝つことを目指しています。だからこそ、今回資金調達したその資金をしっかり活用していきます。特に、SAPとの大規模なパートナーシップを通じて、最も重要なデータをDatabricksで扱えるようになります。今後は、このデータを活用し、AIを通じてお客様の成功を支援することに集中していきます。私たちの最大の関心は、どうやって市場で勝ち抜くかという点にあります。
[ジャッキー・ダバロス](Bloomberg)
実際に上場を決断するにあたって、どのようなマイルストーンを設定しているのでしょうか?
[アリ・ゴドシ](Databricks)
正直に言うと、私たちはすでに上場する準備は整っています。ボタンを押せば、すぐにでも上場できます。
ただ、今の優先事項が何か、そして上場することでどれだけのメリットがあるかが重要なポイントです。今回の15億ドルの資金調達の一部は、社員の流動性確保にも充てています。つまり、流動性の問題は解決済みですし、事業やプロダクトへの投資もしっかり行えています。そのため、現時点では急ぐ必要はありません。
とはいえ、私たちは毎日この判断を見極めています。もし上場が最善の選択肢であれば、すぐに踏み切るでしょうし、そうでなければプライベートのまま事業を進めます。ただ、私の考えでは、そう遠くない将来に上場することになると思います。
[ティム・ステノヴェック](Bloomberg)
具体的にはどれくらい先の話でしょうか? 2025年? 2026年? 何か言えることはありますか?
[アリ・ゴドシ](Databricks)
そうですね、最も早くて今年という可能性はありますが、正直、それはあまり現実的ではないと思います。それ以上のことは言えませんが、5年も先の話ではないのは確かです。
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[ティム・ステノヴェック](Bloomberg)
あらためて確認したいのですが、上場前に追加で資金調達を行う可能性はまだ残っているのでしょうか?
[アリ・ゴドシ](Databricks)
そうですね、今回の資金調達を行う際、正直なところ、市場の関心が十分に集まるかどうかは分かりませんでした。実際、価格を高く設定しすぎて資金が集まらないのではないかと心配していました。実際、1~2年前に同じような試みをしたレイトステージのスタートアップの中には、思うように資金を調達できなかった例もありますからね。
しかし、結果としては、当初予定していた額の2倍もの関心が集まりました。約200億ドルもの投資希望があったのです。投資家からは、資金配分を減らさないでほしい、10億ドル投資させてほしい、このラウンドをリードさせてほしい、といった電話が相次ぎました。AIとデータに対する投資熱は異常なほど高まっており、私がこの業界に携わってきた10~15年の間でも、これほどの熱狂を見たことはありません。
つまり、市場にはまだ多くの資金があるのですが、それが向かう先はAI関連企業に集中しています。もしAI分野でなければ、状況はまったく違っていたかもしれません。これは、二極化した市場のようなもので、AI企業には無限ともいえる投資の関心が集まる一方で、AI以外の企業は成長が鈍化し、投資家の関心も低く、企業価値の評価も低迷しています。今の市場は、まさにそういう状況といえます。
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2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Technology
(Original Published date : 2025/02/14 EST)
3. 関連コンテンツ
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