金融政策をめぐるFRBと市場の認識ギャップが市場に不安定さをもたらす(ダドリー)
2025年1月6日、元ニューヨーク連銀総裁のウィリアム・ダドリー氏を迎えてのBloombergのポッドキャスト・インタビューの内容を紹介します。
ダドリー氏は、昨年12月の経済見通しサマリ(SEP)が市場にもたらした混乱、FF金利の目標や中立金利に対するFRBと市場とのギャップ。これらは、FRBと市場とのコミュニケーションにその原因があるとしています。
今回のインタビューでは、このFRBのコミュニケーションの改善というテーマから会話は始まってはいますが、途中で議論は空中戦の様相を見せることとなり、とどのつまりは、FRBが考えるリスクと不確実性の共通認識を互いに高める必要があり、その点においてFRB側に改善余地がある、ということがダドリー氏が指摘するポイントであるようです。ご参考下さい。
1. インタビュー
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
まず、FRBについてです。今週、投資家たちはFOMCの議事録の公開を待ち、さらに月末の金利政策決定にも注目しています。
元ニューヨーク連銀総裁のビル・ダドリー氏は、中央銀行に対してコミュニケーションの改善を求めており、次のように述べています。「FRBのコミュニケーションの質が向上すればするほど、市場参加者は政策がどのように変化する可能性があるかを正確に評価できるようになる。これにより、金融政策と金融環境との間の連動性が強まり、政策の伝達スピードと精度が向上する」。
(2024/01/06 Bloomberg 掲載記事)
ここで、ビル・ダドリー氏に直接お話を伺いたいと思います。ビル、番組にご出演いただきありがとうございます。そして、新年あけましておめでとうございます。FRBが今、コミュニケーションに苦労しているのはどの分野で、具体的にどの問題についてでしょうか?
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
先月の経済見通しサマリ(SEP)は、多くの人にとって混乱を招いたと思います。特に、2025年のインフレ予測が大幅に上方修正された点が問題でした。しかし、パウエル議長がその原因を説明するのは難しかったようです。参加者たちが共通の前提条件に基づいていないことが理由です。一部はトランプ政権の関税や移民政策の影響を考慮しており、そうでない人もいました。また、それを考慮しているかどうかさえ明言しなかった人もいました。このように、それぞれの予測には異なる前提が含まれているため、FRBが何を予測し、どのように対応しようとしているのかを見通すのが非常に難しい状況となっています。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
ビル、現在のFRBの問題は、コミュニケーションの取り方にあるのでしょうか。それとも、この経済がどの方向に進むのかを正確に見極められていないということなのでしょうか。
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
どちらもです。FRBは、トランプ政権の政策にどう対応するかを伝えるのに苦労しているようです。たとえば、関税が広範囲に及ぶ場合には影響は1つですが、ワシントン・ポストの報道が示唆するよう、もっと限定的な場合には異なる影響が生まれます。このように、トランプ政権の政策がどうなるかについては大きな不確実性があり、それに加え、経済そのものがどう動くかについてもFRBにとっては不確実な状況にあります。
経済についてのFRBの重要な課題は、労働市場が今後も弱まっていくのかどうかという点です。パウエル議長は、労働市場が依然として弱まっていると考えており、これ以上の悪化を望んでいないことを明確にしています。ですから、金曜日の雇用統計の発表が非常に重要になっているのです。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
リアクション機能については、多くの人々にとって1つの大きな疑問です。FRBが実施しているシナリオ分析とはどのようなもので、その分析結果に対してどのような対応をしようとしているのでしょうか? FRBは、そのようなシナリオ分析を行っているのでしょうか? それとも、結果的にFRBは、ますますデータ依存型になっているのでしょうか?
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
FOMCの前には、確かにシナリオ分析が行われています。スタッフは、ティールブック(Tealbook)と呼ばれる資料を準備し、その中には基準となる予測が含まれていますが、同時に、状況が異なった場合に経済がどのように展開するかを示す代替シミュレーションも含まれています。この点で、経済見通しの要約にも課題があると思います。それは、モード予測に基づいており、FRBの担当者が予想していることと異なる展開が起きた場合に何が起こりうるのかについて全く触れていないためです。
FRBができることの一つとして、他国の中央銀行が行っているように、合意された予測を提示するという方法があります。ただし、国内各地に散らばる19人の委員会でそれを実現するのは難しいでしょう。しかし、スタッフの予測を公表するという選択肢もあります。FOMCの前にはスタッフの予測が必ず用意されており、それを公表すれば、FRBの基準となる前提条件についてより明確な理解が得られるはずです。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
でもビル、コミュニケーションの問題が生じる理由の一つは、FRBが政策について語ることを望んでいない、または語るべきではないと考えているからではないでしょうか。FRBは、メンバー全員が政策についてもっとオープンになるべきだと、あなたは考えているのですか?
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
関税や不法移民政策が経済に大きな影響を与えるのは明らかで、2025年には特に重要な要素になるでしょう。ですから、経済予測を立てる上でこれを考慮しないわけにはいかないと思います。ただし、FRBがこの問題について積極的に話したがらないのは、政治的な議論に巻き込まれることを避けたいという姿勢があるからだと思います。また、それによってFRBが政治的な機関だと見なされることを懸念しているのだと思います。結果として、FRBはこの問題について考慮はしているものの、それを表立って言及しないようにしているようです。
[リサ・アブラモヴィッチ](Bloomberg)
現在のあなたの懸念の中心は、FRBのコミュニケーションについてでしょうか? それとも、政策にについて何か違うアプローチを取るべきとお考えなのでしょうか?
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
現時点でFRBはかなり良い立ち位置にいると思います。経済が順調であることを理解しており、インフレがやや粘着的な状況にあるため、様子を見るのが妥当だと考えています。また、今後の政策について多くの不確実性があることも理解しており、パウエル議長も、不確実な状況ではペースを落とすべき、と述べています。これらはすべて理にかなっていると思います。
市場とFRBの間で大きな食い違いがあるのは、中期から長期的にFRBがどこに向かおうとしているのかという点です。FRBはFF金利を3%に向かわせるとしていますが、市場は4%程度になると見込んでいます。この差はかなり大きいです。中立的な金融政策とは何かについても意見が分かれています。FRBは、今よりかなり緩和的な政策が中立であると考えていますが、市場は現在よりわずかに緩和的な政策が中立だと見ているようです。
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
では、あなたの在任中にトランプ氏が政権に就任したとき、あなた自身はどのように予測をしたのでしょうか? 政策変更を事前に予測したのか、それとも導入されてから対応されたのでしょうか。
[ウィリアム・ダドリー](前NY連銀総裁)
私は、予測の中により多くのリスクがあると考えていました。そのため、私にとってもっとも大きな変化は、リスクと不確実性が高まっていることについて議論するようになった点です。そして、まさに今回、それが起きていることだと思っています。
バイデン政権からトランプ政権への移行は大きな変化を伴っています。バイデン政権下では、政策がどのようなものかが比較的明確で、過去2年間は新しい政策イニシアチブがほぼありませんでした。しかし、トランプ政権の時代に入ると、多くの政策変更があることはわかっていますが、その内容が何であるかはいまだ不明です。
このため、不確実性の低い時期から、はるかに不確実性の高い時期に移行しており、このことが市場に織り込まれる必要があると考えています。実際、過去数カ月間にわたって債券市場が低調だった理由の一つがここにあります。
[ジョナサン・フェロ](Bloomberg)
本日はお時間をいただきありがとうございます。元ニューヨーク連邦準備銀行総裁のビル・ダドリーさん、2025年以降を見据えたご見解を伺いました。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2025/01/06 EST)
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だうじょん
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